夕方学校帰り、俺は皆川先生と共に学校の校門の施錠をしていた
「言い方を変えよう、お前は1年の時の北野 城二と同じ北野 城二なのか?中身があまりに違い過ぎるんだが?」
「俺は、北野 城二ですが中身は別人です」
普通に聞いてれば頭のおかしい人間の戯言だと思われるだろう
「信じられないと言いたい所だがな・・しかし、複雑な話の様だ...場所を変えよう、詳しく話せるか?」
俺と皆川先生は学校近くのファミレスに立ち寄る
「好きな物を頼むといい、ここは私が出そう」
皆川先生はそういうとウエイターを呼びメニューを見ながら注文をはじめた
俺はコーヒーだけ注文し他は断った
「遠慮はいらんぞ?」
「いえ家でご飯を用意してもらってますので」
「・・・まぁそう言う事なら仕方ない」
俺にコーヒーが運ばれて来て一口くちに含むとそっとカップを下ろし話を切り出す
「これは、先生の胸の内にだけ留めておいて下さい」
「約束しよう」
「僕はこの世界とは別の世界で生きていた南原 譲二という34歳独身のしがないサラリーマンでした」
皆川先生の反応が怖くて揺れるコーヒーの表面に映る自分の顔を見ながら話す
「有る時、僕はこの世界の北野 城二になっていました」
「ずいぶん端折るな・・突然すぎないか?」
「そうですね、実は僕にもこの辺の経緯は解ってないんです」
「ただ・・・僕はこの世界の事を知っていました」
「どう言う事だ?」
「この世界は僕の遊んでいたゲームの中の世界なんです」
「??ゲーム?」
「はい、魔都東京1999という名の学園恋愛バトルゲームです」
「・・・・つまり私達はそのゲームの登場人物だと?」
「その通りです、ちなみに皆川先生はその中では恋愛対象のヒロインの一人という位置づけです」
「フフフ・・・私が恋愛・・・あり得ないな・・・」
「そこは...まぁ良いでしょう・・・大事なのはこのゲームの主人公は僕の弟である北野 尊だという事です」
「つまり・・・私を含めた何人かの恋愛対象も北野 尊だというのだな?」
「そうですね」
「・・・・・ますます解らん・・私とお前の弟に接点等無いはずだが?」
「すいません、未来の話しは出来ません・・・というか既に未来は変わってしまってます」
「何かお前が干渉したのだな?」
「・・・・干渉したのでは無く干渉しなかったと言うのが正解ですかね・・・」
「先生も噂で聞いたと思いますが、僕は以前に婚約者であった宮下さんに公衆の面前で婚約破棄を告げられました」
「ああ、それでお前がアッサリ了承したと聞いたぞ」
「ええ、まさにそれが分岐点でした」
「つまり本来は婚約破棄等なかったと?」
「違います、婚約破棄は発生しますこれは変わりません、ただその際に北野 城二は逆上し弟に対し決闘を挑んで後日完膚無い程やられてしまいます」
「その後お前はどうなる?」
「死にます」
「!?」
「具体的にどの様に死ぬのかは分かりませんが、両親からも見放され仲間だと思っていた連中からも見捨てられ絶望の内に人知れず死ぬ事になってます」
「・・・・・つまりお前は自分の運命に抗うつもりで婚約破棄を受け入れたと?」
「その通りです、それに宮下さんに対し酷い事をしてきたのは事実です、俺に覚えが無くても宮下さんには耐えがたい苦痛だったはずです」
「成程な・・・それでお前は心を入れ替え・・・まぁ本当に心が入れ替わったわけだが・・フフフ」
「確かに・・・・ふふふ」
もう、ひと口コーヒーを口に運び軽く息を吐き話を続ける
「俺は理不尽な事も黙って堪え我慢する事しか出来ない弱い男でした、この世界で北野 城二に同じ思いをさせられてる人たちの気持ちが俺には判ります」
「宮下 藍瑠とか?」
「そうですね・・・宮下さんもその一人です、だからという訳では有りませんが、彼女には誰よりも幸せになって欲しいです」
「これからお前はどう生きて行くつもりだ?元の世界に戻る方法を探すのか?」
「・・・正直、元の世界には未練は有りません、だから持てる知識をフルに活用してこの世界で生きて見ようと思います」
「出世欲、金銭欲、性欲、物欲・・・お前は生存欲と言った所か・・」
「先生・・・〈生きてこそ見える世界が有る、命を諦めるな抗え〉ですよ」
「!?そ、それを・・・どうしてお前が・・!?」
おれは皆川先生の問いに答える事無く席を立ち自分のコーヒー代をテーブルに置く
「いや・・・ここは私が持つと・・」
「『先生が生徒に個人的に便宜を図るのは倫理に反する』ですよ、皆川先生」
「・・・・・・そうか・・そうだな」
「では、くどい様ですが、この話は先生の胸の内にだけ留めておいて下さい、ではお疲れ様でした」
「・・・・・北野・・・いや、城二・・・頑張れよ」
皆川先生に頭を軽く下げ、ファミレスを後にする
(さて・・・連休前に・・・両親にも婚約破棄の件伝えておかないとな・・どう出るかな・・)
既に辺りは夕焼けでは無く、すっかり暗くなっており道には街灯が点灯していた・・・
皆川先生に今の時点で本当の事を話したのは、秘境テスト前の神視の資格試験の際に皆川に協力する土着神、土童(つちわらし)より素性がバレる事は分かっているからだ
月明かりに揺らぐ皆川先生の煌めく瞳を思い出しながら、決意を固め家路につくのだった