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「それにしても酷いなぁ、サリナ姉様。女神様の件は内緒にしてくれてたのになぁ、……」
ハルコンはそうぼやきながら、王都の外れの門までミラと共に向かっていた。
少し日が高くなり、往来は人々で賑わっている。2人は、馬車や人々の集団を上手く避けながら、すいすいと門まで急いでいた。
ハルコンとミラは、「聖地」に着いたら直ぐに作業ができるよう、背嚢(はいのう)に様々な器材を入れて、小山のようになったそれらを背負って歩いていた。
傍から見たら、これから王都の外で行商でも始められそうな出で立ちだ。
「重くない、ミラ?」
「うぅん、大丈夫!」
ミラはニッコリと笑う。
今日のミラは、朝食の時以来、終始ニコニコと機嫌が良かった。
「ねぇ、どうしたの? 何だかご機嫌だね?」
「うんっ! やっぱり、ハルコンのおかげだったんだなぁって、……」
「何の話?」
「ハルコンが、私やシルウィット家を、ロスシルド家から救ってくれたって!」
「まさか! 買い被り過ぎだよ!」
「うぅん。ず~っと、私達のこと見守ってくれてたんだね。ホンとありがとう、ハルコン!」
「ま、まぁ私というより、セイントーク家、皆で様子を窺っていただけだよ。でもさ、……一体誰から聞いたの?」
「フフッ、女神様からだよ!」
「えっ!?」
輝く笑みのミラの顔を、ハルコンは思わずじっと見つめた。
「私ね、……今朝方見た夢の中で、女神様から直接お話を伺ったんだ。そのことをサリナさんに話したらさ、ハルコンと女神様が、実はお友達なんだって教えてくれたの」
「なるほど、……そういうことか」
「だからね、ハルコンもあまりサリナさんのことを悪く思わないでね!」
「ハハハッ、まぁ、……そういうことなら仕方ない。これで貸しひとつだなっ!」
「ふふっ、お手柔らかに!」
お互いクスクスと笑っていると、門の待ち合わせ場所に、長身のギルマスとすらりとした身のこなしのミルコ女史が、こちらに手を振っているのが見えた。
「急ごうっ、ミラ!」
「うんっ!」
ハルコンとミラは背嚢を担いだまま、2人の方に向けて駆け出した。