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29 仙薬エリクサー_08

   *          *


 ハルコンは国王陛下に抱き付かれたまま、この席にいる他のメンバー達をちらりと見た。


 父カイルズは、「やはり、こういうことになってしまったか、……」と呟いているし、ローレル卿とミラは揃って、「「さすがはハルコン(君)だ!」」といって、喜色満面でこちらをじっと見つめている。


 シルファー先輩と宰相は、国王陛下の豪放な行動に、今さらどうとも手を出せずにいるように見受けられた。


「ハルコン、母上の件、……ホンとありがとうね!」


 シルファー先輩がこちらに近づいてきて、するりと耳元でこう囁いた。


「えっ!?」


 その際に先輩は、膂力のある国王陛下にガッチリ押さえ込まれてしまって無防備なところに、軽く頬にキスをしてきたのだ。


 マジですか!? 

 私、前世の晴子の時代も含めて、キスなんてされた経験はありませんよ!!


 思わず目を剥いてシルファー先輩をじっと見ると、向こうは小さな口元に人差し指を立てて当てながら、「内緒ですよ!」といった仕草をされたのだ。


 次の瞬間、ミラを見ると笑顔のまま。

 特に表情が変化しているワケでもない。


 偶然かそれともシルファー先輩の上級テクニック故なのか、……現場を目前にしながら、ミラは先輩の悪戯に気づくことも見抜くこともできなかったようなのだ。


 ふむ。なかなかのテクニシャンだな、シルファー先輩は、とハルコンは思わず感心せざるを得なかった。


 まぁ、……それはそれとして。


「へ、陛下、……力が強過ぎて、肩が痛いです」


「お、おぉ、そうであったな!」


 陛下が力を緩められると、漸く人心地付くことができた。


「ふぃ~っ」


 思わずため息が漏れてしまうと、その席のメンバーは皆クスクスと笑い出した。


「陛下、……そろそろ本題に入られては如何でしょうか?」


「おぉ、そうであるな!」


 宰相の言葉に、王ラスキンは笑顔で頷かれた。

 その言葉の後、メンバーは再び所定の位置に着席し、国王陛下のお言葉をじっと待つ。


「では、……ハルコン・セイントーク並びにミラ・シルウィット。両名は仙薬エリクサーを開発する大役を見事にこなし、無事成果を上げることができた。以上の功績により、ハルコンには領地なしの宮廷爵位として、男爵位を授ける。ミラには、ハルコンのサポートをした実績を鑑みて、領地なしの騎士爵位を授けるものとする!」


「「よくやったな! ハルコン(ミラ)ッ!!」」


 それぞれの父親が、我が子の背中をポンと叩いた。


 ハルコンとミラは改めて片膝を床に付け、胸元に右の握り拳を掲げ、高らかにこう宣言した。


「「ありがとうございます、陛下。大任、必ずや務めさせて頂きます!」」と。

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