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第8話 宮下 藍瑠の決意と誤算

「だから、あの場面は海に飛び込んじゃダメって話よ~クククク」


「確かに、フフフ、じゃそのまま来た道帰れよって、ウフフ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・



「何...あれ...あれって雨宮さんだよね?...屋上のアリエルとあんな楽しそうに...それに城二君のあんな優しそうな笑顔...」



屋上のドアの陰から二人の様子を覗いていたのは宮下 藍瑠だった





私は宮下 藍瑠、私には親の決めた婚約者が居る...北野 城二という名の婚約者の彼はおおよそ常識と言うものを持ち合わせてない下衆で理不尽な最低最悪の男だった


最初は私も家の為になんとか城二君と上手くやって行こうと考えていたが...


「なぁ~藍瑠今晩俺の部屋に泊まりにこいよ...婚前交渉ってのも悪くないぜぇ」


「なぁ俺学校でヤッてみたいんだよ、良いから相手しろよ」


「はぁ~てめぇふざけんなよ!!今時お堅い婚約者なんか聞いたこと無いぞ!!いいから早くヤラせろ!!」


「あぁぁ?何してくれてんだぁテメェ、俺の女に声かけて来て無事に済ます訳ねぇだろがぁぁコイツ病院送りにしてやる!!」


私を見ればセクハラは当たり前、隙を見せれば直ぐに身体を要求してくる、

街中で私に道を尋ねて来た中年のサラリーマンの男性をナンパだと言い張り取り巻きと徒党を組んで脅し暴力を振るう


私の見てない所でも、学校の女子生徒に対するセクハラ発言、自分が気に入らないと理不尽な難癖をつける、

そんな彼は北の名家である北野家の権力を傘にして、やりたい放題


学校中・・・・いや学校外でも彼の事を忌み嫌って誰も近づこうとしない...近づく連中は彼と同じくどうしようもない小悪党ばかり・・・・


私は何度も何度も、お父さんとお母さんに状況を訴えて婚約解消をお願いしたが、

両親は家を守る事しか考えておらず、旨い事交わされ取り合ってすら貰えない・・・私は仕方なく姉の愛華あいかに相談すると


「あんな外面だけしか考えてない親なんか無視して良いのよ! 私は家を出て本当に良かったって思ってる、藍瑠もそんな家に義理なんか感じなくていいんだからね、 藍瑠は藍瑠の幸せを掴みなさい」


姉さんに言われた事で吹っ切れた私は婚約破棄を城二君に告げるのだと、強く両親に話すと私に「宮下家を潰すつもりか」と泣きつきながら考え直す様に懇願する有り様


自分の置かれた状況に絶望し学校の中庭のベンチに座り俯いていると


「きゃっ!!」


頬に冷たい感触が!


「よっ...藍瑠さんどうしたの?また兄貴に何かされた?」


私にジュースを差し出して満面の笑顔で声をかけて来た男子生徒...この学校で城二君の権力が唯一届かない男子生徒


「尊君...」


私に声を掛けて来たのは、北野 尊きたの たける君だった...彼はあの城二君の弟なのだが、実際は血のつながらない北野家に引き取られた養子だ、しかし城二君とは真逆で紳士的な言動、誰にでも分け隔てなく優しく接する事が出来る穏やかな性格


その上、優れた才能に胡坐をかかないで日々鍛錬を惜しまない直向きな努力家でもある


「私...もうどうしたら良いか...」


そう...私は城二君の理不尽な扱いについて尊君に相談していた...彼しか頼れる人が居なかったから...尊君は私の悩みに真剣に向き合ってくれ一緒に考えてくれた


「ごめんね...尊君も北野家では主張しにくい立ち位置って事は解ってるんだけど...他に頼れる人も居なくて...」


「...藍瑠さん、愛華姉さんの言う通りだよ!藍瑠さんがこんな酷い扱いを受けるのはヤッパリ変だよ!宮下家の事は一旦置いておいて先ずは自分自身の事を第一に行動するべきだよ」


「尊君...」


「宮下家の事は僕から北野のお義父さんに相談してみるから...何かあっても俺がなんとかして見せる、だから藍瑠さんは藍瑠さんの思う様に!」


尊君からの後押しも有り、私は城二君に婚約破棄を告げる決意をする...


「あの兄貴の事だ...婚約破棄を告げられればプライドが傷つけられ逆上して藍瑠さんに危害を加えるかもしれない...だから僕も一緒に付き添うよ」


私は尊君の事を全面的に信用していた...こんな頼りになる存在が私の中で徐々に存在が大きくなっている事に今更ながら気付いてしまう


そして週明けの月曜...尊君と示し合わせ何時もより早めに登校し城二君が登校してくるのを待つ


しかし友人の女の子よりメッセージが届き、城二君が予想外に早めに登校して来ているのを知った

私の気持ちが準備が出来てないまま、今まさに目の前に城二君がやってくる


しかし・・・・もう後には引けない...そう頭の中でだれかが囁く


「私、宮下 藍瑠は今を以って、北野 城二との婚約を破棄します!!」


「そうか・・分かった婚約破棄を了承する、今まで沢山迷惑をかけて、すまなかった」


城二君はあっさりと私の要求を呑むと、深く頭を下げその場から立ち去ろうとしていた


「俺のとって来た行動と言動で此れまで沢山の人に迷惑をかけて来た、藍瑠...宮下さんのような素晴らしい女性には、きっと相応しい人がいる」


「へっ?宮下さんって...ちょっと城二君?」


急に苗字を呼ばれ他人行儀な態度を取って来る城二君に、自分から関係と絶とうとしてるのに戸惑ってしまう...本当に滑稽だ


「これからは、もう君に関わる事も無い...弟...尊とも気兼ねなく仲良くしたらいい、きっと俺なんかより君に相応しい自慢の弟だから」


「それじゃ二人とも、さようなら」


城二君の背中が遠くなる...もう此方を振り返る気配も無い...何故か解らないがこの瞬間私は取り返しのつかない事をしたのでは無いかと言う感覚が襲ってきて、身震いする程に怖くなる


そんなやり取りを見ていた周りの生徒は口々に私の事を浮気者だの二股だの陰で言い始め、その場に居たたまれなくなる


「ねぇ...尊君これで本当に良かったのかな...?」


尊君にそんな陳腐な事を尋ねてしまい自己嫌悪が襲う...私はこの期に及んでまだ尊君に判断の責任を押し付けようと...最低だ


尊君は何か言っていたが、私は一人になりたいと告げ、その場から逃げ出した



一件以降で、冷静になり自分のしでかした事があまりにも自分勝手であった事に気付いた...このままでは・・・


私はもう一度きちんと婚約破棄について城二君と話をする為、昼休みを狙って彼の教室を訪ねて見たが...クラスの子に用事があると言って何処かに行ったと聞かされ渋々諦める


しかし次の日も、その次の日も...城二君はお昼になると何処かに消えて居なくなる


放課後の、帰り道で前を歩く三年の先輩達が、2年生の「北のクズから」が昼になると屋上へ消えて行くのを見たと、馬鹿にしながら話しているのが聞こえた


私は意を決しお昼に屋上へと向かう...なんとか城二君と穏便な婚約解消をしなくては・・・


屋上のドアを開け周囲を見渡していると、貯水タンクの陰で城二君が座ってパンを食べてる後ろ姿が見えた


「じょ――――!?」


声を掛けようと近寄ってみたら城二くんの横には誰か居て楽しそうに談笑していた、ちらっと見えたスカートの裾から女子生徒だと言う事は分かった


「何よ...城二君は浮気してたんじゃない...だから婚約破棄をすんなり受け入れたんだ...」


その場で引き返せば良かった...城二君の浮気だと言う事にして納得してれば良かった...だけど私はあの性格の終わってる城二君の相手をしてる物好きの相手がどんな女の子なのか興味が出てしまい、その場に留まり様子を伺った


「一体誰よ...あんなクズ下衆な男を好きになる様な、もの好きな女は...」


暫く隠れて様子を見てると城二君は嬉しそうに女子生徒の手を取り満面の笑顔でお礼を言っていた...そして女子生徒の顔が貯水タンクの足場の隙間から確認出来た


「何...あれ...あれって雨宮さんだよね?...屋上のアリエルとあんな楽しそうに...それに城二君のあんな優しそうな笑顔...」


二人の楽しそうな雰囲気に言いしれぬ息苦しさと不安を感じ、私は逃げる様に屋上を後にする


「何...この胸のざわつきは...」



藍瑠は自分の心境に戸惑いながらも振り払う様に階段を駆け下りる、だが振り払っても振り払っても二人の楽しそうな笑顔が頭から離れる事はなかった











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