赤い花の瓦礫が転々としている道を、
ネネとハヤトは走る。
一路、ちょっと高台の神社に向けて。
ハヤトは鎧のままでついてくる。
「へんなの」
ネネはハヤトのほうを向いて、そんなことを言う。
「なんとでも言え」
「へんなのへんなのへんなの」
「連呼されるとへこむ」
「そうか、ハヤトが変なんだ」
「変変って言わないでくれ」
「だって変だもん」
ハヤトは息をつく。
ネネもそのそばで息をつく。
坂道を少し上がってきた。
朝凪の町が少しだけ遠くに見える。
海にも町にも赤い花。
朝凪の町が真っ赤に染まっている。
「あの雲も赤い花に飲み込まれたのかな」
「あの雲?」
「凪ぎでないと大変な雲」
「ああ、あれか…」
嘆きのノイズ、夢の傷跡。
「みんな癒されてしまったんだと俺は思う」
「癒された?」
「友井の花で、みんな飲み込まれたんだ」
「そんなことしてないよ」
「そんなことをしたんだ」
「むぅ」
ネネはうなる。
「多分、あのネズミの力がどんどん連鎖したんだと俺は思う」
「連鎖」
ドライブもそんなことを言っていた。
「友井の願いをかなえると、何らかの形が変わってしまう」
「理も変えてしまうって言ってた」
「友井が何を願ったのかはわからないけど、そうしてみんな変わったんだ」
「よかったのかな」
「よかったんだよ」
ハヤトがネネの頭をぐりぐりとなでる。
「よかったんだ、これで」
「うん…」
「さぁ、もう少しで神社だ」
「うん」
ネネは走る。
ハヤトも走る。
空は朝焼けで赤い。
朝凪の町の凪いだ海を思う。
赤い花が落っこちていて、
海も空も焼けていて真っ赤だ。
ネネが選んで咲かせた花。
ドライブの力で咲かせた花。
笑い声が思わず伝染するような町。
もう、これきりかもしれない町。
みんなに挨拶していない。
端末は、もうない。
少しだけ、帰りたくない。
もう少しだけ、心が片付くまで、
ドライブがいないことをちゃんと認めるまで、
この町にいたかった気がする。
ネネは振り返る。
ドライブがころころと頭の中で笑うような感じ。
風が喜んでいるのか、
足音が喜んでいるのか。
鈴を小さく転がすような気持ちのいい音。
気のせいだと思う。
ネネは前を向くと走り出した。
ハヤトにすぐに追いつく。
すぐに競争になる。
ハヤトは鎧を着けていても速い。
ネネは必死になる。
ハヤトも必死になる。
神社までものすごいスピードで走る。
神社の鳥居をくぐったところで、
二人は息をついた。
「何でそんなに必死なのよ」
「負けるのは嫌いだ」
「…同感」
荒い息をつきながら、二人は笑う。
「さぁ、帰ろうか」
ハヤトが歩き出す。
ネネも続く。
二人が歩くと、空気が区切られたように変わる。
そういう領域に変わったのだろうと思う。
音もなく周りの景色が歪む。
ハヤトが歪む。
ネネの身体も思考も歪む。
ぐにゃぐにゃしている。
ネネは自分を保とうとする。
ゆらゆらした世界の中、ネネは小さなネネを見つける。
笑っている。
「もう、泣かないよ」
泣いていた小さなネネが、
遊びの輪に加わっていくのを、ネネは見る。
赤い花の花畑に、
子どもがたくさん遊んでいる。
走って笑って転がって、
思い思いに遊んでいる。
(もう、沈めてもいいかな)
ネネは思う。
もう、心のネネは泣かない。
ネネの心は書き換えられた。
ネネが選んだから。
ネネの心の奥に、小さなネネが沈んでいく。
いつでも逢える、笑顔のネネ。
いろいろなことがあっただろうけれど、
小さなネネにとって辛かったことを、
乗り越えていった笑顔のネネ。
(またね)
ネネはそう、心に思うと、
小さなネネを抱きしめて、心に沈めた。
神社から歪んだからだが元の形に戻ろうとしている。
ネネはゆっくり自分の身体を思い描いた。