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ハルコンと父カイルズは、セイントーク家の馬車に揺られながら王宮に向かっていた。
前回、ハルコンが王宮で王ラスキンと面会してから、数ヶ月ほど経過していた。
それにしても、……この正装の服、いつまで経っても着慣れないな。
ハルコンは上着の袖を軽く撫でると、車窓の風景を何とはなしに眺めた。
今はまだ午前中で、王都の街はとても活気に溢れていた。
往来を多くの馬車が行き交い、歩道を多くの人々が忙しなく歩いている。
通りに面した店舗には多くの品物や農産品が並び、客と店員で楽しそうに話をしている様子が窺える。
長らく続いた戦争が終わって、はや10年。
王都も戦災に見舞われたとのことだが、今の平和な風景からはどうにも想像が付かないなぁと、ハルコンは思った。
「ハルコン、緊張していないか?」
父カイルズが率直に訊ねてきたが、こちらは「いいえ、問題ありません」とだけ言って、ニコリと笑顔を作って返した。
「ふむ、……オマエは、いつだってそうだったな」
父カイルズはそう呟くと、静かにため息を吐いた。
もしかすると、年齢相応ではない私に、父上は一抹の寂しさのようなものを感じているのかもしれない。
やはり、もっと子供らしく振舞うべきだったか。
でも、少年ハルコンの中身は、こことは別の異世界、……地球の現役薬学者だ。
もし前世の私が今も生きていたら、父上とほぼ同年代となる。
同じ世代の者として、私は父カイルズを尊敬しているし、とても優しく穏やかに育ててくれたことを感謝している。
到着までのしばらくの間、王宮でのマナーについて父カイルズが説明してくれるため、ハルコンはそのひとつひとつに頷きながら返事を繰り返した。
「……、以上で本日の会合については問題なかろう。他に何か聞いておきたいことはあるかね、ハルコン?」
「そうですねぇ、……父上、私は男爵の爵位を授与される予定だと、以前伺っております。機会を見てとのことでしたので、今回のタイミングとなったということでしょうか?」
「ふむ、爵位の打診については、オマエとミラ嬢が王都の官民公共施設、その全てに号令がいった時点で話には上がっていた。オマエ達がシルファー第二王女殿下の覚えが良かったことが、幸いしたと言えるのだろうな」
「なるほど、……そういうことでしたか」
ハルコンは自分達の関与しないところで話が進んでいたことを知って、ひとつ頷いた。