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「ハルコン殿、……こちらに記された言葉は、日本語? なのかね?」
王ラスキンの言葉に、私は思わず正気に戻った。
まさか、日本語とは、……。
やはり、女神様の仰られたとおり、イッシャラーさん達は、日本の旧軍の情報将校で間違いないのだと、よぉ~くワカった。
「はい、陛下。こちらの書簡は、仰るとおり日本語で記されておりますね」
「そ、そうか。やはり彼らもまた、『異世界転移者』とみて間違いないのだな?」
「はい。仰るとおりです!」
「「!?」」
こちらの言葉に反応して、王ラスキンと宰相は2人だけで小声で何事かやり取りされると、改めてこちらをじっと見てこられた。
「して、ハルコン殿。なんて書かれておるのだろうか?」
「そうですね。時候の挨拶の後、サスパニアの初夏の魅力、首都エッドに導入された公共インフラ(もちろん、現地語で表現しています)の先進性について、その詳細が記されておりますね!」
「そ、そうか、……。我が王都よりも、それは優れているのだろうか?」
「そこは、現地に入ってみないことには、私にはワカりかねます」
「まぁ、……ハルコン殿の仰るとおりであるな」
陛下はこちらの考えに同調して、宰相共々大きく頷かれていらっしゃった。
「次にですね、……イッシャラーさんの日本名と共に、日本での略歴が記されております。石原寛斎(いしはら・かんさい)陸軍中佐が首班で、その部下12名も連名で役職と共に記されております」
「……、なるほど。ハルコン殿と同じ時代から、イッシャラー達は転移しているのかね?」
「いいえ。私にとっては祖父の世代、大体80年ほど前の時代の人達ですね!」
「ふむ、……」
こちらの言葉をお聞きになった陛下と宰相は、再び2人だけで何事か話し合いを始められた。
私としては、その間黙って話し合いが終わるのを待たざるを得ず、長文の書簡の全容をなかなか伝えられないことに、気を揉まされてしまった。
「へ、陛下、……恐れ入りますが、先ずは全文を翻訳した後で、お話なされた方がよろしいかと存じます!」
「おぉっ、そうであるな。ハルコン殿、やきもきさせてしまい、誠に申しワケない! それでは、話を続けて下さるかな?」
「承知いたしました」
その後は、弱小国サスパニアの中興の祖となった、イッシャラーこと石原寛斎首相の業績の紹介が続く。
その業績の数々は、私の持つ現代日本の常識からすると、誠に隔世の感を禁じ得なかったのだが、……。
でも、国王陛下と宰相の心の琴線には触れたようで、……。
私の目から見て、度々お二人は腕組みをされたまま、何事か感極まったご様子で、……。時おりお二人が深く頷かれていらっしゃるのが、とても強く印象に残った。