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「……、そういうことでだな、ハルコン。今回のサスパニア出張旅行について、オマエには現地を直接見てきて欲しいのだ!」
「はい。仰せとあらば、私はその命に従うまでです!」
ハルコンはそう言ってから笑顔で頷いて見せると、王ラスキンも同様にひとつ頷かれた。
今は朝9時過ぎ。いつもの小規模なスペースの接客ルームにて、ソファーセットで寛ぎながら、王ラスキンと対面で話をしていた。
室内には、他に宰相が同席しており、王ラスキンの後方に立ったまま、こちらの話を聞いていた。
「とにかく、ハルコンはサスパニアで情報収集に努めて欲しい。何分、我々にも現地のことはワカらず仕舞いでな。これまでも何度か人を送ったことがあったのだが、……。いずれも検問で引っかかってな。ほとんどの者が入国もままならず、現地から送り返されてしまうのだよ!」
「と、仰いますと?」
「あぁ。どうやってかワカらないのだが、……サスパニアには、こちらの送り込んだ人員の素性を探る手段があるようなのだ!」
「なるほど、……」
おそらく、現地にはポリグラフ(嘘発見器)のようなものがあるのかもしれないなぁとハルコンは思った。
地球でも20世紀前半には既に実用化されていて、……。確か、初期の物は血圧と呼吸数を計測して調べていたんだっけ。
「そして、今回は現地の首相イッシャラー自らがハルコンをご指名でな。これが、その招待状なのだよ!」
「拝見いたします」
ハルコンは恭しく王から書面を受け取ると、直ぐに目を通し始めた。
間にコリンドを挟んでいるものの、サスパニアとこちらのファイルドでは、言語や文字は基本共通のようだ。
筆記体によく似た文面で、仙薬エリクサーの開発者である私ハルコンに対し、丁重な調子でサスパニアまで出張旅行にきて欲しい旨記されていた。
「ハルコン、……急な話で悪いが、現地にいってくれるかね?」
「王命とあらば、臣下の私は、ただ従うのみです!」
こちらがニッコリと笑顔を作って頷いて見せると、陛下はホッとした表情を浮かべられた。
すると、陛下は直ぐ後方にいる宰相と何事か話を始められ、共に頷いた後で、再度こちらを強い調子で見てこられた。
その陛下のご様子に、何だか少しだけイヤな予感がしたのだけど。
「ここから先は、オフレコ(議事録を残さないこと。もちろん現地語で表記しています)とさせて頂きたい。『神の御使い』ハルコン殿。実は、こちらの書簡も同封されておりましてな!」
陛下自らがそう仰いながら、封蝋された書簡を手渡しされてこられた。
見ると、既にその書簡は開封されていた。
おやぁ、……と思って、ちらりと陛下の後方に控える宰相に目をやると、……。
向こうから「ハルコン殿、一応これも規則でしてな!」と、すまなそうな表情でひとつ頷かれるため、こちらもひとつ頷いて黙認した。
さっそく書簡を開き、その文面を見てとても驚かされたのだが、……。
現地語ではなく、……何と、日本語で記されていたんだよね。