ハルコンと女盗賊は、真夏の少し薄暗い夕方の街中を、たった2人だけで歩いていた。
今や、お互い忙しい身の上だ。普段の2人は多くの取巻き達に囲まれて過ごしており、プライバシーなどあってないようなものだ。
そんな公人に近い2人が、旧交を温めるように繁華街を歩いていた。
王都の繁華街は、軒を連ねる店々の灯の下に、多くの人で賑わっていた。
以前の2人は、セイントーク領の領都の郊外にある館の近くを散策したり、たまにハルコンの欲しい素材を店で直接物色するために、護衛で女盗賊が付くこともあった。
だが、あの頃から、……もう5年以上が経過していた。
幼かったハルコンが11歳の少年になり、爵位を得て、大きな研究所の所長を務めるまでになっている。
一方で、当時少女だった女盗賊も、実業家として出世し、年齢を重ねた末に貫禄のある美女となった。
親子ほど年齢の離れた2人の後ろ姿は、人々の注目の的だ。
美男子のハルコンと、目も眩むような美貌の女盗賊が王都の繁華街を2人で歩いていると、道ゆく人々は老若男女問わず、その多くの者が目を奪われていた。
「たはは、……こうしてハルコン殿と、再び街中さ一緒に歩くでやす。アタイの胸ば、もぅドキドキが止まらないでやす!」
そう言って、胸元を押さえながら言葉を漏らす女盗賊。
「はははっ、女盗賊さん。以前よりも、言葉遣いが上手になられましたね?」
「ふひひ、面目ねぇでやす!」
そう言って、照れたように顔を赤くさせながら、明るい笑顔を向ける女盗賊。
その表情を見て、女盗賊さんにこんな一面もあるのかと、ハルコンはとても意外に思った。
まぁ、こちらもさ、女盗賊さんに会えて、とっても嬉しかったんだよ。
そもそもさ、女盗賊さんって絶世の美女だし、……。
しかも、赤ん坊の頃に、私の命を救って貰っているんだよ。
ホンと、……女盗賊さんって、私の大恩人なんだよ。
だから、今でもず~っと感謝しているんだ。
「何か、こうして2人だけで街中を歩いていると、まるでデートしているみたいですね?」
「ポッ!? かっ、勘弁して下せぇっ! すったらこと言われたら、へそがこそばゆくなるでやす!」
そう言って、女盗賊は両手で顔を挟むと、右に左に身を捩ってしまった。
どうやら、照れているらしい。
ホンとこの女性ってさ、外見に似合わず、純情そうなところがあるんだよなぁと、ハルコンは何だか微笑ましい気持ちになった。
しばらくして、ハルコンと女盗賊の2人は、仕事帰りの人々で賑わう、とある飲食店の前にいた。
「こちらのお店ですか?」
「あぃ。ハルコン殿に会わせたい人達が、ここにおるでやす!」
そう言って、女盗賊がニコリと笑った。