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翼のヒミツ

「うぅ……でももう眠い……」

あの状態で動き続けたわけだから、部屋についてすぐに私は眠気に襲われてしまった。

「お風呂入ってから寝ようね」

「んー……先に入っていいよ」

既にベッドに沈んでしまいそうな勢いだった私は、ひとまず仮眠を取ろうかと思いモカちゃんに先に入ることを促す。

「リリィねぇね寝ちゃいそうだから先入ろ?」

「ん~……」

眠気には勝てない……一旦休ませて……。

「……じゃあ、一緒に入ろ?」

急な提案に眠気が一瞬飛ぶ。

「えっ……うん……」

なんでだろう、否定することができなかった。

べつに、一緒に入っても何も問題ないし……お風呂入ってる最中に寝ちゃったら危ないし……。

気づけば言い訳を頭の中に並べ立てていて、流されるようにして浴室へ向かい歩いていく。



脱衣所でふらふらとしながらも一枚一枚服を脱ぐ。

「ちょ……モカちゃん、なんで見てるの?」

「……危ないから」

まぁ……そうかもしれないけど。

あんまり見られると恥ずかしいから、背中を向けるようにして服を脱いだ。

む、と声がしたような気もしたが、しばらくすると衣擦れの音がし始めたので彼女も服を脱いだのだろう。

「ほら、掴まって」

モカちゃんが私に肩を差し出す。

白くきめ細やかな肌には小ぶりな羽根が生えている。

その小さな背中は、服を脱いだばかりでまだしっとりと温かかった。

……自分の背中見られなかったからわからなかったけど、羽根の生え際って、こうなってるんだ……なんか……。

い、いや!なんでもない!

煩悩に振り回されないように目を閉じてモカちゃんに掴まりながら浴室へ向かう。



「ほら、座って?」

モカちゃんに促されるままひとつしかない風呂椅子に座る。

「頭洗うよ」

そう言って彼女は私の頭にシャンプーをつけるとわしゃわしゃとかき混ぜ始める。

「え、いいよいいよ!別にひとりでできるって」

「だぁめ。ほら、目痛いからじっとしてて?」

「う……」

目をつぶったまま頭を撫で回されると、やけにくすぐったく感じる。

自分ではいつもやってることだし、美容院でもなんとも思わなかったのに……なぜか今、すごくドキドキしてる。

「痒いところはございませんかぁ?」

お決まりのセリフも今日だけは特別だ。

「流すね」

手際よく私の髪につけたシャンプーを流し、次はコンディショナーを塗っていく。

「モカちゃん、上手だね」

「えー?」

「人の髪の毛って、あんまり扱いにくくない?」

「んふふ、リリィねぇねのだから」

……どういうことだろ。

「はい、流すからね」

コンディショナーまでしてもらった髪は美しく艶めいている。

「じゃあ……次は……」

今度はボディソープまでも準備し始める。

「ちょ、ちょっと待って!そ、それはぁ……ね?」

「ん?」

首を傾げてこちらを見つめる。

「それは自分で……ひゃうっ!」

私が言い終わらないうちにもうモカちゃんは私の身体にボディソープを塗りたくり始めた。

「い、いいからっ!」

でもモカちゃんはそのまま泡を滑らせて私の肩口から腰にかけてを撫でるように洗う。

「くっ……くすぐったい……」

モカちゃんの指先が触れる度に、身体が跳ねてしまいそうな柔らかい刺激が私を包み込む。

頭を洗われている時とは比にならないほどのぞくぞくとした感覚が何度も上ってくる。

「こことかぁ……汚れ、溜まりやすいんだよ」

モカちゃんが私の羽根の付け根を念入りに洗ってくれる。

「あ……あっ!ちょっ……そこっ!」

今まで感じたことのない刺激だった。

もともと羽根の生えていなかった私には知る由もないことだったが、どうやら硬い翼部分とは違い付け根の裏側は随分と神経の集中した場所らしい。

そこをわしゃわしゃと撫でられる度に力が抜けるような感覚が私を襲い、呼吸が乱れてくる。

「あ、あの……モカ……ちゃん」

「んー?」

私の様子を知ってか知らずかモカちゃんは平然としながら私の弱いところを未だに撫で擦っている。

「も……もう……」

座っているのに足が震えてきた。

くすぐったさが限界を超えそうな不思議な気持ちになり、我慢できそうにない。

「もう……だめだったら!」

「わっ!」

咄嗟に立ち上がり翼をばたばたと動かす。

「わぷぷ……へへ、やったなー!」

翼から飛んだボディソープを食らったモカちゃんは私をくすぐるように全身にボディソープを擦り付けてくる。

「あは、あははっ!ちょっともう〜!」

さっきまでの感覚と違う柔らかい刺激に戻ったので、まだ耐えられそうだった。

危ないな……あそこは。

「はい、おしまい。今度はモカちゃんね」

「えー?もういいの?」

「いいの!」

さっと身体から泡を洗い流し今度はモカちゃんを風呂椅子に座らせる。

「はい目閉じてー」

「はぁい」

私にしてくれたのと同じようにシャンプーをつけて頭を洗ってあげる。

小気味よく泡の弾ける音が響き、モカちゃんも嬉しそうに鼻歌を歌う。

さっきモカちゃんが言ってたことが、なんとなくわかった。

こうして頭を洗っていると、なんとなくどこに触れて欲しいのかわかってくる。

モカちゃんをよく知っているからこそ、一挙手一投足でくすぐったそうだったりちょっぴり気持ちよさそうだったりといった反応の正体を察することができる。

時々鼻歌が上擦ったように乱れる時、無性にイジワルしてあげたくなる気持ちが湧く。

私の指が耳を掠める度に、彼女は声と肩を跳ねさせていた。

だからさっきの仕返しとばかりに、耳をさわさわと撫で上げてみた。

「ふふ〜ん……ふぁんっ!」

鼻歌は中断されモカちゃんはびくりと身体を浮かせて甲高い声を上げた。

「ん〜?どうかした?」

もちろんわかってるけど、敢えて知らないふりをする。

「な……なにがぁ?」

強がって平気な風にしているけど彼女の肩はまだぷるぷると小刻みに震えている。

あー……これ絶対モカちゃんもさっきわざとやってた。楽しすぎる。

「はいじゃあ次!コンディショナー!」

興が乗ってきた私はさっきされたみたいに羽根をいじってみたくなったので手早く泡を流しコンディショナーも済ませる。

「身体も洗ってくれるの?」

モカちゃんはなんとなく察しているかのような若干緊張と期待の混ざったような声音で私に訊ねる。

「うんうん。ほら座ってて」

「は……はぁい」

とりあえずボディソープをつけて普通に身体を洗ってあげる。

羽根の付け根にはまだ触らず、肩、腕、背中、腰……焦らすようにして羽根の周辺を洗う。

そして翼の部分に取りかかる。

さっき洗ってもらった時にもわかったが、この部分は硬くてあまり触られても気持ちよくない。

裏側は特に敏感になってはいるが、先端ほど硬く感覚は薄い。ただそれが付け根に近づいて行く程に柔らかくなっていくらしく、先端から付け根にかけてをじわじわと触られると、水かさが増していくかのように気持ちよさが高められていく。

モカちゃんも翼は同じだからきっと通じるはずだ。

彼女の翼の硬い部分からゆっくりと洗っていく。

まだ彼女は平然とした様子であるが、翼の裏側を揉み込むように洗い始めると、身体をくの字に曲げるように腕を胸の前で交差させ、もじもじと太ももを震わせ始める。

効いてるな……。

確信を持った私は焦らずペースを保ちながらも確実に羽根の付け根へと近づいていく。

「う……うぅ……ふっ……ふっ……ぅ」

上下する肩と隠しきれていない呼吸音が彼女の現状を物語る。最早耐えられそうにない。

だが私も更に追い込みたくなってしまった。

これ以上やったらどうなるのか?

気になって仕方なくなってしまう。

だから私は、彼女が私にしたのと同じように、羽根の付け根をわしゃわしゃと撫で擦った。

「うぁ……はっ……あっ!あぁっ!」

一際高い声を出して彼女の身体が震える。

「どうしたのぉ?」

くたりと力の抜けた様子のモカちゃんに、わざとらしく顔を覗き込むようにして問いかける。

「……う、うぅ……」

浅い呼吸を繰り返しながら潤んだ瞳で私を見つめる。

「え……えっちぃ……」

絞り出すようにして放たれた言葉は、かわいらしく艶っぽい色を帯びていた。

「な、なな……なにが?」

「…………」

シラを切る私に、天使は頬を膨らませる。

椅子に座ったままかばりと私の腰に手を回して抱きすくめる。

未だに荒い呼吸が私の胸に何度もあてられてむずむずする。

お腹に押し付けられたモカちゃんの胸からは、尋常じゃないほどの心臓の鼓動が伝わってきたけれど、多分モカちゃんも、同じ音を聴いているはずだ。

「リリィねぇね……」

私を見上げながらモカちゃんは切なそうな声で私を呼ぶ。

「モカちゃん……」

それに応じるように私も彼女に腕を回す。

満足そうに私の胸に顔をうずめると、しばらく時が止まったかのような沈黙が続く。

時折浴槽に滴る水温や、未だに高鳴る私たちの鼓動だけが時の流れを告げてくれた。

「……もう出よ?」

一言そう言うと、モカちゃんはさっと身体を洗い流し、私の手を引いて浴室から出た。

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