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「なるほどハルコン、……女神様はそう仰られたのか?」
「はい、父上。確かにそう仰っておられました!」
父カイルズは、こちらの話を思慮深く頷きながら聞いた後、ローレル卿の表情をちらりと見た。
「ということなのだが、……。ローレル卿、貴殿のご息女、ミラ嬢の名前も上がっておりますな?」
「確かに。そうなると、我がシルウィット家にも大いに関わる話になってくるのですね」
ローレル卿もそう言うと、父カイルズ共々ひとつ頷かれた。
「えぇ、そうなんです。女神様が昨晩私に仰ったのは、とにかく今度のサスパニア出張旅行には、必ずシルファー殿下とステラ殿下、それとミラも同行させなさいとのことでしたね」
「ハルコン君、ミラは騎士爵だ。そのまま護衛の任務に就きなさい、……ということなのかな?」
「いいえ。女神様の話の調子では、両殿下と共にまだ学生の身分ですから、サスパニアをよく見て学んできなさい、……そんなニュアンスだったかと思います」
「な、なるほど!?」
こちらの言葉を聞き、ローレル卿はやや意外そうな顔で頷かれた。
本音では、女神様が私に仰ったのは、両殿下とミラの3人と親睦を兼ねて、サスパニアまで旅行してきなさいという認識だったのだが、……。
さすがにそのままのとおりに父上とローレル卿に伝えるのは、マズいよなぁと思って、今回の件は学びの機会だと、ハルコンは大人達には建前を伝えることにした。
「ならばハルコン。つまり、女神様は後学のために、両殿下とミラ嬢、オマエに現地にいって学んでくるように仰ったとみていいのだな?」
「はい。その認識で構わないのかと」
「ふむ、……まぁ、そういうことにしておこう。ローレル卿もミラ嬢が国外に出ることに異存はありませんか?」
「いいえ。女神様のご意思とあらば、我々はただ従うのみですから!」
ローレル卿がひとつだけ頷くと、父カイルズはこちらの顔色をちらりと窺った。
すると、私の表情に何かを悟ったのか、一瞬やれやれといった表情を浮かべた後で、「まぁ、女神様の思し召しとあらば、我々は従わざるを得ないか、……」と、そう述べた。
まだ30代前半の若いローレル卿は、年長の父カイルズの言葉に対し、あまり深く考えないままに同調して、笑顔で頷かれている。
父カイルズもローレル卿も、私と女神様に接点があることは、サリナ姉やミラからの供述でよく理解していた。
ローレル卿は私に「今後、ハルコン君のことを、『神の御使い』様とお呼びした方がいいのかな?」と言われたため、「これまでどおりにハルコンとお呼び下さい!」と伝えてある。
一方、父上にとって私が子爵になろうが「神の御使い」であろうが、セイントーク家の3男であるという事実は変わらないのだろう。
特に、話し方を変えることもせず、これまでどおりに接してくれている。
とにかく、そんな大人達2人の様子を見て、まぁ、……この状況を上手く伝えられたのかなぁとハルコンは思った。