* *
「父上、……この『火薬』の原料は塩硝、すなわち硝石が鍵を握っています。そして、この硝石も土から採取することが可能です!」
「な、何と!? エリクサーだけでなく、この『火薬』だったか、……もまた土が関係しているというのか?」
「はい、そうです父上!」
父カイルズの言葉に、ハルコンはきっぱりと言い切った。
ハルコンの薬学は、どれも「土」が大いに関係している。
エリクサーは、夾竹桃もしくは「回生の木」の根元の土の中に存在する、放線菌の出す酵素、アイウィルビンが由来。
そして、今回の「火薬」の原料である硝石は、大きな建物の床下の砂土から採取することができると、ハルコンはこの席の者に伝えた。
「床下の砂土には、窒素とアンモニアを分解して硝酸カルシウムを生み出す、バクテリアという微生物がいるんです。そして、その砂土を採取して水に一晩漬けると、硝酸カルシウムの水溶液を作ることができます。更にそれを煮詰めて濃度を上げ、灰を加えてよくかき混ぜると、化学反応を起こして塩硝が出来上がるんです!」
ハルコンがニッコリと笑うと、この席の者全てもつられてニコリと笑った。
ちなみに、その製法を古土法と呼び、16世紀末の日本で盛んに行われていたとされている。もちろん、ハルコンがそのことを皆に伝えるつもりは全くない。
「ねぇハルコン。その塩硝というのが、『火薬』なのかしら?」
シルファー先輩が率直に訊ねてきた。
「いいえ、塩硝だけでは『火薬』にはなりません。他に炭と硫黄も用いますね」
「なるほど。なら、それらを粉末にしてブレンドすれば、『火薬』になるのかしら? もしかして、比率とか、分量とか、……もう把握しているの、ハルコン?」
シルファー先輩が、妙に具体的に質問してくるなぁとハルコンは思った。
この場の席で、ハルコンを除いて一番頭の回転が速いのは、シルファー先輩だ。
先程、「火薬」の用途は、「娯楽から戦争まで」とお伝えした。
すると、シルファー先輩は直ぐにその有用性に気付き、王国に取り入れようとお考えになられたのだろう。
さすがはシルファー先輩だと、ハルコンは素直に感心した。
「はい。比率については、後ほどお伝えしたいと思います」
「嬉しいっ! ありがとうねっ、ハルコン。私、『火薬』を使った娯楽にとても興味があるんですっ!」
そう仰って、シルファー先輩は満面の笑みを浮かべられた。
「陛下、この『火薬』が用いられるようになれば、これまでの戦争が覆ることになりかねませんぞ!」
宰相が王ラスキンにそう告げると、父カイルズとローレル卿も渋い顔をした。
「ハルコンには、先ずは男爵の位を授けるつもりでおったが、……どうやら、それではとても足りぬようだな!」
王ラスキンは肩を落とされて、そう呟きなされた。
残りの大人達も皆、顎に手をやって、深いため息を吐くばかりだった。