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29 仙薬エリクサー_09

   *          *


 次に実務面に話が移ると、今度は宰相が笑顔でこちらに話しかけてきた。


「さて、……今後についてなのだが、ハルコン。オマエはこれまでどおり、王立学校に学生として通って貰いたい。学業が本分なのだから、それで構わないな?」


「はい、もちろんです、宰相閣下!」


 ハルコンの言葉に、大人達は皆ホッとした表情を浮かべた。

 どんなに素晴らしい実績があろうと、まだ7歳の少年に過ぎないのだ。


 その年齢なら、学校で学ぶべきことが山ほどある。

 とにかく、若いウチに人から学ぶことは、とても重要だ。


「ミラもハルコンと同じく爵位を得ることになるが、それに慢心することなく学業に励み、日々を大切に過ごしなさい。いいかね、2人とも?」


「「はいっ」」


 宰相の言葉に、明るく朗らかに返事をするハルコンとミラ。


「いいだろう。我々王宮は、ハルコンに相応しい地位を既に用意している。今後、仙薬エリクサーの研究開発は王宮の管轄となる。その拠点となる研究所の所長を、ハルコン、オマエに務めて貰いたいのだ! どうか、引き受けてくれるか?」


「もちろんです、宰相閣下。謹んでお受けいたします。ですが、こちらからも二、三、……条件を出しても構わないでしょうか?」


 ハルコンが笑顔で条件を出してきたことに、宰相は怪訝な顔をする。


「ハルコンよ、条件とは何だね?」


「はい。今後エリクサーを販売するに当たり、必ず安価で市民に提供すること。それは、ファイルド国のみならず、隣国、周辺諸国にも価格に差を付けることのなきようお願いできますか?」


「ほぅ。ならば、我々の方針に合致するな!」


 宰相は、とても感心したようにこちらを見てきた。


「もし良ければ、その方針をお聞かせ頂けますか?」


「ふむ、ハルコンよ、……我々ファイルド国は、今後、周辺諸国とは古くからの友人のように接する、『善隣外交』を国是とする方針に決まった。そのためには、どうしてもオマエの生み出した仙薬エリクサーが必要なのだ!」


「つまり、仙薬エリクサーで、周辺諸国から薬学・医療・衛生面でリードしたいワケですね?」


「そのとおりだ! 我々は、この薬剤で周辺諸国と融和を図りたいのだ!」


 宰相の表情は、とても真剣そのものだった。


 長らく続いていた戦乱の世も終わり、今は戦後復興期の最中にある。

 だが、いつ何時、元の暗い世界に戻るとも限らないのだ。


「了解しました。では宰相、……次の条件を申し上げます!」


 ハルコンの言葉に、大人達がグッと表情を引き締めてきた。

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