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ハルコンは学食のオニオンスープを堪能しつつ、中年の一級剣士の「記憶」を高速再生し続けていた。
すると、いいタイミングで、「おやっ!?」と心の中で呟いた。
漸くお目当てを見つけることができた。
そこから先は通常再生に戻して、ハルコンはじっくりと観察を継続する。
『……、師匠、……オレ、ホンとどうしたらいいかワカらないんだっ!』
『ふむ。ノーマン、それは我に話しづらいことなのであるか?』
『それがワカらないんだ。でも、黙って抱えていたら、胸がざわざわして、気持ちが落ち着かないんだよっ!』
『なら、思ったことを少しずつ我に話してくれたらよかろう! そうすれば、幾分気も落ち着くはずだ!』
『ワッ、ワカった!』
どうやらノーマン・ロスシルドは、数日前、父ジョルナムが少数の護衛を連れて国境近くの森に入っていくのを見て、後を尾けたようなのだ。
まぁ、ほぼ間違いなく、隣国コリンドの使者との打ち合わせだろうなぁとハルコンは思った。
たどたどしくも、目撃したことを一生懸命話すノーマン。それを、一級剣士は顎に手をやって、時折頷きながら聞いているのだ。
ノーマンの態度から、ここ数日の稽古を通じて内緒の話を伝えてしまう程、一級剣士のことを深く信頼している様子が窺える。
元々の性格が性格のため、これまでノーマンにまともに接してくれる者は、ごくわずかだったのだろう。
ノーマンの父母、ロスシルド夫妻も、ただただ息子を特別扱いするだけだったのかも。
そのためなのか、屋敷の使用人達、周囲の子供達も、皆ノーマンを腫れ物に触れるように扱っていた。
そんな環境でも、一級剣士は師匠としてノーマンをしっかりと導いていた。
ホンの少しでも長所があれば、男女を問わず惚れてしまいそうな笑顔で、じっくりと褒めてやるのだ。
まぁそれって、……ノーマンは、一級剣士さんに十分誑し込まれているってことだよね。
もうそうなるとさ。
こうやったら師匠が褒めてくれる。
あぁしたら師匠が認めてくれる。
物事の判断基準が一級剣士という師匠一色になり、ノーマンは子供なりに終始頭を巡らせていたのだろうなぁと、ハルコンは思った。
『それでな、師匠。親父達、普段人気のない森の奥に入っていくと、8人くらいかなぁ。軽武装の騎乗した騎士達が待ち構えていたんだよ!』
『……』
『ソイツらに親父達は導かれて、更に国境に向かって進んでいくとさ、ウチ(ロスシルド伯爵家)でも見たことのない豪勢な馬車が一台停まっていたんだ!』
『……、ほぉ~ぅ? どんな馬車だった?』
ここで、一級剣士はさも興味があるように、その特徴を訊ねていた。
いくら子供相手とはいえ、一級剣士さん、相手から話を引き出すのがホンと上手いなぁと、ハルコンは思った。