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いやいやいや、……。
さすがの私でも、まさかそんなセリフを吐けるワケないじゃん!
とにかく、ここは皆のよく知る柔和で穏やかな「ハルコンさん」を演じることにして、周囲にアピールしようとハルコンは思った。
「ノーマン、……どうせキミは一級剣士さんに『剣技を一から教えてくれっ!』とかムリを言って、初歩の剣術だけを聞き齧ったんじゃないんですか?」
「どっ、どうしてそれを!? オマエッ、まさか『千里眼』の能力でも備わっているのかっ!?」
「まさかぁ、……。そんなワケあるはずないじゃないですかぁ?」
そう惚けて返事をしつつも、意外とノーマンの直感は侮れないのかもとハルコンは思った。
なら、ちょっとだけ、裏取りしてみようかな。
ハルコンはそう思ったら、さっそく念話を中年の一級剣士宛に送った。
「今、お時間いいですか?」
『あぁ、構わんよ! ハルコン殿、こんな時間にどうされたか?』
剣士はショートソードで素振りをしているところで、近くには数人の情婦達が気だるそうにベンチに腰掛けて、鍛錬の様子を見守っていた。
ロスシルド領は標高の高いエリアのため、この時間だと若干寒いくらいだ。
湿気を多く含む朝もやの中、一級剣士は上半身をはだけながら己を磨いていた。
剣士の筋骨隆々の肉体からは、汗と湯気が止めどなく溢れ、情婦の一人が軽く舌なめずりしている。
何だろう。相変わらず仲がいいんだなぁと、ハルコンは思った。
「えぇ、少しだけお訊きしたいことがありまして。実は、ノーマン・ロスシルドについて何ですが、……」
『……、ほぅ』
「何か、心当たりでも?」
『さっそく、アイツはハルコン殿に厄介事を持ち込んだか。今回、女エルフ殿が隣国コリンドに向かっているのを知って、よもやと思っておったのだ!』
「えぇ、まぁ、……。今回の件は、結構大変でした。私に『マジックハンド』のスキルがなければ、まだ解決できなかったかもしれません」
『ほぅ。まぁ、そうであろうな。一応、あのバカには我の見習いをさせておってな。ハルコン殿、大変厄介をかけてしまい申しワケない!』
「まぁ、それくらいなら構いませんよ」
なるほど。ノーマンが剣士さんのことを「師匠」と呼ぶのは、あながち間違ってはいないワケか。