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第12話 宣戦布告

「勝っ……た……」


 吹き荒れる勝利の風にリズはただ彼が浮かべる笑顔を瞳に焼き付けることしか出来ない。

 あらゆる感情が混ざり合った末に真っ白と化した思考だが時間と共に彼女は理性を取り戻し、オーディエンスもまた現実を理解していく。

 無残な姿で地へと倒れるレヴダ、戦闘不能を意味するように化身は消滅し、クォーツブラストを握ることすらままならない。

 明確に映し出される勝者と敗者、同時に会場を包みこんだのは……地鳴りを超える万雷の歓声。


「マジかレヴダを倒したッ!?」


「スゲェナニモンなんだよあいつッ!」


「嘘……ナイン・ナイツが」


「夢じゃないよな!?」


 絶対的であったナイン・ナイツ勢力の撃破。 

 ましてや学園に入りたての無名なる新参者がランキング9位を叩き潰してしまった。

 その結果はオーディエンスの感情を昂らせるには十分過ぎるものであり、周囲の手のひら返しにシリウスは軽快な笑みと共にピースを突き出す。

 快く歓声に応えるがその顔には何処か疲労感なるのもが浮かび上がっていた。 


『大丈夫ですかマスター? あまり余裕はないと思いますが』


「分かっちゃう? これも別次元の影響か、もう身体バキバキで息切れヤバいよ」


 シリウスの軽口とカリバーの正論。

 ケララの一戦でも忠告されていたように別次元介入の影響から彼の身体は万全とは言えない。

 そう一日二日で肉体が万全になるはずもなく、確実に勝つ為にギアを最大限までに上げたシリウスの肉体には凄まじい負荷が掛かっていた。 

 全身の筋肉痛に堪らず冷や汗をかく彼だがゆっくりとこちらに迫っていたリズに気づくとニパッと犬のような笑みを浮かべる。


「あっリズちゃん! どうだった俺ちゃんの華麗なる戦い、見惚れた?」


「ッ……えっ、その」


「言葉を失っちゃうくらいってこと!? いやぁお姫様にそう思われるなんて光栄だね〜!」


 相変わらずのふざけた内容だが王子様の言葉はあながち間違いでもなかった。

 リズはこの衝撃に語彙が追いついかない、どう形容すればいいのか、どのような言葉を使えばいいのかまだ分からないのだ。

 右腕どころか、ナイン・ナイツすらも返り討ちにしてしまったこの神速使いへ掛ける言葉を。


「あ……ありがとう、私を……助けてくれて」 


 だが一つだけ分かるのは彼のお陰で自分は助かると共に彼は味方であること。

 唯一分かりきっている事実にリズは真っ直ぐにまずは感謝の気持ちを言葉にする。

 しかし、この言葉を皮切りに緊張がほぐれた彼女は謎めいた王子様へとあの発言を畳み掛けた。


「でもちょっとストップ!? 助けてくれた事は感謝する、それはそれとして……アンタ、シレッと私に結婚宣言してなかった?」


 冷静になったことで浮かび上がるあの宣言。

 彼の無双に忘れかけそうになっていたがなんの前触れもない「お姫様になってくれ」という言葉はどういう意味かと彼女は問いただす。


「あぁ〜あれ? あの言葉は」


 と、当然でもあるリズの質問に答えようとしたその矢先だった。


「ガハッ……!? 馬鹿な……認めん……認めてたまるかこのゲームを……!」


 被せるように怒りの負け惜しみが鳴り響く。

 振り返る先には一度意識を手放していたレヴダがいつの間に再び身を立ち上がらせていた。


「ボクは高貴なる男レヴダ・ワイルズ……生まれながらの勝者にして、未来が約束された……選ばれし者だッ!」


 最早彼に対する羨望の眼差しはない。

 敗北を決して認めない姿に慈しみを抱けるはずもなく、オーディエンスは冷ややかな視線を送るがそれが彼の怒りを点火する。


「何だその目は……? それがナイン・ナイツに向ける目だと言うのか? そうだと言うのか!? 平民風情共がッ!」


 逆上したレヴダは苦痛な表情も忘れ、全てを荒げるが如く咆哮を上げる。

 シリウスだけではない、自分へと憐れみを向ける存在全てをなりふり構わず蹂躙しようとする殺意の昂りに支配されながら自身の武器を掴む。

 腐っても彼はナイン・ナイツ、高出力のリファインコードも相まって全てを破壊しようと吹っ切れればオーディエンスへの被害は免れない。


「まだやる気かワイルズ家の坊っちゃん? 潔く負けるのもカッコいいと思うけど」


「黙れェッ! そうだ……貴様のせいだ、貴様が現れなければボクは……ボクはァァァッ!!」


 怒り狂うレヴダは遂に凶行へと走る。

 ゲームは決したが認めることはなく、ただ死なば諸共と言わんばかりの特攻を仕掛けていく。


『愚かな、マスター戦闘態勢を』


「分かってるよカリバー、こいつはもう一回キツくぶっ叩かなきゃ」


 もう一度お灸を据える。

 完全に戦意を喪失させようとシリウスが神速を繰り出そうとした瞬間だった。


『ッ! マスター右ですッ!』


「えっ?」


 カリバーの警告に反応して本能的に右方へと身体を大きくずらした刹那、彼のいた軌道上には鋭利に尖る黒鉄のナイフが超高速で横切る。

 肉眼で捉えるのもやっとな不意打ちはレヴダのクォーツブラストを軽々と弾き飛ばした。


「ッ……!」


「あぐッ!? 何だ! 何処か……ら」


 驚愕のレヴダ。

 肉体まで持っていかれる勢いに堪らずバランスを崩すと突然の奇襲に周囲を見渡す。

 誰がこのようなことをしたのかと必死に元凶を探すがその正体は彼を青褪めさせることになる。


「往生際が悪いね、その不埒さが仮にもナイン・ナイツを名乗る者の姿かい?」


「貴様は……!?」


「「「ッ!?」」」


 神経へと染み渡る透き通る声。

 白銀のポニーテールと淡紫の瞳を持つ少女。

 小柄な体型からは想像できない大人らしい妖しさを醸し出す存在は冷徹にレヴダを凝視する。

 純白のグローブが艷やかさを生む強く鋭利な双眸を携えた透き通る美少女は場の空気を支配すると優雅な佇まいで舞い降りた。

 ビスクドールにも似た美貌から放たれる一挙一動に騒がしかったオーディエンスの一部は黄色い声援を送り、やがては深い静寂に帰結する。


「なっ、アンタはまさか!?」


「誰だあのかわい子ちゃんは?」


……そう言えばアンタにも伝わるのかしら?」


「ッ……! なるほど、そういうことか」


 リズの言葉にシリウスは息を飲む。

 疑問符を浮かべていた脳内は瞬時に警戒へと切り替わると同時に僅かに笑みを浮かべる。

 彼の様子の変化に何かを察したリズはそのまま突如乱入した正体を明かすのだった。


「クラスト・ヒュッケバイン……ナイン・ナイツの一角ヒュッケバイン家の一人娘であり、レヴダを有に超える学園3位のの実力者よ」


 【クラスト・ヒュッケバイン】

 ・学園総合ランキング3位__。

 ・獲得ポイント365000pt__。


 能ある鷹は爪を隠すとはよく言ったもの。

 レヴダとは違い、自身の権威を見せびらかすような素振りや態度は全くない。

 しかし身動き一つとることを許さないと言わんばかりの研ぎ澄まされた眼差しは威圧を与える。

 空間を支配する神々しい雰囲気と全てを見透かすような視線を送る彼女にレヴダの顔は瞬く間に血の気が引いていた。


「クラスト、貴様が何故ここにいる!?」


「同じナイン・ナイツの晴れ舞台だ、鑑賞は奇特な話でもないだろう? しかし……見れたのは凄惨な三文芝居だったが」


「三文芝居だとッ!?」


「怒りをぶつけるかい? でも無駄さ、君は重大なルール違反を幾つも犯した。ゲームオーバー、退場だよレヴダ」


「退場だと……? この神に認められしボクが脱落などするはずがないだろうがァァァッ!」


 大袈裟な手振りと嘲る笑みに堪らずレヴダは殴りかかるが我武者羅な一撃は容易く躱され、入れ替わりと同時に背部へと蹴撃が襲う。

 よろけた肉体に追い打ちをかけるようにクラストの手元から投擲されたナイフはレヴダの地面真下へと突き刺さる。


「手を煩わせるな」


 断罪を告げる指鳴らし。

 瞬間、夥しい雷撃が地から吹き出し、雷撃はレヴダの身体を飲み込むと迸る。


「アグァァァァァァァッ!?」


 黒煙に飲み込まれた悲鳴と荒れ狂う雷の嵐。

 蒼白い断罪の雷撃が止む頃にはレヴダは白目を剥き、地へと倒れ伏しながら意識を手放す。

 深手を負っていたとはいえ一方的な瞬殺、容赦を知らない雷撃の使い手は醜態を晒すレヴダを足蹴りで意識の喪失を確認する。

 垣間見えた強者の片鱗に周囲の目が奪われている中、淡々とクラストは美声を奏でた。


「ゲーム中に意識を手放すのはルール上、敗北を意味する。いやオーディエンスを手に掛けた時点で奴は敗北か、どの道なんとも未練がましい男だった。同じナイン・ナイツとして謝罪しよう」


 言葉の後に瞳はシリウスを捉える。

 振り向きながら捧げられた表情は相手の心を溶かすような魅力を持ち合わせていた。


「シリウス・アーク」


「……へぇ君もナイン・ナイツなのか。こんな美しい子猫ちゃんとは」


「子猫……ハハハッ! そう形容されたのは初めてだね。やはり君は噂通り面白い」


 軽快な掛け合いに潜む言い難い緊迫感。

 笑顔ながら互いに交わうことはない亀裂のような物が浮かび上がる。

 暫しの沈黙という名の見つめ合いの牽制、しかしやがてクラストは視線を逸らすと軽快に勝者へと言葉を発していく。


「しかし見事な勝利だった。落第生ワーストプレイヤーと称されていた存在が彼を倒すとは。ボクが仮説するに……君の食えない言動の数々は彼にゲームを認めさせる為なのかな? 自らが犯したルール違反を消滅させる為のね」


「あらら、普通にバレちゃったか」


 クラストの問い詰めに頭を掻きながらあっさりと何かを認めたシリウス。

 置いてきぼりとなっているリズは堪らず何が起きているのかと彼を凝視する。


「ど、どういうこと?」


「そこの子猫ちゃんの言う通りさ。ゲームでの乱入は原則禁止、だが仮に相手プレイヤーが乱入者に対し参戦権限もしくは対戦相手変更に同意すればその限りじゃない」


「まさか……奴にゲームを認めさせるために、アイツの怒りを揺さぶって扇動するために?」


「こいつのお陰だよ、リズちゃんの汗と結晶のお陰でこのルールを知れて逆手に取れた」


「ッ! それは……私の」


 懐から取り出されたのは可能性がシリウスの為にと一夜で作り上げた書物。

 少しでも助力の足しになれば程度にしか本人は考えていなかったが結果的に彼と、そして自らの窮地を救った要因へと変わっていた。


「だがヒュッケバイン家の子猫ちゃん、君の推理は半分が正解で、半分が不正解だ」


「ほぅ? それは一体?」


「奴を扇動したのは事実。だがリズちゃんを推しに決めて王子様になる事に偽りはない。俺は彼女に命を懸ける、これは俺達の宣戦布告だ」


「学園破壊計画、フフッ……なるほど、君も彼女と同じく作戦遂行を行う訳か。今の発言、は聞き逃さなかったよ」


「ボク達?」


 意味深な言い回しに不適に微笑んだクラストは沈黙するレヴダを踏みつけながら秀麗な細長い人差し指はある方向を差す。


 息をするのも許さないような威圧__。

 言われなくても分かる、周囲のオーディエンスとは一線を画す存在感を放つ特別なる席次へと鎮座する七人の被りのない男女達。

 その方角へと視線が導かれるとシリウスの顔つきは険しく、更に笑みから一切の余裕を消し飛ばしてリズは驚愕の声を漏らした。


「ッ! ナイン・ナイツ!?」


 その事実に気づき始めたオーディエンスはたちまち席からの立ち上がりを見せる。

 学園を支配する美男美女の若き才能達は多種多様な視線、だが明確にシリウスを秩序を乱す警戒すべき存在として見下ろしを行っていた。


 【ゼベラ・アリアンロッド】

 ・学園総合ランキング8位__。

 ・総合ポイント180000pt__。


 白鳥の帽子を傾け、艶やかな黒髪を揺らしながら、豊満な肉体を惜しげもなく見せつける妖艶な貴族の女性。

 シリウスを足先から脳天まで舐めるような扇情的視線で見つめ、口元に扇を添えて笑いを漏らす。


 【パチョネーゼ・スコーピオン】

 ・学園総合ランキング7位__。

 ・総合ポイント210000pt__。


 跳ねた赤髪を激しく揺らしながら笑い続ける女。

 黒と紫を基調としたファッションに身を包み、派手なアイシャドウとピアスが目を引く。

 笑い声は甲高く、まるで獲物を前にしたハイエナのように彼女は狂気に包まれゆく。


 【キリエ・バルフレア】

 ・学園総合ランキング6位__。

 ・総合ポイント225700pt__。


 服越しに見える卓越された秀麗なる肉体に共鳴しながら、歓喜の声を上げる。

 鍛え抜かれた体躯を誇る男であり、全身に彫られた精密な紋様が戦士としての誇りを象徴した。


【スエル・サバト】

 ・学園総合ランキング5位__。

 ・総合ポイント290000pt__。


 黒と金を基調とした法衣を身にまとい、額には奇妙な紋様が刻まれた装飾が施されている。

 どこか神聖な雰囲気を醸し出す美少年の目には狂信的な光が宿りゆく。


 【シュラウド・フェリクス】

 ・学園総合ランキング4位__。

 ・総合ポイント314000pt__。


 和装束に身を包む鬼の面で素顔を隠す赤黒が交じり合う秀麗なる存在、華奢な痩躯からは考えられない不気味さを持つ麗しくも残酷な乙女はお面越しにシリウスを灯火と形容した。


 【ゼラ・ティターン】

 ・学園総合ランキング2位__。

 ・総合ポイント450000pt__。


 大地のように揺るがぬ風格を持つ巨躯の女傑。

 短く刈り込まれた黒髪と岩のような筋肉を誇り、腕を組んで動かずとも、その場にいるだけで与える威圧はまさに不動の要塞と呼ぶに相応しい存在。


 【ラスター・クロノス】

 ・学園総合ランキング1位__。

 ・総合ポイント605000pt__。


 ただ静かに、すべてを見下ろすように佇む男。

 漆黒の装束に身を包む長く艶やかな白髪を靡かせながら、全てを知っているかのような眼差しでシリウスを見つめる。

 無駄な言葉を発することなく、ただその存在感だけで絶対を示した。


『これが……彼らが』


「百年後のナイン・ナイツ達か……!」


 相まみえる時代遅れの最強と究極の新世代。    

 その邂逅は時代の動きを意味し、最強ながら挑戦者であるシリウスは見下されるその視線達へと対抗するように不適に笑う。

 彼から放たれていく闘争心にリズは息を呑み、ヴィルドの白薔薇と呼ばれた片鱗の表れはオーディエンスを盛り上げる。


「フフッ……初めてだよ、ボク達を目の当たりにしても怖気づかずに笑う人間は」


 用無しであり、恥晒しでしかないレヴダを蹴り飛ばしたクラストはシリウスを視線で一瞥する。


「怖気づく? あり得ないな、俺はお姫様の願いを叶える、ただそれだけだッ!」


「アッハハハハハッ! いいね、痺れる敵がいるからこそゲームは盛り上がるって話さ」


 宣戦布告に白銀の雷姫は高笑いを響かせる。

 優雅に踵を返した去り際に一言。


「君が選んだ道に逃げ道はない。ボク達はボク達で完膚なきまで引導を渡す、神速を使う反逆の王子様? それでは……チャオ」


 勝者と敗者、そして新たな脅威。 

 複雑に思惑は交錯し、クラストは迸る稲妻と共に場から姿を消すのだった。

 徐々に縮小していく彼女の姿にカリバーを握る手は血管が浮き出る程に力強くなる。


「シリウス……」


「さて、やることは決まったねリズちゃん」


 振り返ったシリウスは改めて手を差し出す、自分が命を懸けると決意した推しのお姫様へと。

 歪な平穏に支配され、止まっていた時を動かす清々しく激情的な表情と共に。


「俺達で学園破壊計画を成し遂げる。変えようじゃないか、この学園を、この世界をッ!」


 彼は救済の王子様か、破滅を導く悪魔か。

 どちらにも取れる救いのヒーローは孤独だったお姫様を身勝手に照らす。

 その言葉は波紋のように学園中へと広がり、散りばめられたあらゆる種を芽吹かせるのだった。

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