露天風呂で真白が入浴中だと気付かず入ってしまい、湯船の中で遭遇し慌てて逃げて来て今コテージで体を拭き着替えを済ませ反省をしている
「いやいや、不味いだろ...真白の奴怒ってるだろうな...しかし真白めちゃ可愛かったな...バスタオルの上からはみ出そうな...ダメだダメだ何を考えている、此処へは修練をしに来たんだ」
さっき目にした刺激的な情景が目の裏にこびりついて離れない...
コンコン
ベッドの上で悶えてると誰かがドアをノックする音が聞こえる
「北野様、夕飯のご用意が出来ましたので本館までお越しください」
一瞬真白かと思い身構えたがどうやら貝塚さんだった様だ
「ほっ...分かりました直ぐに行きます」
先ほどの事を貝塚さんに知られるのは不味い...真白に対する態度と俺に対する敵対心から追い出される位では済みそうも無い
最悪の場合、雨宮の家に連絡を入れられ、雨宮家から北野家に対し厳重抗議でもされた日には俺は一貫の終わり...死亡フラグ一直線だ
(ここは、穏便にやり過ごして真白に誠心誠意謝ろう...)
支度をしてから本館に向かう
本館に入ると大広間があり、既に3つ食事がお膳に用意されていて一番奥の席に真白が浴衣を着て座って待っていた
「ん、城二は私の隣」
ポンポンと座布団を叩かれ、先ほどの事も有り少し緊張しながらも真白の横に腰を下す
すると、真白と同じ柄の浴衣に身を包んだ貝塚さんが、おすましをお盆にのせ持って来た
「お待たせしました、山菜のおすましです」
真白も俺も貝塚さんの持っているお盆からお澄ましを受け取り自分のお膳へと置く
「それでは、頂きます」
「「いただきます」」
貝塚さんの声に3人で手を合わせ用意されたご飯を頂く、本日の夕飯は山菜とお揚げの炊き込みご飯と山菜の天ぷら、揚げ出汁豆腐に先ほどの山菜のお澄ましだ
「ここでは精進料理、殺生した物は口にしない」
「成程...でも凄く美味しいよ」
昨日ハンバーガーに噛り付いていた事が嘘の様に、自然由来の食材を使った精進料理が身体の中に染み渡る...何か身体の中の悪いモノを追い出してくれているかの様だ
「この料理は貝塚さんが?」
「はい、それが何か?」
貝塚さんの態度は相変わらず俺にだけは冷たい...
「いえ、とても美味しいです有難う御座います」
「...いえ...私の仕事ですから...」
実際にこの修練場近くで捕れた山菜やキノコを使っているのだと真白が話してくれた、天ぷらも荒塩だけの味付けだがサクサクでキノコの香りが食欲をそそる
「...北野様、ご飯はお代わりが御座いますが?」
空になったお茶碗を見て貝塚さんが声を掛けてくれた
「是非お願いします」
そう言うと俺のお膳迄来てお茶碗を受け取り台所へ入って行った...おれはこの隙に
「真白...さっきはすまん!!」
真白に向かって盛大に頭を下げる
「ん?私は気にしてない、城二に悪気が有ったわけじゃない怒って無いから謝罪は不要」
顔を上げると真白はてんぷらを箸で掴んでハムハムと食べながら笑っていた
「そ、そっか...今後は気を付けるよ」
「ん」
真白への謝罪が終わった所で貝塚さんがお代わりをお盆に乗せて持って来てくれた
「有難うございま、ん?」
お盆からお茶碗を受け取るとその下にメモが有り
『この後、お話ししたい事があるのでコテージにてお待ちください』
と書いてあった...メモを見て貝塚さんを見上げると普段通りの冷たい表情だった
(まぁ俺の事を警戒してる様だし...その辺の事を釘刺されるのか?それともさっきの露天風呂の件、貝塚さんの耳に入ったのか?)
何れにしろ断れる様な事でもないのでメモをそのままお盆に乗せたままお茶碗だけを受け取った
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
「「ご馳走様でした」」
「お粗末様でした」
俺達は食事を終え、貝塚さんは食器の片づけをしている...せめてと申し入れお膳だけは片付を手伝わせてもらった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
コテージに戻り貝塚さんを待っていると...
コンコン
『貝塚です、お話ししたい事がありますのでお時間宜しいですか?』
俺はドアを開け貝渚さんを部屋に入れた、貝塚さんには椅子に掛けて貰いおれはベッドに腰を下す
「お疲れの所お時間を取って頂き有難う御座います」
「いえ、僕の素行について...ですよね?」
貝塚さんは一瞬目を見開いたが直ぐに冷静な表情に戻る
「失礼を承知で言わせて頂きます、北野様は何が狙いで真白お嬢様に近づいたんですか?」
貝塚さんの目は氷の様に冷たく暗く黒かったが、その奥には何処か人の温かさみたいな物を感じる
「僕は真白と友達になりたくて...でも、僕の素行もご存知でしたら疑われ警戒されるのも理解できます」
貝塚さんからの視線は相変わらず警戒を緩める様子は無い
「俺は今まで多くの人に迷惑を掛け、周りから恨まれ嫌われる事しかして来ませんでした、多分その事は貝塚さんもご存知なんだと思います」
「...」
「しかし、ある切っ掛けで自分の振舞を客観的に見る機会を得ました、そこで見た北野 城二という男の生き方に俺は絶望しました」
「このまま行けばこの身は遠からず破滅する、そう確信するに至りました」
貝塚さんは此処まで黙って聴いていたが
「私は一年近く前に貴方に街中で出会いました」
「?!」
「その時の貴方の印象はとても良い物とは言えません、そんな貴方が1年程で心を入れ替える?
(可笑しい・・・そもそも貝塚 梅子と言うキャラ自体、魔都東京1999で取り上げられて無いキャラのはず...ただの玄武試練場の案内係りでは無いのか?)
「...もし、以前にお会いして失礼な態度を取ったのであれば謝罪致します」
「...謝罪...貴方の謝罪は覚えて無い事に対しても行える程、軽い物なのですね」
貝塚さんの言葉は至極当然で正論だが...その言葉の端々からは俺への嫌悪と軽蔑の感情が垣間見える・・・・
「まぁ私への謝罪の件は一旦置いておくとして...真白お嬢様の件です、真白様は心から北野様を信頼しておられる様です」
「...」
「真白様の流星眼は、相手の心意を見通すと言われてます、その真白様が北野様の事を信頼できる相手だと・・・・」
「実際に真白お嬢様は以前にお見掛けした時より、明るくなった様に思えました」
「それは北野様と関わりを持ち友誼を積み重ねたからだと言う事は私も理解してます...ですが」
貝塚さんは静かに椅子から立ち上がり、ベッドに腰かける俺に冷たい視線を向ける
「私は貴方の事を一切信用してませんので」
コテージの部屋の中が静寂に包まれる...貝塚さんからの無言の圧力とでも言うのか俺に対する嫌悪感と真白に対する親愛が入交り
出会って初めてむき出しの感情をぶつけられてる気がした
しかし俺の頭の中には満点の星空の様に輝く笑顔の真白が「城二なら大丈夫」と言ってくれた様な気がした
俺は枕元に置いてあった一冊の漫画の本を手に取り表紙を撫でながら苦笑する
「貝塚さん...知ってましたか?真白は本当はお喋り好きでお笑い好きで、特に、この不滅の刀って漫画のパロディが好きなんです...」
「...いえ...存じ上げませんでした...」
俺の話しを聞いて少しだけ貝塚さんの怒気が弱まる
「僕も最初は雨宮の...真白の力を目当てに近づきました、彼女が流星眼を持っている事も承知です」
俺はパラパラと漫画の本を捲りながら、真白との日々に想いを巡らす
「僕も自分の身を守る為に必死でした、ご存知の通りの素行の悪さから婚約者に婚約を解消されてしまい実家から勘当される寸前です」
パタンと漫画を閉じる
「婚約者の事は致し方ない事だと諦めもついてます、ですが家から追い出されては行く宛ても無い僕は野垂れ死ぬ以外に道はありません」
「それを回避する為には、今度の秘境テストで良い結果を残す必要があるんです」
貝塚さんの俺を見る目がさらに冷たくなる
「その手伝いの為、真白お嬢様を利用したと?」
「そうですね...その事は否定しません」
貝塚さんは口から溜息を漏らしながら呟く...「最低...」
「でも、真白の笑顔...彼女の笑顔はとても可愛いんです、俺が必死に努力が出来るのも彼女の笑顔のお陰なんです...」
「俺には真白が大事なんです...だって彼女は俺の大好きな...」