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28 思えば、遠くにまできたもんだね_11

   *          *


 告白後のノーマンは、四六時中思い悩み続けていたようだ。

 ハルコンの目から見て、ノーマンは中年の一級剣士さんとの稽古中も、どこか上の空な感じで木刀を振っている。


 それからしばらくして、一級剣士さんの方で率直に訊ねてみることにしたようだ。


『ノーマン、あれから何か進展はあったのか?』


 その言葉に、びくりと肩を震わせるノーマン。


『何もねぇよ。父上は相変わらずイライラしているし、母上もムスッと黙って部屋に引きこもってしまっている。子供のオレに、何かできるワケねぇだろ?』


『まぁ、……通常ならそうであろうな』


 一級剣士さんは、顎の髭をいじりながらそう言った。


『なぁ師匠。オレは、これからどうすればいいんだろう?』


 おそらく、ノーマンは本心からそう語っているのではないか、とハルコンは思った。


 ここしばらく思い悩み、隣国コリンドの無理難題の解決策を探しあぐねているロスシルド家。

 ましてや子供のノーマンには、とても解決策が見い出せるワケがない。


 ただただ信頼できる一級剣士さんに縋るしか、もはや手はなかったのだろう、とハルコンは思った。


『ノーマンよ。オマエがこれから何かせずとも、国の内外の至る所に「眼」が張り巡らされている。故に、大勢はもう決しているのであるぞ!』


『えっ!? 師匠、それってどういうこと?』


『今更、オマエにやれることはない、ということだな!』


『……』


『隣国コリンドの第三皇女殿下の体調が優れないことなど、ファイルド国の要人らはとっくに掴んでおるということだ。我もこの件については、間接的ではあるが知らされておる!』


『そっ、そうなんだ、……』


『実はな、ノーマン。国王ラスキン(ファイルド国の陛下のこと)は、今後「善隣外交」を近隣諸国との間で行う方針を選ばれたそうだ。ファイルド国は戦後復興を達成した国だ。そして、セイントーク領を起点として、様々な開発を、国を挙げて行っている最中だ!』


『……』


 ハルコンは、中年の一級剣士の「記憶」をトレースしながら、そんな難しい話、ノーマンにワカるワケないだろうなぁと苦笑いする。

 実際、貴族寮の食堂で咀嚼音のうるさいノーマンを前にして、そう確信せざるを得ない。


 すると、意外なことをノーマンが語り出した。


『なぁ、師匠っ! 結局、仙薬エリクサーはどこにあるんだよっ? その「善隣外交」ってヤツも、エリクサーを餌にして周りのロイヤルファミリーを黙らせるってワケだろっ?』


『おっ、おぅ。オマエ、……バカのクセに賢いな?』


 だよねぇ、……。

 ハルコンも、一級剣士の言葉に思わず同意した。


『で、……師匠。エリクサーは、一体どこにあるんだよ?』


『我からは言えん! だがな、ノーマン。どうしても正しきことをしたいのであれば、全てを失う覚悟で為すべきであろう! それでこそ、誉れ高きファイルド国の貴族であるな!』


 そう言って、中年の一級剣士さんはノーマンのことを励ますのだが、……。


 なるほどねぇ。ノーマンのヤツ、剣士さんの態度から当たりを付けて、私の研究室にまで辿り着いたワケか。

 さすがはロスシルド家の人間だね。やり方はアレだが、極めて理に適っているんだよなぁとハルコンは思った。


 目の前で気持ち良さそうに飯を喰らうノーマンをちらりと見た後、中年の一級剣士にひとこと言ってから、ハルコンはそっと念話を切った。

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