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それから30分程経過した。
ギルマスとミルコ女史、特に女史からの矢継ぎ早の質問攻めに遭いながら、ハルコンは自分の持っている知識を惜しみなく伝えていた。
「なるほど、……葉の毒性の多くは、葉脈周辺に集中しているというワケですね!」
「そういうことになります。ただ、今回の『回生の木』にそれが当て嵌まるのかどうかはまだワカりませんので、しばらく調査したいところですね」
ミルコ女史とギルマスは、ハルコンがまだ7歳の子供だということをすっかり忘れてしまったかのように、真剣な面持ちで聞いている。
冒険者ギルドとしては、自然界の毒物について、より広く深い知識が求められている。
その知識の一助となるようなハルコンの示唆に富んだ話に、ギルマスも深く頷いていた。
「まぁ、……ざっとこんな感じでしょうか。そろそろ、お腹も減りましたし、ここで休憩にしませんか?」
「おぉ、そうだった! 昼が用意されているんだったな。『弁当』だったか。とても楽しみだな!」
「そうですね。ハルコン君のお話を聞いていたら、頭を働かせ過ぎてしまって、とてもお腹が空いてしまいました! お『弁当』、とても楽しみですっ!」
大人達二人がちょっとした勉強会の後、昼食を楽しみにしているので、ハルコンは密閉した木の小箱から湿った脱脂綿を取り出した。
「食べる前に、これを使って下さい!」
「これは、何だろう?」
「ハルコン君、これは何かしら?」
大人達二人が不思議そうに訊ねるので、ハルコンは、「これは薬用のアルコールに付けた脱脂綿です。手の消毒に使って下さい!」と言って、一枚ずつ受け取らせた。
「私も!」
ミラも慣れた手つきで、一枚受け取っている。
4人は席に着くと、各々「弁当」の蓋を開けて目を輝かせる。
「これは、美味そうだ! 何から何までスマンな、ハルコン!」
「いいえ、トンでもないっ!」
ギルマスがハルコンにニッコリと笑った。
「ミラさん、この『サンドイッチ』に塗布されている酸味のあるクリームって、『マヨネーズ』かしら?」
「そうです。シルウィット領では普及しているのですが、王都にもあるんですね?」
「そうなの! この酸味が食欲をそそるのよねぇ!」
そう言って、ミラとミルコ女史がニッコリ笑い合う。
「先程の消毒用のアルコールは、……飲めたりするのかい?」
ギルマスが、ハルコンに半身を寄せて訊ねてきた。
「いいえ、あまり美味くないですし、度数が強いから喉を傷めますよ、たぶん」
「そうか。セイントーク産のブランデーに、近いものかと期待していたのだが、……」
少しだけ残念そうなギルマスを見て、ハルコンはいいことを思い付いた。
「今度、私がギルドに伺ったときに、ブランデーを数本お届けしますよ!」
そう言って、ニコリと笑った。
「おぉっ、それはありがたいっ!」
大喜びのギルマス。現在、セイントーク産のブランデーは、父カイルズの措置によって、数量限定を徹底させていた。
ハルコンは、王都のセイントーク邸に大量にしまい込んでいることを知っていたので、数本持ち出すくらい構わないだろうと思った。
とにかく、ギルマスやミルコ女史との太いコネを大事にしたいからね。