駅前広場付近は、
日曜日ということ、タミの占いを求める人ごみということもあり、
大騒ぎになった。
ネネとハヤトは人ごみを掻き分け、
静かなほうへと歩く。
ネネはどうも力が入らない。
もしかしたら死んでいたかもしれないと思うと、
ネネの心が冷える。
ハヤトがネネの手を握った。
あたたかいとネネは思う。
身を寄せ合うようにして、ネネとハヤトは静かなほうへと歩いていった。
駅から少し歩いた小さな公園に、
ネネとハヤトは落ち着いた。
ベンチに座り、一息つく。
「大丈夫か?」
ハヤトがそっと声をかける。
「少し落ち着いたよ」
「そうか」
「それでもまだ、ちょっと怖いね」
「そうか」
サイレンが遠くで聞こえる。
もしかしたらマスコミとか言うのも聞きつけているかもしれない。
離れて正解だったのかなぁと、ネネはぼんやり思う。
ネネはハヤトの手を握る。
あたたかいと思う。
「ハヤトの手はあたたかいね」
ネネはつぶやく。
ハヤトがびっくりしたように目を見開いた。
そして、照れくさそうに空いた手で頭をかく。
「油絵の具も使うから、ちょっと荒れてるんだけどな」
「働き者の手だよ」
「…ありがとう」
ハヤトはぼそぼそとつぶやく。
しっかり伝わっている、感謝の言葉。
ネネはどこかで荒れた手のことを感じた気がする。
夢の中だっただろうか。
荒れた、あたたかい手が導いてくれた。
暗闇の中を導いてくれた。
ネネはうっとりと目を閉じる。
居心地がいい。
遠くはやっぱり騒がしい。
ヘリの音まで聞こえる気がする。
一歩間違えば大惨事。
それをタミが止めたらしいと、人ごみには、うつっているかもしれない。
数日のうちにタミは全国に広まるだろうか。
よく当たる占い師から、
ある意味での救世主に。
そして、代価はどんどん増える。
ネネのイメージの中で、線の化け物が代価を食う。
代価を食って膨れる。
ネネはどうすればいいのだろう。
化け物が世に出ないようにするべきか。
でも、その化け物が世界を救うかもしれないとしたらどうなるか。
線を辿るばかりだけれども、
ネネはどうするべきだろう。
ハヤトは握っていたネネの手を、ぎゅっとつかむ。
「不安なのか?」
ぼそっとつぶやかれる声。
「いっぱい不安だよ」
隠すことはない。
ネネはありのままに言う。
「どうすればいいのか、わからないよ」
ネネは半ば泣き言になる、それを言葉にする。
「みんなが幸せになれば、佐川さんもいていいのかもしれない」
「うん」
「でも、佐川さんのいる意味は違うと思う。当たる占いじゃないと思う」
「うん」
「代価を得るために利用されているように見える」
「そうか」
「佐川さんに逆らうべきかな。それても、見守るべきかな」
「俺が思うに」
ハヤトが話し出す。
「佐川には何かが集まってきている気がする」
「なにか?」
「力になるものかもしれないけれど、危険なもの」
「危険」
「そう、集まった何かを一度断ってみる必要があると思う」
ネネは思う。
レッドラムの線みたいなものを、一度断つべきなのかもしれないと。
「なくしてもなお、佐川は必要とされると思うんだ」
「占いとかなくても?」
「佐川に逆らうとか言う意味じゃなくて、一度断つべきだと思うんだ」
「うん…」
ネネは化け物をイメージする。
あの線の化け物。
断ったらタミはどうなるのだろうか。
タミに力がなくなるような気がする。
占いのなくなったタミ。
人ごみはなくなるだろう。
タミが鎧にしていた、人がいなくなる。
何もかもなくしても、タミを必要とするもの。
いるのだろうか。
タミにはそういう人がいるのだろうか。
「佐川さんに家族はいるのかな」
「わからない」
ネネは思う。
家族とは、何もなくても受け入れてくれるものじゃないかと。
いるだけでいいのだと。
いいことがあればともに喜び、
悪いことがあればともに怒り悲しみ、
心が帰る場所。
タミにそういう場所があればいいのにと、ネネは思った。