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33 姫君ステラ・コリンドの留学 その2_05

   *          *


 晩餐会が終わり、大人達は軽い飲み会、子供達は別室に移動すると、甘味を食べながら軽い雑談に興じていた。


 ロスシルド姉弟は、先程の晩餐の席でステラ殿下から「ご学友」になるという言質を得ていたため、あえて深追いはせず、むしろサークルでライバル関係にあるサリナ姉やマルコム兄らと話をしていた。


 すると年齢の近い者同士、シルファー先輩、ステラ殿下、ハルコン、ミラの4人で自然とグループができる。


 女3に男1の力関係のため、いつしかハルコンが追及される側になっていた。

 ミラだけはこちらの味方をしようとしたが、シルファー先輩がさりげなく、そうさせなかった。


「いいですか、ハルコン。あなたは今やこのファイルド国の『宝』なのですから、決して思い付きの行動をせず、きちんと考えた上で行って下さいね!」


「は、はぁい、……」


 笑顔のシルファー先輩。でも、目は少しも笑っていない。


 むむむ、またしても、……シルファー先輩から、お小言を頂いてしまった。

 でもさぁ、……。この場は、隣国の姫君を招いた晩餐会の二次会の席だよ!


 もう少し、時と場合を見て仰ってくれてもいいのになぁ。

 それにさぁ、……私だって、ちゃんとした理由があって行動していることがほとんどなんだからね、とハルコンは思った。


 すると、……ここでふと視線を感じ、ちらりとミラの方を見た。


「また、怒られちゃったね!」


 ミラはそんな表情でクスリと笑い、ニコニコと澄ました笑顔を向けてくる。


 まぁ、確かに、……。ここんとこシルファー先輩からは、苦言というか忠告というべきか、何ともお説教が絶えないんだよね。


 もしかすると、その辺り、王宮の中で役割分担が徹底しているのだろうか?

 なら、シルファー先輩は、おそらくひとつ年上の先輩としてこちらを正す係なのかも。


 その一方でラスキン陛下と宰相は、私に助言を求める役割なのかもしれない。

 最近のラスキン陛下は、私とサシで会う度に様々な助言をお求めになってきている。


 どうやら、陛下は私がこことは全く別の世界、いわゆる文明レベルで未来に当たる「異世界」からやってきたものと、よく理解されているご様子なのだ。


 そのため、私のバックボーンとも言える様々な「知識」の中に、今後数世紀にわたるファイルド国の行く末を示す指針を見出しているのかもしれない。


 実際、このファイルド国の社会事情は、地球の中世を取り扱った世界史の本とよく似た出来事に溢れている、とハルコンは思う。


 故に、その「知識」を基に、私はこれまでこの国の発展を願って、様々な助言をしてきたつもりなんだ。


 この国の娯楽とか料理のレシピ、「この世界になければ、新たに作ってしまえばいいじゃない!」と思って、ボードゲームや甘味など様々に提案してきたつもりだよ。


 それが、今では国王陛下でさえも、私に助言をお求めになられるところまできてしまっているということだね。


「まぁまぁシルファー様。ハルコン様とは、大変気の置けないご関係でいらっしゃるのですね?」


「はい。ハルコンとは、学校の先輩後輩の間柄として、仲良くさせて頂いておりますわね。ねぇ~っ、ハルコン!」


「は、はぁ。そうですね」


 ハルコンはそう相槌を打ちつつ、先輩と殿下との間で、何か小さな火花が散ったような気配を感じ取っていた。

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