「流山さぁん」
七海が声を上げて流山を探している。
ネネと勇者は、あとについていく。
「光の池ってどっち?」
「もうすぐです。昭和島の真ん中です」
七海が走る。
ネネも勇者も走る。
七海が窓のほうを見る。
ぴたっと止まった。
「七海?」
「光の池に流山さんがいます」
「見えるの?」
「ここから、あっちのほうです」
七海があっちという方向を示す。
そこは確かにきらきらしていて、人影がある。
ただし、二つ。
「流山さん!」
七海が大きく声を上げる。
聞こえていないのか、二つの人影は微動だにしない。
「くそっ」
七海が悪態をつくと、走り出した。
「追いましょう」
勇者が言うまで、ネネはぼうっとしていた。
気を取り直して七海を追う。
きらきらしているその池は、
何か現実味が薄いような、そんな気がした。
七海が昭和島の奥へ奥へと行く。
昭和島の奥、多分上のほう。
七海があっちと示したほうに、ネネたちはやってくる。
七海が跳ねるように最後の扉を開ける。
そこは光。
まぶしさにネネは目を細める。
「来たのね」
タミの声がする。
「君たちまで巻き込みたくはない」
流山の静かな声がする。
「早くこの島から出なさい」
「いやだ!」
七海は駄々っ子のように否定した。
「流山さん、昭和にかけるって言ってたじゃないですか!」
七海は自分が知らないうちに泣いている。
「自分の子どもに昭和を伝えたいって、言ってたじゃないですか!」
ネネは目が慣れない。
膨大な光の中に、
タミも流山も七海もとけてしまったように見える。
「そうなの?」
タミがゆっくり問いかける。
「それが私の夢だ」
流山が答える。
「夢なら、かなえればいいじゃないですか!」
七海が叫ぶ。
「早くここから出て行きなさい」
「嫌だ!」
「私は彼女に器を渡す」
「嫌だ嫌だ!」
ネネの目に、頭を振る七海がうつる。
ようやく慣れてきたらしい。
タミが中空にいる。
光の池のそのそばに、流山がいる。
ネネはポケットに手を入れた。
鋏がある。
「佐川さん」
ネネは呼びかける。
「なぁに、友井さん」
タミはにっこり微笑む。
「佐川さんも、こっちの世界に来ていたんですね」
「友井さんもね」
「佐川さんは何が望みですか?」
「完全な世界」
タミはよどみなく答える。
「わたしを中心にした、完全な世界が望み」
「完全、ですか」
「なにか?」
「そのために代価を食っていたのですか?」
「代価はささげられたもの。どうしようと勝手よ」
「代価があればあるほど、歪んでいても?」
「何が言いたいの?」
「佐川さんの望みは、完全な世界ではないと思うんです」
タミは黙った。
「逆に歪みきっている気がするんです」
「何が言いたいの?」
「佐川さんが一番よく知っているはずです」
「ふぅん」
タミが片手を振った。
ネネの身体が横に飛ぶ。
壁にぶつかった。
「何が言いたいの?」
タミはにっこりとして尋ねる。
いつでも飛ばせるように、片手をいつでも振れるように。
「佐川さんは自分の欲だけの望みを持っています」
「おだまり」
タミが腕を振る。
ネネは中空に浮く、
「邪魔ね、最初からこうすればよかったわ」
タミの目が見開かれる。
ネネに見えない手が握られる。
「佐川タミ!覚悟!」
勇者が透明の剣を振る。
タミは僅差でかわす。
「どいつもこいつも邪魔なのよ」
ネネは解放され、勇者とタミが対峙する。
「理の器を渡せばいいものを、どうしてみんなで邪魔するのよ!」
タミが叫ぶ。
空間がねじられる。
嘆きのノイズが吹き込んでくる。
「みんなみんなみんな!どうしてあたしの夢がかなわないのよ!」
ネネは感じる。
佐川タミは自分の欲だけで何かをかなえようとしている。
勇者がノイズの中で剣を構える。
タミが身構えた。