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「……、以上を持ちまして、イッシャラーさんからの書簡の内容の全てとなります!」
ハルコンが石原寛斎の送ってきた書簡を翻訳して読み終えると、王ラスキンと宰相は難しい顔のまま、大きく長いため息をお吐きになられた。
「さて、……今回の件も、我々はハルコン殿の力をお借りせねばならぬようですな?」
陛下はそう仰りながら、じっとこちらの表情を見てこられた。
「はい。微力ながら、お手伝いをさせて頂きます!」
私は、ファイルド国の貴族だ。なるべくなら、この力をこの国のために役立たせたいと、ハルコンは思った。
「だがのぅ。我がファイルド国は、今更どこの国とも軍事同盟など組むつもりはないぞ! 現在の我が国は、『善隣外交』を国是としているのだからな!」
ハルコンもまた、陛下のお考えこそ道理に適っていると思った。でも、陛下の後方に控えている宰相は、別の表情をしていた。
「陛下、サスパニアのイッシャラーは、こんなものを我々ファイルド国に送り付けてきているのですぞ! ならば、内外の治安を守るためにも、ここは同盟も視野に入れるべきでは?」
宰相はそう言って、小さなガラスの小瓶に入った黒い粉末をテーブルの上に置いた。
ハルコンは苦々しく思いながら、その小瓶を見つめた。
まさかなぁ、……。これって、黒色火薬だよ!
女神様の懸念されたとおり、数年前私が開催した花火大会によって、石原寛斎らの足を速めてしまったのかもしれないと、ハルコンは思った。
「ハルコン殿、サスパニアでは、これを既に量産しているものとみて間違いないだろうか?」
ラスキン陛下が、お訊ねになられた。私は、その危険性にうんざりしつつ、「その認識で正しいと思います」とお伝えした。
「ハルコン殿、……貴殿がかつていた地球では、この『火薬』を用いて大規模な戦闘が行われていたと、以前に伺っている。向こうの近代戦は、人員と物量が効率よく生産され、流通することが肝要だということだが、……」
陛下の仰られていることは、近代戦のロジスティックスに関する話だ。
こちらの世界、ファルコニアにおいては、まだ学者や研究者らによって論文にまとめられていない概念と言える。
だから、陛下はこの世界での最先端の発想をお話になられているのだ。
「えぇ、仰るとおりです、陛下。相手は近代戦の専門集団です。このファルコニアの世界よりも数百年先の戦闘を経験しているワケですから、普通に戦っては、先ずこちらに勝ち目はないと言えましょう!」
その言葉をお聞きになると、陛下と宰相は2人だけで小声で何事か話し合われている。
だってさ、……。このままファイルド国と近隣諸国の連合軍がサスパニアとまともにぶつかっても、先ず勝ち目はないのだから、……。
でも、……だからといって、サスパニアのイッシャラー達の誘いに乗って、軍事同盟を結ぶのもどうかと、ハルコンは思った。
そんなことを思いながら陛下と宰相のやり取りを伺っていると、漸くこうお訊ねになられた。
「ハルコン殿、……女神様は、この件についてどうお考えになられていらっしゃるのか?」
「……」
なるほど。陛下は、私からより上位の考えをお聞きになり、判断材料にされるおつもりか?
なら、こちらも正直にお伝えすべきだと、ハルコンは思った。