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ハルコンは光魔石の部屋の灯りを点けると、食事の載ったトレーを研究机の空いたスペースに、そっと置いた。
それから、直ぐに部屋の隅々まで家探しを始めた。
まぁ、……先日のノーマンの件もある。また中に誰か入っていたりしたら厄介だからな。
とはいえ、ざっと探ってみたものの、人の気配はなかった。
「ふぅ、……」
とりあえず、大丈夫そうだ。
「ヨシッ。では、さっそく、……」
そう呟くと、興奮で両手をすり合わせながら、隣国に野営している女エルフに思念を同調させた。
先程思念のタグ付けをしていたため、たちまち視覚野に向こうの景色が映ってきた。
「お待たせしました、女エルフさん。軽い食事を用意しましたので、さっそく受け取ってくれますか?」
『えっ!? えっ!? ホンとにそんなことができるのですか? さすが、ハルコン様!? 「神の御使い」なのは伊達ではありませんね!?』
「いやぁー、たははは。まぁ今回初めて試しますので、上手くいくかどうか、とりあえずやってみないことには、……」
『なっ、なるほど。では、そうですね、……蓋の付いた瓶など如何でしょうか?』
「瓶? というと? あぁなるほど、それだと、こぼしたりしないですもんね!」
『はい。できれば「酒」的なものがあると、なおいいのですが、……』
「なるほど。それなら、……」
ハルコンは立ち上がると、部屋の隅の木箱から高級ブランデーを一本取り出した。
これは贈答用に父カイルズから預かったもので、王立学校で懇意にしている講師らに配っていた分の残りだ。
「丁度いいのがありましたので、さっそく送りますね。両手を軽く前に翳して頂けますか?」
『こう、……ですか?』
女エルフは言われたとおり、両方の掌を上向きにして、受け取る姿勢を取った。
ハルコンは、女エルフの視覚を基に、向こうの状況を確認する。
「では、送りますよっ!」
『はいっ!!』
次の瞬間、女エルフの両手に、ブランデーの酒瓶がすっぽり収まった。
どうやら、実験は上手くいったようだ。
『すっ、凄いですっ!? ハルコン様っ!!』
そう言って、女エルフはその場で酒瓶を持ったまま踊り出してしまった。
「ふふっ、上手くいったようで何よりです。では、次にそちらからこちらに物体を送ることができるか試したいので、河原の石を持っていただけますか?」
『はいっ!!』
そう勢いよく返事をすると、女エルフは河原の小石を数個掴んで掲げた。
「では!」
すると、タイムラグなく、ハルコンの手もとに数個の小石が届いた。
「ふぅ、……」
これは、想定以上のスーパーチートスキルだと、……思わず両手が震えてきた。
「これからトレーに軽食を載せて送りますから。一応落とすとマズいので、座ったまま床に両手を突いて頂けますか?」
『了解です。こちらは、準備できました!!』
ハルコンは女エルフの言葉を聞きながら、冷蔵庫でキンキンに冷えた果汁入りのミルクをコップに注ぐと、両手でトレーを掴んだ。
「それではっ!!」
『はいっ!!』
ハルコンの言葉と共に、トレーはその場からスッと音もなく消えた。