カロンは相変わらず鳥たちを観察し続けていた。
「今のところ、おまえの宿敵になりそうなのは、あそこにいる黒禿鷲、蛇喰鷲、
紙月は、カロンが示した方面を見やった。其処には百戦錬磨を宿命だとでも自任するかの如き強烈な眼光をもった猛禽類たちが並んでいた。とくに公佗児には、何か見るだけで人を
侍の羽織を思わせる黒く大きな羽、肉を引き裂くために最適化された嘴、強靭な脚、そのすべてが紙月を威嚇しているかに見えた。
「それがどうした? 俺は地上にいるんだ。攻撃したければ降りてくるしかない。何も恐れることはないだろ」
「……だから上空を気を付けなさいって」
紙月は猛禽類などどうでもよかった。それより、
そして──宴に集まった人々の関心ももっぱら恐鳥と紙月に集まっているようだった。
それもそのはず、江戸城にいる者なら〈鳥奥〉を見物して大抵の鳥は目にしている。
珍しいのは、つい昨日到着したばかりの火喰鳥と、得体の知れぬ恐鳥くらいだろう。
これほど人々が集まった場では、厭でも視線を感じずにはいられない。
「甘白のことは残念だったな。ああもあっさり殺されるとは」
カロンが大して感慨もなさそうに云う。まあ、この女にしてみればただの鳥見役にすぎない。紙月はそれに応じる。
「この国では命は安い。戦国時代なら、首には少しは値打ちがあった。だが、今の時代では首にすら価値がなくなってしまった。カロン、おまえだって死ねば同じくらい安い。石ころみたいに転がされて終わる」
「ふふ、莫迦なことを云うな。こんな美しい石があるわけないだろうに」
目出度い女だ、と紙月は思った。恐らく、この〈闘鳥の宴〉が終われば勝敗に拘わらず謀反の罪でどちらも殺されるに決まっているのに。
それとも何か秘策でもあるのか?
カロンの瑪瑙の如き深い色合いをした目は、しかし何も語らなかった。
とにかく、それでも自分には勝つ以外の選択肢はないだろう、と紙月は考えた。
ほかの鳥はどうにかなるとして──あの恐鳥を倒せるだろうか?
あのように大きな鳥は観たことがない。
あれに当たれば、己の身もどうなることかわかりはしない。
そこへ──徳川家光が現れた。
公佗児とお揃いの、黒い羽織を纏い、鋭い眼光で庭を見渡すと、家光はその視線を、何故か紙月のところで留めた。
「おい、醜い化け物鳥、覚悟は定まったか?」
紙月は何も答えずにただじっと家光を見た。
「ふん、何だその目は? おまえ俺を殺そうとしてないか?」
図星だよ、と紙月は心中で毒づいた。
「抑えろ、其方を挑発しているだけだ」とカロンがすぐに牽制する。
分かってる、と短く答えた。だが、怒りは収まらない。
そして──。
「
ひときわ大きな声で叫んだ。
その奇声に、場内がざわめいた。とくに初めて紙月を目にするであろう大奥の姫君たちが扇で口元を隠しながら悲鳴を上げた。