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34 王立学校祭 その1_06

   *          *


「では、今回もハルコンのおかげで、我が国は救われるのですね?」


「はい。先程も申しましたとおり、ハルコンBの水溶液を吸わせることによって、花枯れを抑えることが可能です!」


 こちらの言葉に、ステラ殿下はホッとしてニコリと微笑まれた。

 ステラ殿下だけでなく、その会合に参加した農業大臣、他数名の貴族家当主、役人らは皆、ホッと胸を撫で下ろした。


 ここは、王宮第二会議室。地球のモジュール換算で200㎡程の室内は、石鹸製造の件で隣国コリンドを巻き込む程の危機に漸く目途が立ったことで、安堵の空気に包まれていた。


 会議室内に、今回王族や宰相は参加されていない。当事者のステラ殿下は例外として、あくまで実務者ベースの会議となっていた。


「いやぁ~っ、ハルコン殿。今回もまた貴殿のおかげで無事解決できそうだよ! よかった、よかった!」


「は、はぁ。とりあえず、大丈夫そうですね」


「あぁ、大丈夫だとも。キミのおかげでな!」


 農業大臣が、喜んでこちらの肩を何度もポンポンと叩く。

 最近のハルコンの王宮での扱いは、各分野の実務者レベルで責任者に名前を連ねる程になっている。


 そもそも、ハルコンは王立研究院の所長という肩書を持っている。

 特に新「技術」の絡む案件については、その多様な知識や造詣の深さで、大人達から重宝がられたり、一目置かれたりしていた。


 夜半、貴族寮の姉サリナの部屋をハルコンが訪れてから、早くも数日が経過していた。

 あの後直ぐに男子寮に戻ったハルコンは、寮長にそのまま報告した。


 今回の件は、隣国コリンドをも巻き込む花枯れという事案だ。寮長はハルコンから情報提供されると、緊急性及び重要度が高いと即座に判断したようだ。


 その時の寮長はラフな室内着を身に纏っていたが、10数分後にはフォーマルウェアに身を包み、王宮へと馬車を走らせていた。


 それから数日間、関係各所の要人並びに現地の担当者を集めては、夜を徹して緊急の会議が執り行われた。


 一応、今でもハルコンは学生という身分だ。そのため学業が優先され、放課後のみ会議に出席。

 今回の花枯れ対策には、ハルコンBを希釈して使うことを、順をおって説明した。


 これまで、希釈した栄養剤で枯れた植物を蘇生させる、……そんな大それたことなど思いも付かなかった農業大臣達。


「ホンと、キミには感謝してもしきれない! 我が国の一員として、大変感謝申し上げる!」


 農業大臣はそう仰って、握手した手をなかなか放そうとしなかった。


 更に数日後。ハルコンは農業大臣に伴って、王都の郊外にある物流の中継地にいた。

 王都100万の人間を養うための物資の集積所には、本日も大量の物資が国の内外から送られてくる。


 農産品の検品を行う施設の片隅には、大量の枯れかかった花々が山と積まれていた。


「それでは、始めてくれっ!!」


 農業大臣が号令を下すと、防護服に身を包んだ大勢の監察官達が、いっせいにハルコンBを薄めた水溶液、保護剤をじょうろや柄杓で撒き始めた。


 当初ハルコンの目にステラ殿下は落ち着かないご様子に見え、ミラと共に防護服に身を包んで、事態を真剣な表情で見守っておられた。


 数時間後にはその作業が終わり、花々は再び生気を取り戻すと、鮮やかに咲き誇っていた。

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