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第11話 重なる面影と、苦い思い出

「ただいま帰りました」


玄関を明け靴を脱いでると、リビングからパタパタとスリッパの音が聞こえる


「お帰りなさいませ、城二様」


頭をさげながら俺に両手を差し出す


「ああ、鞄くらい自分で片付ますから」


「え!?で、でも教科書やノートを片付けませんと...」


心配そうに俺の方を見る道代さん


「イヤイヤ、そんな事くらい自分でしますから」


「イヤイヤ、今まで私がずっとお世話してましたから!」


「イヤイヤ...」


「イヤイヤ...」



・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・



何とか道代さんを説得し、自分の部屋で着替えを済ませるとリビングに行き道代さんの用意してくれた夕飯を頂く


「わぁ~今日はクリームシチューですね!美味しそうだ、いただきます!」


「......」


スプーンでジャガイモと鶏肉の入ってる個所をすくうと口に運ぶ


「んんんっ!旨い!!」


「......」


俺が旨そうにシチューを食べてる様子を疑った様な目で見つめる道代さん


「ふぅ~3回もお代わりしちゃいました、ご馳走様でした!」


手を合わせて自分の食べた食器を手に台所に行こうかとした所で食器を持つ手を道代さんに捕まれる


「?どうかしましたか?」


道代さんの方を向くと何やら俯きながら肩を震わしてる


「...で...か」


声が小さくて何を言ってるのか分からない


「え?すいません聞こえませんでした」


「私が邪魔になったんですかぁぁ!!」


「うわぁぁ」「きゃぁ!」


道代さんが急に大声を出すものだから、驚いて後ろに倒れてしまった


「っててて、申し訳ありません道代さん...無事..!?どわぁぁ」


俺は道代さんの左胸を鷲掴みして覆いかぶさってしまっていた、慌てて身体を起こそうとするがガシッと首を道代さんにホールドされてしまう


「城二様...私が至らぬ所は直します...その...お断りしていた...夜の...も..その...」


「道代さん!?」


「わ、私はもう必要ないですか!?」




『譲二君...私ってもう必要ない?』


『私は譲二君の支えになってないかな?』


『御免なさい、私、田舎に帰ってお見合いする事にしたの』


『今まで有難う、さよなら』



彼女が出て行った時の記憶が蘇る...俺が頑張っていたのは彼女を幸せにする為だったはずだ


最初は仕事の悩みや愚痴を零しつつも彼女が明るく励ましてくれて、毎日幸せで心が救われていた


それがいつの間にか頑張る事が目的になってしまい、彼女との会話も相談も減って行き 彼女は俺の中に自分の居場所を見失い俺の元から去っていった


美千代...元彼女の名前だ、大学時代から一緒に馬鹿して、喧嘩して、大好きで、付き合って、同棲して、そして別れた...元彼女



「美千代(道代)...」


俺は道代さんに元彼女の面影を投影しながら優しく微笑む


「城二様...」


「道代さんは俺にとって大事な女性ひとです、それは今も昔も変わりません...自分は必要じゃないなんて悲しい事、言わないで下さい」


「で、でも...では、何故前みたいに私にお世話させて頂けないのですか?」


「そ、それは...」


「それは?」


俺はゆっくりと立ち上がり道代さんに手を差し出す、道代さんはオズオズとその手を取り俺に引かれるがままにその場から立ち上がるとそのまま見つめ合う形になる


「僕は、このままだと北野家を追われる事になり破滅の未来しか残されてません」


「!?な、何故その様な...」


そっと道代さんの両肩に両手を置き微笑む


「それは1年前から北野 城二という男を見て来た道代さんなら解りますよね?」


左の肘を掴みながら斜め下を向き俺から視線を外す道代さん


「大丈夫です解っています...道代さんが俺の事を嫌っている事は」


「そっ!!そんな事は御座いません!!」


俺の言葉を聞いて必死になり否定する、しかし俺の目を見て誤魔化せないと思ったのだろう...俯き加減に自分の気持ちを正直に話だす


「立花の家は代々北野家に多大な支援を頂いており、私も両親や祖父母から何度も何度もその事を聞かされて育ちました、そして北野家に城二様が誕生された時...未だ3歳でしたが両親には何れ城二様の身の回りのお世話をするのだと言われ育ちました」


(概ねゲーム内の設定通りだな)


「そして城二様が東京の高校に通われる事が決まった時、偶々たまたま東京の大学に合格していた私に城二様のお世話をする機会を頂きました」


「しかし...」


道代さんが苦しそうに俯き言葉を詰まらせる


「ここからは言いにくいだろう、俺が勝手に喋るから頷くだけでいい」コクン


「お世話する相手の城二は乱暴で理不尽、道代さんが弱い立場である事を良い事に性的な嫌がらせ、それでも婚約者と同じ高校に通い辛抱強くお世話をすれば何時か人の痛みを分かってくれると信じて今日まで付いてきた」


コクン


「有難う、こんな俺について来てくれて、そして本当に申し訳ない」


道代さんに頭を下げると、道代さんは慌てて俺の肩に手を添え下げた頭を上げさせようとした


「そんなクソで下衆で馬鹿な俺もようやく気付いて自分の今までの行いを改めて見直す事にしたんです...」


「...実は、今日まで言い出せなかったけど宮下さんとは婚約を解消したんです」


「えっ!?えええええ!?」


口を大きく開け驚きのあまり腰を抜かす道代さん


「俺はそれで良かったと思ってます、今まで俺のせいで散々苦しんだ女性ひとです、当然の決断だと思います」


「そ...それで...城二様は此れから、どうされるおつもりですか?」


俺が言った先ほどの家を追い出されるという話が見えて来て不安になっている道代さん


「これからは、精一杯全力で努力して足掻いて生き抜いて行きたいと思います」


俺からの前向きな言葉を聞いて、ホッと胸を撫でおろす道代さん


「ふふ、なんだか城二様が別人になってしまわれた見たい。。フフフ」


「アハハハハハ、生まれ変わった気持ちでぇ~みたいな~(本当に別人だけどね)」


「でも...私今の感じの城二様...その嫌じゃないです...なんだろ?上手く言えないんですが、前から知っていた?ようなな..?」


(美千代 ...)


「アハハハ、気にしないで下さい私おかしな事言ってますねぇ~でも!城二様!私のお世話の仕事は奪わないで下さい!!良いですね!」


俺は道代さんの迫力に押されコクコクと頷く


「でもこれから両親に婚約解消の事伝えないと...もしかしたらこの時点で勘当もあり得ます」


美千代さんは、清ました顔で大きな胸にポンと手を置き


「例え北野家を追い出されても私が養いますから!!」


「ア、アハハ..ハ..不吉な事を言わないで下さい...でも、心強いです有難う御座います」


俺の覚悟を道代さんに伝えると、先ほどまでの不安な表情は消え晴れやかな笑顔になっていた


「で、では食器の片づけを頼んでいいですか?」


「はい!勿論です!」


鼻歌を歌いながら嬉しそうにキッチンの方へと向かった道代さんにお風呂に入る事を伝えリビングを後にした


・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・


「さて...運命の分かれ道だな...これはゲームにも無かった展開だ...よし!!」





俺は先程、道代さんに告げた覚悟を思い出し緊張で震える指でスマホの電話帳から発信をタップする






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