* *
このノーマン・ロスシルドという少年は、品性が下劣、強きに靡き弱きを挫くようなトンでもない性格の持ち主として、ハルコンの目に映っていた。
しかもノーマンのヤツは、「己は貴族として選ばれた、何やら特別な人種だ!」と自負しているのだから、……全く以て手に負えないんだよね。
少年の被害者は、領の内外で数知れず。父親の権勢を盾に、これまで散々弱者をイジメてきた。
ミラもまたそんな被害者の一人だ。でも彼女の場合、セイントーク家がシルウィット家をサポートすることで、被害を最小限に止めることができた。
ロスシルド家も、表立ってセイントーク家と揉めたくなかった。だから、ノーマンも親の顔色を窺って匙加減をしつつ、ミラをいびって楽しんでいたのだ。
ハルコンはそんなことを思いながら、中年の一級剣士とノーマンのやり取りの「記憶」を覗いていた。
『ノーマンッ! オマエは、ホンとどうしようもないヤツだっ! 男ならこれくらいの剣捌き、何とかしろっ!」
『畜生っ、この糞剣士っ! 親父の命令じゃなければ、速攻で叩き切ってやるのにっ!』
泣きじゃくって絶叫する我が子を、修練場の片隅でハラハラとした表情で見つめる父ジョルナム。
おそらくジョルナムは、この捻くれてねじ曲がった根性の息子の性格を、何とかして叩き直そうと思ったのかもしれない。
そこで尊敬する一級剣士に、「ぜひとも稽古をつけて下され!」と強く願い出たのだろう。
すると、一級剣士も堂に入ったものだ。
たぶん、その男前な表情で営業スマイルよろしくニヤリと笑い、ジョルナムの申し出を受け容れたのだろう。
『チックショーッ! 今に見てろよっ! 必ず一発入れてやるっ!』
足捌きもドタドタして、剣の振りもただただ力任せ。
ハルコンの目には、ノーマンの動きが、まるで学のない猿のような身のこなしに見えた。
だが、辛うじてノーマンの放った剣先が、たったの一発だけ剣士の木刀に当てることができたのだ。
『おぉっ!』
ジョルナムは、終始苦渋を噛み締める表情を浮かべていたのだが、……。漸く解放されたように、笑みがこぼれ出た。
何だか、みっともなくて、……ホンと愚かなんだけどさ。でもさ、こういう連中なんだから仕方ないよね。
ハルコンは、陰謀の限りを尽くすロスシルド家を、心の底から不快に思っていた。
でも、ノーマンのラッキーパンチのようなひと振りに一喜一憂する親子を見て、「何だかいた堪れないよね!」と、……自然と、口から言葉が漏れていた。