「よし、第4劇場だって」
「はーい」
エトンを映画館の店員に見せると、すぐさま座席へのチケットを渡される。
「あ、食べ物や飲み物は買ってく?」
「モカねぇ……キャラメルポップコーンとチョコレートドリンク!」
「甘々ね……喉乾かない?」
「チョコレートドリンクがあるでしょー?」
「ううん……そうね」
「うん!」
迷いなく言い切るが、多分喉は潤わない。
「私はシナモンチュロスとメロンソーダの王道コンビでいくわ」
「わー!チュロスちょっと分けてー?」
「……いいわよ」
「やったー!」
チュロスは……体積が少ない分シェアすると30%くらいなくなるのだが……。
「ねぇモカ……さっきからリリィに迷惑かけすぎじゃない?」
マシュゥが見ていられないとばかりに口を挟んでくる。
「え?そうなの?リリィねぇね?」
「……そんなこと……」
「正直に言っていいんだよ?モカにはちゃんと言ってあげなきゃなんだから」
「マシュゥ~変なこと言わないのー!」
彼女に都合の悪いことを言ったマシュゥはほっぺたを引っ張られている。
「いてて……だってぇ……リリィだって困るよねぇ?」
「いいの!モカちゃんはね、私の妹なのよ?わがまま言って丁度いいくらいじゃない!」
こんな睡魔やわがままなんて、私を慕ってくれていることに比べたらなんのその!
「リリィねぇね~!」
それを聞いた彼女は嬉しそうにぎゅっと抱きついてくる。
ほらかわいい!もうこれだけでも3日徹夜していいくらいのご褒美でしょ?
「さ、行きましょ!」
「うんっ!」
チョロい私は上機嫌になってモカちゃんの手を引きながら劇場へ向かう。
マシュゥのあらすじだけしか情報を知らなかったわけた訳だが……この映画、青春の学園生活編から部内恋愛へと発展していく濃厚な"百合"モノだった……。
『あの……っ!先輩……あたし……っ!』
クライマックスが近づきつつある中で、唐突にモカちゃんが私の手を握ってきた!
強く早いその鼓動を押し付けるかのように私の手をぎゅっと握っている。
私はモカちゃんの方を見るのは恥ずかしかったからスクリーンを注視していた。でもやっぱりモカちゃんはその手を離さない。
『私たち、あの時から両想いだったのね』
そう言いながらスクリーンの中のヒロインたちが唇を重ねる。それを見るのもなんだか恥ずかしかったから、私はすっと目を逸らした。
その目線の先には、モカちゃんの目があった。どこか潤んだような瞳がスクリーンの光に反射してキラキラと光って見える。ずっと私の方を見ていたのかな?
「あ……」
つい声が出てしまう。
モカちゃんは私がようやく自分の方を見たことが嬉しかったのか、表情が柔らかに揺らいだ。
私は恥ずかしくなってまた視線を逸らした。
モカちゃんはまた私の手をぎゅっと握ってきたけど、もうモカちゃんを見ることが出来なかった。
スクリーンの暗転と共に目を閉じて、寝たフリをする事にした。
「ちゅっ!」
「……っ!」
するとモカちゃんは私の頬にキスしてきた。
なに考えてんのっ!?
平静を装って知らんぷりしていたけど、多分私のドキドキは、その手を伝って全部バレてたんだと思う。
そして、クライマックスを迎えていた映画はその後幸せな結末を迎えて終わった。
「はぁ~!面白かったね!」
伸びをして満足気に私に笑いかけてくる。
「……うん」
「ん?どうしたの?」
「いや!なんでもない!」
ぶんぶんと首を振って知らないふりをする。
「ふふっ!へんなの!」
モカちゃんはまるで何もなかったかのようにしているが……。
「付き合わせちゃってごめんね。でもすごく楽しかった!また一緒におでかけしてくれる?」
「もちろん!」
「よかった!じゃあ明日からもまた頑張ろうね!」
「ね!」
映画館で寝ることは出来なかったけど、なんだかすごく癒された気がした。