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「ありがとうございました。おかげで貴重なサンプルを集めることができました!」
ハルコンは、手伝ってくれたギルマスとミルコ女史、ミラに礼を述べた。
4人がかりで一斉に作業を行ったことで、昼前には必要なもの全ての回収を終えられた。
このまま学生寮のハルコンの研究室兼居室に、直ぐさま帰りたいのも山々だが、……。
でも、せっかくだから、手伝ってくれたギルマスとミルコ女史にも、研究の一端をお見せしようとハルコンは思った。
祠の近くにある訪問者用の石のテーブルの上に、ハルコンは光学顕微鏡を設置した。
先程の土壌サンプルを、小さじですくってシャーレに載せ、点滴器で水を垂らす。
少しだけ揺らした後、その液をすくってスライドガラスに垂らし、慣れた手つきでカバーガラスを載せた。
「いつ見ても、ハルコン上手だねぇ!」
ミラが興味深そうに見つめている。ギルマスとミルコ女史は、初めて見る器材に目を丸くしていた。
それから、しばらく調節ネジでレンズのピントを合わせると、大人達にニコリと笑った。
「お待たせしました。準備ができましたので、ご覧になって頂けますか?」
「ほぅ! 見たところ、その器材は先日貰った拡大鏡と同じ役割をしているのかな? ならばワシよりも先に、研究者のミルコ女史が見るといい!」
「ありがとうございますっ!」
ミルコ女史は、興味津々で顕微鏡のある席に座った。
「ここを、こう覗くといいのですよ!」
「はいっ、こうですねっ、……ウワッ、ウワワワワワッ、何ですかこれはっ!?」
ミルコ女史が、レンズ越しに土壌サンプルを見て、足をバタバタさせている。
でも、決してレンズから目を離そうとはせず、じっと見つめているのは、さすが研究者だなぁとハルコンは思った。
「アハハ、大丈夫ですよ。この動いているのは土の中に含まれる微生物、髪の毛の先よりも小さい生き物達ですね! 目に飛び込んできたりしませんから、安心してご覧になって下さい!」
「了解です、……ふむ、……これは凄い!!」
ミルコ女史はそう呟くと、しばらくの間、夢中になってレンズ越しのミクロの世界を堪能していた。
ハルコンはギルマスを待たせないよう、直ぐに「回生の木」の花のサンプルをひとつ取り出すと、ピンセットで手早くおしべやめしべ、がく、花びらとパーツ分けし始めた。
そして、慣れた手つきでメスを入れると、その断面が見え易いように、再びスライドガラスとカバーガラスでサンドイッチする。
「ギルマスは、こちらをご覧になって下さい!」
「おぉ、スマンな!」
ハルコンは携帯用の簡易顕微鏡キットに設置すると、それをギルマスに手渡した。
ギルマスは、嬉しそうにレンズを覗き込む。
「ほぅ、……これは、なかなか興味深い!」
思わず、ギルマスの口から感嘆の声が漏れた。
それは、この国の科学技術の数百年先を進む、ここだけの世界だった。