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「次に、私が仙薬エリクサーの開発拠点となる研究所の所長になるとのことですが、研究所は各国にも門戸を広げていきたいと考えております!」
「ほぅ。どうして、我が国の人間だけではダメなのかね?」
ハルコンの言葉に、宰相は率直に疑問の言葉を投げかけてきた。
それも当然のはず。
現在、ファイルド国のみが仙薬エリクサーの開発に成功しており、まさに独占状態にある。
だったら、周りには小出しにすることで、差別化を図りたいのだろうとハルコンは思った。
「でも、……それだと、優秀な人間に限りが出てしまいますよね?」
「なるほど、……確かにそうではあるな」
宰相を始め、大人達は得心がいったのか、率直に頷いている。
ハルコンの感触としては、ここで具体的な近未来の様子を示せば、相手が納得するだろうと考えた。
「先ず研究所の創設となりますと、現状では研究員の多くは、王都の王立学校の卒業生達が担うことになるでしょう」
「ふむ」
「更に、周辺諸国各国にも同等の教育機関がありますから、門戸さえ開けば、そこの優秀な卒業生達を、エリクサー目当てに引き込むことが可能となります」
宰相をはじめ大人達は、こちらの意見に様々に思いを巡らせているのだろう、とハルコンは思った。
そうなると、利点さえ示せば相手は納得するはず。
「ふむ、……周辺諸国各国の優秀な学生達を囲い込むワケだな?」
「はい。優秀な人間を一か所に集めれば、更なる研究の発展が期待できます。最終的には、周辺諸国各国の研究機関の拠点として、この大陸の中心を担うことも可能になるでしょう!」
「……」
大人達は呆気にとられたような顔をして、しばらくハルコンを見つめていた。
だが、宰相と陛下はこちらの意図を直ぐに察したのか、小声で2人だけの打ち合わせを始めてしまった。
ファイルド国は、経済規模も戦力、文化面なども、あくまで中堅の国家だ。
そこに、こちらが明確な未来ヴィジョンを示したことで、これから数年、数十年、百年先を見据えて、何を、どのような手順で進めていくかが極めてワカり易くなる。
『一年の計は穀を樹(う)うるに如(し)くはなく、十年の計は木を樹うるに如くはなく、終身の計は人を樹うるに如くはなし』
いわゆる「国家百年の計」なんだよなぁと、ハルコンは思った。