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そろそろ、王都の街の中心地、王宮が見えてきた。
先程までは庶民街地区を通過していたが、隣接する貴族街エリアを越えると、閑静な空間の中心に王宮が聳えていた。
王宮を囲む堀の前に到着すると、衛兵を務める若い騎士2名がこちらに近づいてきた。
他の2名は、シルウィット家の馬車の方に向かっている。
父カイルズは、馬車の車内から御者に王宮への招待状を手渡した。
御者がそのまま衛兵の2人に招待状を渡すと、書類に瑕疵がないか綿密にチェックを受けている。
おや? 以前よりも警備が若干厳しくなったような、……。
漸く許可が貰えたようで、両家の馬車は、それぞれ王宮の堀の上にかかる跳ね橋を越え、中に入っていく。
「うわぁ、……凄いなぁ!」
ハルコンは、今回もまた王宮の内部の広さに驚いた。
多くの役人や騎士達、女中達が忙しく動くのを見て、「さすがはこの国の中心地だけあるなぁ!」と、またしても感心した。
馬車は途中から衛兵に誘導され、父カイルズとハルコンが降車すると、御者は馬車を所定の位置に移動していく。
すると、軽装の鎧の騎士が3名、父カイルズの前に歩み出た。
「カイルズ卿、並びにご子息のハルコン君、これから陛下の許にご案内します!」
「了解した。丁重な対応に感謝申し上げる!」
「では、こちらに!」
少し離れたところでも、シルウィット家を相手に衛兵が同じことを行っているのが見えた。
ハルコンは、2週間ほど前に追加の冷蔵庫の納入に合わせて、仙薬エリクサー「タイプA」と「タイプB」の両方を提出していた。
ただ、せっかく招かれたのに手ぶらでは何なので、とある薬剤のみを試験管に入れて持ってきていた。
途中、詰所の応接室で両家は合流する。
ハルコンが持ち込んだグッズのチェックを受ける際、役人からいくつか質問された。
その質問にハルコンはスラスラと答えていると、「ハルコン君。マッチはワカるのだが、これは一体何だね?」と最後に訊ねられた。
「塩硝と硫黄の化合物です」
ハルコンはシレッと答える。
「それは、陛下にお見せする発明品ということかね?」
「はい。この世界を揺るがす程の、……」
「ふむ、……キミの実績から、これはさぞや素晴らしいものなのだろうな?」
「まぁ、……そうですね」
役人が顎に手をやって考え込む仕草をすると、先程より傍で様子を見ていたミラが、「ハルコン、それってこの前、貴族寮の床下の砂を集めて作った物だよね?」と助け船を出してくれた。
「床下の、……毒ではないのだな?」
「はい。王都で最近流行の、マッチとよく似た性質の薬品です」
ニッコリ笑うハルコン。
「よかろう。持ち込みを許可します。今日はキミ達のハレの席だ。王国貴族の一員として、大いに歓迎しますぞ!」
セイントーク家とシルウィット家の両家は、迷路のような王宮の、そのまた奥まった部屋に案内された。
ミラが途中不思議そうにあちらこちらに目をやっているのが、とても印象的だった。