目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

25 帝都に赴く女エルフ_02

   *          *


 ハルコンは光魔石の部屋の灯りを点けると、食事の載ったトレーを研究机の空いたスペースに、そっと置いた。


 それから、直ぐに部屋の隅々まで家探しを始めた。

 まぁ、……先日のノーマンの件もある。また中に誰か入っていたりしたら厄介だからな。


 とはいえ、ざっと探ってみたものの、人の気配はなかった。


「ふぅ、……」


 とりあえず、大丈夫そうだ。


「ヨシッ。では、さっそく、……」


 そう呟くと、興奮で両手をすり合わせながら、隣国に野営している女エルフに思念を同調させた。

 先程思念のタグ付けをしていたため、たちまち視覚野に向こうの景色が映ってきた。


「お待たせしました、女エルフさん。軽い食事を用意しましたので、さっそく受け取ってくれますか?」


『えっ!? えっ!? ホンとにそんなことができるのですか? さすが、ハルコン様!? 「神の御使い」なのは伊達ではありませんね!?』


「いやぁー、たははは。まぁ今回初めて試しますので、上手くいくかどうか、とりあえずやってみないことには、……」


『なっ、なるほど。では、そうですね、……蓋の付いた瓶など如何でしょうか?』


「瓶? というと? あぁなるほど、それだと、こぼしたりしないですもんね!」


『はい。できれば「酒」的なものがあると、なおいいのですが、……』


「なるほど。それなら、……」


 ハルコンは立ち上がると、部屋の隅の木箱から高級ブランデーを一本取り出した。

 これは贈答用に父カイルズから預かったもので、王立学校で懇意にしている講師らに配っていた分の残りだ。


「丁度いいのがありましたので、さっそく送りますね。両手を軽く前に翳して頂けますか?」


『こう、……ですか?』


 女エルフは言われたとおり、両方の掌を上向きにして、受け取る姿勢を取った。

 ハルコンは、女エルフの視覚を基に、向こうの状況を確認する。


「では、送りますよっ!」


『はいっ!!』


 次の瞬間、女エルフの両手に、ブランデーの酒瓶がすっぽり収まった。

 どうやら、実験は上手くいったようだ。


『すっ、凄いですっ!? ハルコン様っ!!』


 そう言って、女エルフはその場で酒瓶を持ったまま踊り出してしまった。


「ふふっ、上手くいったようで何よりです。では、次にそちらからこちらに物体を送ることができるか試したいので、河原の石を持っていただけますか?」


『はいっ!!』


 そう勢いよく返事をすると、女エルフは河原の小石を数個掴んで掲げた。


「では!」


 すると、タイムラグなく、ハルコンの手もとに数個の小石が届いた。


「ふぅ、……」


 これは、想定以上のスーパーチートスキルだと、……思わず両手が震えてきた。


「これからトレーに軽食を載せて送りますから。一応落とすとマズいので、座ったまま床に両手を突いて頂けますか?」


『了解です。こちらは、準備できました!!』


 ハルコンは女エルフの言葉を聞きながら、冷蔵庫でキンキンに冷えた果汁入りのミルクをコップに注ぐと、両手でトレーを掴んだ。


「それではっ!!」


『はいっ!!』


 ハルコンの言葉と共に、トレーはその場からスッと音もなく消えた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?