仙薬エリクサー「タイプB」で隣国の第三皇女殿下をお救いしてから、早くも2週間が経過した。
その間、ハルコンとミラはずっと研究室に引きこもっていた。
2人は学校の授業を全てサボり、食事は助手のミラに食堂まで取りにいかせた。
この「タイプB」に様々な分量で「試薬A」を配合する作業に、ハルコンは没頭していたのだ。
王宮から、隣国コリンドの件で、再三に渡って出頭要請がかかっていたようだが、……。
でも、助手を務めてくれたミラがシルファー先輩にお願いして、何とかしのいでくれたようだ。
ミラからシルファー先輩に実験の進捗状況を話し、それが王宮に伝達される。
一方で、先輩からも王宮の事情がミラを経由してこちらまで届いてくる。
「ふぅ~ん。『タイプB』は、王宮で管理することが決まったんだ?」
「先輩に訊くと、そうみたい。何かもうハルコンがその研究所の所長になることまで決まっているらしいよ!」
ミラの言葉に、ハルコンは思わず眉間に皺を寄せた。
「まぁ、……そんな雑事はどうでもいいや。ミラ、悪いけど、こちらの作業の邪魔になるようなら、今後は完全にシャットアウトでよろしくね!」
「了解。先輩には含ませて伝えておくね!」
シルファー先輩としても、こちらには作業に集中させたいと思ってくれていたようで、その点はホンと助かった。
王宮には、隣国コリンドの宮殿に届けたものと同等品の冷蔵庫を、中年の商人さんの手配で用意して貰った。
作業中のことなので、あまり詳しくは聞いていないのだが、評判はかなり良かったようだ。
こちらは、「試薬A」の適正な配合量を見定めるのに必死だった。
前世の晴子の頃と違い、今回は「夾竹桃」ではなく、「回生の木」から薬剤の成分を抽出している。
基本的に似た要素の多いふたつの植物だが、そもそも別種だ。
そうなると、イレギュラーな問題が発生することも大いにあり得るワケで、「試薬A」の最適解を求めるのは、まさに至難の業だった。
そのために、今回はより多くのミミズに犠牲になって貰った。
早朝、ミラが裏庭の花壇からミミズを採取してくると、それを使って実験を繰り返した。
初期の段階で、頭と尾で横断した場合、再接合することができた。
でも、頭から尾まで縦に両断すると、再接合することなく、直ぐに息絶えてしまうのだ。
「よしっ! 今度こそイケるかな?」
ハルコンはそう言って、ミミズを頭から尾まで縦にメスを入れて両断する。
実験トレーの上で、そのふたつの検体がくねくねと藻掻き続けるのをジッと見る。
ここで、ハルコンは最新の「試薬A」を配合した「タイプA」を、数滴垂らした。
すると、そのふたつの検体が互いに左右に吸い付き合うと、元の一匹に復活する。
深く長いため息を吐くハルコン。
ハルコンは、仙薬エリクサー「タイプA」の開発に、……ついに成功した。