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ハルコンとしては、ギルマス達の同行の申し出は、……むしろ好都合だった。
王都にきてまだ1、2ヵ月。ハルコンにとって、こちらの情報にはまだまだ疎いのだ。
そこに、王都随一の知識を持つギルマスとミルコ女史が同行してくれるという。
こんなの、むしろ願ったり叶ったりなワケだ。
「おぉーっ、そうか。ワシ達が同行するのを嫌がるのかと思ったのだが、……」
「いいえぇ、こちらからお願いしたいくらいですよぉ」
「おぉ、そうかそうか。なら、ミルコ女史と共に、週末でいいんだな?」
「はいっ! よろしくお願いいたしますっ!!」
ギルマスの言葉にハルコンが勢い込んで頭を下げると、ミラも後に続いて頭を下げた。
ギルマスは、王都随一のギルドを治める代表で、ミルコ女史は、たぶんこの資料室の主任クラス以上だ。
2人とも大変多忙なはずで、こちらの私用に付き合わせるのは、いささか気が引けた。
それが、たとえシルファー先輩の意向を汲んだ形とはいえ、子供2人だけで森に入らないよう、考えられる中で最適な「大人」の人物が配置されたことになる。
これは、何かしらのお礼が必要だなぁとハルコンは思った。
「そう言えば、我がセイントーク領では、様々な商品を開発中でして、……」
「うん?」
「何かしら?」
ハルコンが手提げ鞄の中を漁り始めると、ギルマスとミルコ女史は興味深そうにこちらを見てきた。
「ねぇ、ミラ。お二人にマッチを渡すのはどうかな?」
「マッチ? ハルコン、持ってきてるの?」
ミラも、直ぐに自分の鞄からマッチの箱を取り出した。
それを、不思議そうにじっと見つめるギルマスとミルコ女史。
「あぁ~、良かったぁ。とりあえず、2箱あったから、これをお譲りします!」
そう言って、ハルコンは大人2人にマッチの箱をそれぞれ渡すと、ニコォっと笑った。
「ミラ、悪いんだけど、後で代わりのを用意するから、2、3本スッて貰っていい?」
「いいよぉ。では、こんな感じで火を着けることができます」
そう言って、ミラがスッとやると、小さな炎が灯る。
「これは、凄い発明だな!」
「ホンと、便利ですね! とても驚きました!」
大人2人は、とても感心したようにその炎を見つめる。
「いいのか? これはとても高いだろ?」
「セイントーク領とシルウィット領では、銅貨3枚(日本円で300円位)で販売しています。王都でも、そろそろ出回る頃だと思いますよ!」
そのあまりの価格の安さに、大人2人は驚いた表情を浮かべる。
「それと、こちらも納めて頂けると幸いです」
そう言って、2人にそれぞれ、あるグッズを手渡した。拡大鏡だ。
「何だか、いいのか? こちらが貰ってばかりじゃないか!」
「いいえぇ、構いません。こうやって、使うんですよ!」
ハルコンは、その場で先程の夾竹桃のイラストを拡大してみせた。
「「!!??」」
ギルマスはしばらく弄った後、顎に手をやって考え込むし、……ミルコ女史に至っては、半ば興奮状態で、傍らに置いてあった書籍の小さな文字を拡大し始めた。
ハルコンは、高い地位の2人に領の商品の営業ができて、内心ホクホクしていた。