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第146話 選択

音がなくなる。


ネネは意識が動いていることに気がつく。

時間が止まっている?

ネネの身体は動かない。

ハヤトに向けて差し出された手が、

そのまま空中で動けない。

『ネネ』

ネネの頭の中で、鈴を転がすような声がする。

「ドライブ」

『ネネはこれでいいですか?』

ドライブは問いかける。

『ネネは線を操れます』

幾度となく聞いた言葉だ。

ネネはそんな実感はない。

『選んでください、ネネ』

「選ぶ?」

『このまま落ちるか、それとも』

「それとも?」

『理を越えて、線をいじってしまうか』

「理を越えて?」

『そう、理の器も関与できないところに関与します』

「そんなこと」

『一つをいじれば、連鎖的に、いろいろ変わってしまう危険を持っています』

ネネは考える。

そんなことをしたら、世界が変わってしまうかもしれない。

でも、こんな世界は嫌だ。

ネネが死んでしまうのではない。

ネネが落下して死んでもいいけれど、

ハヤトや、タミを救いたい。

『線をいじることは危険ですけれど』

「うん」

『この世界を変えることもできます』

ドライブは多分、ネネの考えを読んでいる。

その上で多分問いかけている。

「答えはわかっているでしょ」

『わかっています。でも、ネネからそれを聞きたいです』

ネネは目を閉じた感じをする。

ようやく微笑めたタミ、

約束をしたハヤト。

彼らを失うのはとても嫌だ。


ネネは目を開けた感じになる。

止まっている世界、

目の前にドライブの小さな身体。

薄ぼんやりと光っている。

『ネネは気がついていましたか?』

「わかんない、そうかもしれないとは、なんとなく思ってた」

ドライブがうなずく。

『私が、線を切り替える装置です』

ドライブは宣言する。

『運命も何もかもが、私の前では無力です』

ネネは、そうだろうなと思う。

線を切り替える力の前には無力だろう。

『でも、一度しか線を変えられません』

「だろうね」

『一度切り替えると、私は死にます』

「うん…」

ネネは、なんとなく予感していた。

ドライブに何かがあるだろうということ、

ドライブとはこれっきりのような予感。

「ドライブ」

『はい』

「あたしはいい飼い主だった?」

『角砂糖がとてもおいしかったのです』

「うん…」

『寝床もとても暖かかったのです』

「うん…」

『ネネはとてもいい飼い主でした。そして、いい友人でした。親友かもしれません』

視界が涙でめちゃめちゃになる。

何でみんな、そうやって幸せになろうとしないのだろう。

『幸せですよ』

ネネの前でドライブが小首をかしげる。

『今も、幸せです』

「ドライブ」

『名前をありがとう、居場所をありがとう』

「うん…」

『ネネのそばは、とても居心地がよかったのです』

視界が歪んだ中で、ドライブがたずねる。

『願い事はなんですか?』

それをかなえれば、ドライブは、死ぬ。

ドライブを生きさせると、みんな死ぬ。

それでもネネは願ってしまう。

「ドライブ」

『はい』


「落ちている彼らを救って」

ネネは願う。彼らの未来を。


『望みはそれでいいですか』

「うん」

『ネネが救われなくても?』

「十分だよ」

ドライブはネネの頭の中でため息をつく。

「ドライブ?」

『連鎖して世界が変わるかもしれません』

「それでも願うよ」

『わかりました』


ドライブが輝きだす。

ネネはまぶしさに目を閉じる。

ネネのまぶたの裏で、ドライブが小さな手を振る。

『バイバイ、ネネ』

「ドライブ」

言いかけたそこで、ネネの周りが動き出した。

また、落下だ。

ネネは目を開ける。

ハヤトが落ちている。

ネネはせめて手を取れないかと、もがく。

タミもハヤトも失ってはいけない。

ネネは空中であがく。

ネネの上で、光が放たれた。

ネネは感じる。

あれはドライブの光だ。

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