* *
長いじめじめとした梅雨の季節が、ついに終わった。
ハルコンは、陽光が輝き、一面青く晴れ渡る空を眩しそうに手を翳して見上げた。
「ふふっ、ハルコン、もう直ぐ夏ですわね?」
「はいっ!」
笑顔をステラ殿下に向けると、殿下もニッコリと微笑んだ。
季節が初夏に突入すると、これからイベントはてんこ盛りだ。
王立学校の学生達にとって、その最初にして最大のイベントが王立学校祭。
週末の今日、世間の3連休と日が重なる王立学校祭が、……ついに始まった。
「ハルコン、ほらっミラもっ! 付いてきて下さいなっ!」
「「はぁ~いっ」」
笑顔のステラ殿下が忙しなく手を引っ張ってこられるため、ハルコンとミラはお互いに笑顔で頷き合うと、殿下の後に付いていく。
学校の敷地内は、普段は関係者しか入ることができない。
だが、この王立学校祭の開催される期間中は一般公開されるため、学生だけでなく、王都の人々もたくさん訪れていた。
「へい、らっしゃい、らっしゃい! お好み焼きが出来立てだよぉーっ!」
「焼きうどん、熱々だよぉーっ!」
「こちらはクレープ販売してまぁーっすっ!」
学生達が徹夜で準備した模擬店が軒を連ね、店員を務める多くの学生達が威勢よく声をかけ始めた。
親子連れの女の子が、店員のお薦めのクレープを買って貰い、さっそく口にする。
「甘ぁ~いっ!」
満面の笑顔に、母親も店員の女子もにっこりと微笑んだ。
他にはざっと見ると、投げ輪とか小魚すくいとか、……。
「ねぇ~っ、ハルコン。私、本国で見たことのないものばかりなのですが、……。あれって、もしかしてあなたのアイデアで始めた出し物なのでは?」
「はいっ、どれも私のアイデアですよ、殿下。後で、クレープを食べてみませんか? とても甘くて美味しいですよ!」
「うふふ、そうですねぇ、……」
ステラ殿下が、率直にお訊ねになられたので、こちらも正直にお答えする。
「そうですよぉ、殿下。ハルコンは、昔からなかなかのアイデアマンだったんですよぉ!」
「まぁっ!? さすが、ハルコンですわねっ!!」
笑顔でミラが話を振ると、殿下も嬉しそうに笑って返す。
いつもなら、ハルコン、ステラ殿下、ミラの他にシルファー先輩と寮長、サリナ、マルコム、ケイザン、それとイメルダとノーマンで学友グループとして行動を共にしているのだが、……。
でも、王立学校祭の期間中、シルファー先輩は王族として学校祭を運営する学生達の後援役を任されているため、寮長を伴って裏方に徹している。
サリナはフラワーアレンジメントのサークルの代表として忙しいし、マルコム、ケイザン、イメルダ、ノーマンは、学校祭の2日目に催される演武会の準備でてんてこ舞いだ。
そうなると、ハルコン、ステラ殿下、ミラの3人だけがフリーとなり、様々なイベントをお客さんの立場で十分楽しんだ。
「キャーッ、ミラ、私あのお芝居、大変感激いたしましたっ! あんな楽しくて悲しい舞台、あなたの国は文化の面でも優れてますわねっ!」
「いえっ、殿下、……私も初見です。あんな面白いお芝居、絶対王都でも流行りますよっ!」
ステラ殿下とミラは、昼食の後で立ち寄った演劇部の学生舞台を観て感激し、3時のおやつにクレープを食べながら、議論で大いに盛り上がっていた。
ちなみに、その舞台の演目は「ロミオとジュリエット」。
ハルコンはシェークスピアの小説を全て諳んじることが出来るほど暗記していたので、演劇部の部長の求めに応じて、脚本の手伝いをしていたのだが、……。
もちろん、目の前で盛り上がる女子2人に、それを吹聴するような野暮な真似は、決してしなかった。