『ネネ!』
頭の中に声がする。
ネネは真っ暗の中にいる。
嘆きのノイズが目を支配しているのだろうか。
『ネネ!見えていますか!』
ドライブが声をかけてくる。
「見えないよ。真っ暗だ」
ネネは動けない。
「光が何も見えないような感じ」
『一時的に視界が奪われていますね』
ドライブが判断する。
ネネの思考にちょっと入り込んだのかもしれない。
「どうすればいい?」
『やがて視界が赤くなるまで、目を閉じていて』
「こうかな」
『そうです』
ネネは目をしっかり閉じた感じになる。
ここは光の池のはずなのに、
星すら見えない闇夜にいきなり放り出された気がした。
(おかあさん、おかあさん)
ネネの心の表で泣いている。
(ゆうしゃになりたいよ、なりたいよ)
ネネは二人分の涙を背負っている。
そのうち一人の声が、
ネネはタミに似ていると思う。
小さな子だ。
おかあさんと泣いている。
「どうしておかあさんなの?」
ネネは心に問いかける。
(おとうさんはいないから)
ある程度思っていた答えが返ってきた。
ネネは意識を集中する。
「おとうさんは、なんでいないの?」
(わかんない)
小さな子どもでは、死も離婚も理解できないのかもしれない。
(おかあさん、みんながひどいことをいうんだよ)
小さな子は、すんすんと泣き出した。
ネネの視界が赤くなる。
まぶたを通した光の色だ。
ネネはゆっくり目を開ける。
身体に感覚が戻ってくる。
(おかあさん、おかあさん)
(なんで、ゆうしゃになれないんだよ)
二人の声も聞こえる。
ネネの体に水分が加わっている感じがする。
痛みも加わってくる。
壁に何度か飛ばされている。
さっきの嘆きのノイズで真っ暗になって、
そして、光の池に落っこちたのだろう。
踏んだり蹴ったりだ。
ネネは自分の手を確認する。
鋏は握られている。
よく落とさなかったものだと思う。
きらきら光る光の池、
その周りで勇者とタミが戦いを演じている。
占いを良しとしないもの、
占いで救われたと嘯くもの。
占いは救いじゃないんだろうか。
タミも救われないなら、誰が一体得をするんだ。
ネネはそう思って、はたと思い当たる。
タミが救われていないと感じた?
心の表の声が重なる。
母を求めている声は、救われていない。
あの声は救われていない。
ネネは光の池から起き上がろうとする。
深くはないが、一瞬おぼれかける。
あわててふちに手をかけ、あがる。
この水が周りの雲から取った水だとしたなら、
これは涙の水だ。
『ネネ』
「うん?」
『ネネはどうしたいですか?』
さっきネネが思い当たったことを、ドライブは多分感じている。
「決まってるでしょ」
『はい?』
「みんなハッピーエンドだよ」
タミも救われて、勇者も戦うことがなくなって、
流山が子どもに映画を見せて、
七海が戦闘機を磨く日常が来て、
朝凪の町に戦闘区域がなくなって、
ネネは、ネネはどうすれば幸せだろう。
『ネネはどうしたいですか?』
ドライブが再び問う。
「花を咲かせたいよ」
ネネは野暮ったい髪をばさっとふる。
「誰も忘れない、きれいな一花咲かせたいよ」
ネネは微笑んで見せるつもりになる。
「そうすればきっと幸せだよ」
『そうか…そうですか』
「そういうことだよ」
ネネはたんたんとステップを踏む。
かんかん!
警報だ。
今更だねとネネは思う。
危険上等。それを覚悟でここまで来たんだ。
身体は重い。水を吸って重いし、鈍痛もする。
泣いてる子も、泣いてる小さなネネも、
みんなみんなハッピーエンドにするんだ。
力を持ってない頃のタミが言ってた。
世界のカードが出てて、完結だとか調和だとか言ってたじゃないか。
よくわかんないけど、そうするんだ。
それがネネの運命だとすれば、
粋な運命だねとネネは笑える。
花を咲かせたい。
ネネは心にそういうと、また、戦いにかけていった。