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第12話 北野家の決断と宮下家の事情

俺は自宅マンションの自室にて椅子に腰かけ父親に対して電話を掛けようとしていた


正直ゲームにおける北野家の両親については明確な描写はそこ迄多くない


ただ実の息子が最低のクズだったとしても、なんの躊躇いも無く家から追い出す所の描写から察するに、情よりも実に重きを置いてるのだろうと推測する


そんな、ドラステックに物事を決めて来る相手に下手な話の持って行き方をすれば、主人公との決闘イベントが無くても再び死亡フラグに繋がる可能性も有る


迂闊に報告出来ない今の状況が両親に婚約破棄された事を連絡出来て無かった一番の理由でもある


しかし何時かは知られる事になる...


先程、生きる為に覚悟を決め努力すると道代さんに熱く話した事で迷いを振り払えたのだろう


タップした発信画面の上で呼び出し中...の文字が小さく表示されているのを眺めている


頭の中で父親の人也ひととなりを想定しながら、イメージで会話の流れを数パターンを用意してきた...


すると通話0:01の表示に切り替わった


『城二か...こんな時間に何か用か?』


電話から聞こえる声には久々に息子から電話が掛かってきた事を喜んでる様子は一ミリも感じない


(やはり...そういう親か...これは気を引き締めて行かないとな)


「ご無沙汰してます、お父さん」


『...何だその気色の悪い言葉遣いは...今度は何を仕出かした?』


(確かに例の決闘後で一行だけだが城二が父親に「おい!親父ぃ何で俺が家を追い出されんだぁ!!」と言ってた台詞があったな...普段はそんな感じの接し方か、まぁ今回はこの口調で押し切ろう)


「はい、この度私の不徳の致すところで宮下 藍瑠さんとの婚約を解消する事となりました」


『...なんだと?...もういっぺん言ってみよ』


落ち着いた言い方だが明かに声質に怒気を孕んでいた...俺はマイクの部分を手で押さえ一旦深呼吸してから手をどかしもう一度告げる


「この度、私の方の有責にて、宮下 藍瑠さんとの婚約を解消する事になりました」


『...言い訳は何かあるか?』


「言い訳は御座いません」


電話口でも判る位の大きな溜息が聞こえる...人が落胆と失望したらこんな大きな溜息が出るのだと何処か冷静に考えてる自分が居た


『つまり、宮下家の令嬢には一切責任は無く、全ては貴様の責で婚約解消に至ったとそう言う事で良いのだな』


「はい、その通りで間違い御座いません、全責任は私に有ります」


『...で?』


父親の声は底冷えがする程冷たかった...この返しは俺にどう責任を取るのかと言いたいのだろう、想定していた会話の流れで一番最悪のパターンだ...仕方ないか


「これは、今回の不始末を招いた私から言うべき事では無いかも知れませんが、宮下さんは弟の尊を憎からず想っておられると思います」


『...経緯を聞こうか』


「まず私は自分の身勝手な振る舞いにて学校内外に於いて、宮下さんを含めた大勢の方にご迷惑をお掛けしてきました、その事はお父さんもご存知かと思います」


『...』


「その事で宮下さんは弟の尊に私の事を相談してた様です、そしてそんな宮下さんの悩みを尊は親身になり相談に乗ってくれていた様です」


『...それで宮下の息女が尊に想いを寄せたと?』


「そこ迄は私には解りません、しかし私は宮下 藍瑠さんからすれば嫌悪の対象でしか無いでしょう、私が招いた事ながら、このまま婚姻となっても双方にとって不幸な事にしかならないと思います」


『それで?結局お前はどうするつもりなのだ?』


「お父さん...僕は今までの自分の行いを返り見て、反省し身を正そうと決意しました」


『...言葉だけでの反省など既に聞き飽きた...貴様などに何が出来る?』


「...お父さん、僕は今回の学科試験及び秘境テストで学年上位10位以内を目指し今真剣に取り組んでます」


『なに?勉強もまともに出来ない、神視すらまともに出来ない貴様が10位以内?寝言は寝てから言え』


(ここが...ここが、俺がこの世界で生き残れるかを、自分で選択する最初の分岐点...)


「10位以内を取れなかった場合は、責任を取り北野家を出奔します」


『ほう、儂は冗談が通じないのは良く知ってるな?』


「(そんな事は知る訳ないけど、まぁそんな感じするよな...)はい、良く存じてます」


『お前にしては珍しく、まともな判断をしたな、多少は成長した様だが少し遅かったな』


「お言葉ですが、人間、努力を始めようとするのに早いも遅いも無いと思います」


『お前がそれを言うか?と言いたいが...まぁ良い今回の件はお前が言い出した事だ覚悟はあるのだろう、お前の言う遅くない努力とやら楽しみにしてるぞ』


「はい、では失礼します」


フゥ―――


電話を切りスマホを力なく下に下すと胸にため込んだ息を緊張と共に吐き出す


「これで後が無くなった訳だ...後はやり切るのみだ」


俺は少し前から付けだしたノートにこのゴールデンウイーク中に達成するべき課題と到達するべき小目標を書き記している、そこにカレンダー5月13日のテスト日に〇を書き足した


「先ずは、この神視レベル20達成をどうしてもやり遂げねば...」





●東京都内 白銀台 高級住宅地  宮下邸



「はい、はい、そうですか...はい...私も今初めて聞きました...はい、娘には私共より真意を確認します」


「この度は大変失礼致しました...では、後日改めてご連絡させて頂きます」


シルクのガウンを着たまま受話器を置いた中年の男性は、暫くその場から動けずにいた


「あ、貴方...北野様は...何と?」


心配そうに同じくふわふわのタオルケット生地のガウンを着た中年の美しい女性が歩みより男性に電話の内容を確認する


「どうもこうも無い...藍瑠の奴、勝手に城二君と婚約を解消した様だ...不味い事になった...」


男の話しを聞き顔を青くして、口元を両手で覆い目を剥いて驚く女性


「あ、あの子...そんな事一言も...」


「とにかくだ、藍瑠を呼んで来てくれ、まずは真意を確認しないと...」


女性はコクコクと頷くと慌てて二階に向かった


男性の名は宮下 洋司(ようじ)名門宮下家の現当主にして藍瑠の父親だ、白髪交じりの短髪に同じく白髪交じりの整えられた顎鬚、端正な顔立ちと均整の取れた体はとても44歳には見えない程に、若く見える


そして先ほどまで一緒に居た女性は宮下 茜(あかね)藍瑠と長女、愛華(あいか)の母親だ、見た目も若くピンクの髪をショートボブに切り揃え、垂れ気味の大きな瞳は愛らしく、肌も染みひとつ無いので20代と言われても違和感が無い



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


今、宮下家の応接室に家族3人が集まっている


両親が一緒のソファーに座り、目の前には藍瑠が少し緊張した様子で浅く腰を掛けている


「今日、北野君のご実家のご当主から電話を貰ったよ...内容は言わなくても判るね」


「はい...」


藍瑠は少し俯きならが肩を落とし返事をする


「この度の婚約解消は、先方の城二君が全面的に自分の非を認めてるという事で、北野様の方から謝罪を受けたよ」


「え!?」


この話に藍瑠が驚く、まさか城二が全部自分の責任だと親に報告するとは思っても居なかったのだ


「なに?どうかしたの!?藍瑠!何かの間違いなのよね?そうでしょ?ねぇそうなのよね?」


母の縋りつく様な目...お姉ちゃんの言った通りだ、この両親は私の事より北野家のご機嫌伺いばっかり...


「私前にも二人に言ったよね、あんな人と婚約なんて無理だって」


藍瑠の怒りに満ちた言葉に両親は少したじろぐ


「だから私言ってやったの!「貴方とは婚約破棄します!」って、そしたら城二君はアッサリ認めちゃってさ、逆上して暴れ出すと思ってたから拍子抜けよ」


藍瑠の破棄という言葉に眉をしかめる父親


「...婚約解消じゃなく...一方的に破棄したというのか...」


「そんなのどっちでも関係ない私は金輪際、あんなクズに関わるつもりは無いわ!あ~清々した!!」


藍瑠は自分の中にある城二に対するモヤモヤした罪悪感から両親に対しキツクあたってしまう


「...先方はお前が城二君の弟と仲良くなってるとも聞いてるが?それは、どうなのだ?」


「!?そ、それは...それは今関係ないっじゃない!!」


急に両親から尊との関係を問われて思わず動揺してしまう


「北野様は城二君との婚約解消の代替案に、弟の尊君との婚約を改めて打診頂いたのだよ...まだ非公認だがね」


「え???」


「藍瑠と尊君が相思相愛であるならば、こちらとして断る理由もない...長男じゃ無いのは残念だが尊君なら藍瑠を任せても大丈夫そうだ」


「え?ちょっ...」


先の北野家からの電話で私が尊君に何かと相談していた事を勘違いされ好意を持ってると思われてる様だ...


「まぁ!!藍瑠良かったわねぇ~」


掌を返しそう喜ぶ母に手を握られる


(良かった?本当にこれで良かったの?...それにしても城二君が全部自分の責任だと言うなんて...何か企んでるの?)




こうして、北野家、宮下家の両親にも城二と藍瑠の婚約解消の件は知るところとなった



しかし城二の知らぬところで、尊と藍瑠の婚約の話しが進行しており、とうの城二は秘境テストの結果次第で家を出る事に...



回避したはずの死亡フラグは、思わぬ形で再構築しようとしていた...



















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