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第33話 尊敬できる女性

結局のところ昼からの授業中も俺への冷たい目線は途絶える事は無かった、それは教室外でも同じだった


『ねぇあの人でしょ...最低ね』


『...て、雨宮さんが、あんな雑魚クズのいう事なんか普通聞く訳ねぇよ』


『あ、俺、雨宮さんに大金積んで土下座してお願いしたって聞いたぞ?』


『うわぁマジか雑魚過ぎ、ダサ過ぎ、馬鹿過ぎだろ』


廊下などで俺を見かけては、すれ違う連中がことごとく俺の事を蔑んで真白を無理やり仲間したと決めつける


(まぁ俺に向ける嫌悪の目は仕方ないかな...俺自身も同じ気持ちだ)


しかし...



「ヤッホ―――城二っち!マシロンを仲間にするとか、ヤルじゃんこのこのぉ~」


移動教室から戻ってくる途中で、クラスメートの池上 天音に捕まり肘で突かれてる 


「...池上さんは、他の連中みたいに俺が真白を無理やり仲間に引き入れたとか思わないの?」


「ん?なんでぇ~?アタイは、自分の目と耳で見た事、聞いた事しか信じないから、城二っちが昼にマシロンと仲良く楽しそうに屋上から出て来る所、何回も見てるし」


(そうか...あまり人が来ない屋上だから気にして無かったなまさか見られていたのか...それにしても...)


「そうなんだ...てか、池上さんは何で3Fに?」


すると、金髪の長い癖っ毛を揺らしながらコロコロと笑い


「アハハハ、なぁ~にぃ~城二っちてばウチの事、気になっちゃう系ぇ~」


「あ、いやそう言う訳じゃ...」


「おい!天音、そんな奴と無駄話してないで、とっとと戻るぞ!!」


そう言うと池上の手を取り無理やり俺から引き離す男子生徒...


(藤堂か...アイツ、俺に対し敵対心剥き出しなんだよな...)


藤堂に引っ張れながら、俺の方に振り返り、片手で謝罪のポーズを作りウインクする池上...その奥で一瞬だけ俺の事を恨みの籠った目で睨み付ける藤堂...


(はぁ~本来なら藤堂がその眼を向けるのは俺じゃ無くて、尊なんだけどな...)





見ての通り、藤堂 時哉は幼馴染の池上 天音に惚れている


天音が中学時代にオシャレに目覚め、ギャルぽい恰好を好む様になると、自分自身も天音に好かれようとワイルドな少しチャラそうな恰好をする様になる


藤堂の家は古流棒術の本家で、藤堂流宗棒術を文字通り幼少の頃より叩き込まれている


古流武術の為、家は礼儀や身だしなみには非常に厳しく、藤堂の今の恰好を咎める両親とは喧嘩が絶えない


一方、池上の方は、華道の表千家として全国に弟子を抱える、池上流の本家だ


今でこそギャルな恰好をしてる天音だが、その才能は師であり総師範でもある母親を既に超えて祖母である池上流家元に迫るとも言われている


その類稀な美的センスと花々の機敏を見分けるその眼力は余人の真似出来ない天性の素質だ


華道と武道、接点が無い様に思うが実は藤堂家と池上家は遠縁にあたるのだ


数代前の幕末時代、野党に襲われていた池上家のお嬢さんを、武者修行していた藤堂家の嫡男が救い出した事を切っ掛けに恋仲になり縁が結ばれたと言う


その子孫が、それぞれ池上家と藤堂家の嫡流として今現在も受け継がれてるのだ




「まぁ、そもそも池上は攻略ヒロインでは無いからな...」


本編では物語の進行中に少しだけ天音の尊への淡い恋心を匂わす様な描写があったが、明確な深堀はされてない


そもそもNPCとして限定的な参戦しかしてないので、二人の家の関係性を俺が知ってるのも開発者として関わっていたからに他ならない、これも公式ではあるが積極的に公表してない所から裏設定と言っても良いだろう




・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


そして池上というイレギュラーな人物以外からは、変わらず悪意に満ちた目を向けられ連休日前の授業が終わった


「「有難うございました」」


終了のホームルームの挨拶の後


「北野はこの後少し残ってくれ、他の者は帰ってよし」


「はい」


・・・・・・俺が先生から何か注意されると疑わないクラスメートたちはザマァミロと馬鹿にした様に笑いながら教室から出て行った


皆川先生は場所を移そうと言い、先生の後について生徒指導室へと向かう


その姿を見た、他の生徒達もクラスメートと同じ様に俺が怒られるものと決めつけ口々に馬鹿にする様に陰口を叩く


(はぁ~これは連休明けの学校は針の筵だな...)


「着いたぞ、入れ」


生徒指導室のドアのカギを開け中に入り部屋の電気を点ける、そして俺が部屋に入ると内側から施錠する皆川先生


(ん?何か聞かれたら不味い事か?...)


部屋の中央にある1つの机に2つの椅子...俺と皆川先生は席に腰を下し向かい合う様に座る


「まず、先に聞きたいんだが雨宮を仲間にしたのは、秘境テストを踏破し実家に対し実績を示す...その為なのか?」


「...そうです」


俺からの答えに皆川先生の目からは落胆の表情がうかがえた


「そうか...私はお前の事を買いかぶっていた様だ...その北野 城二という体に転生したお前の、ひた向きな努力する姿を信じ純粋に応援したいと思える男だと感じたんだがな...」


俺は今の時点で綾瀬にどう思われていようといっこうに構わない...が


「勘違いしてませんか?俺は最初から秘境テストを踏破する事を当面の目標にしてました...その為に真白に協力してもらう、それの何がイケないんですか?」


俺の少し冷めた態度に、若干の不快感を見せる綾瀬は本人が気付かない内に語尾が強くなっている


「では、聞くがお前はどうやって、あの雨宮 真白を協力者にする事が出来たのだ?私も生徒の噂にいちいち反応するつもりは無いが耳に聞こえて来るのは、お前が雨宮に対し非道な方法で協力を強要したという話ばかりだ」


そう俺に向かって話す綾瀬に対し俺の気持ちが一気に冷める...


(やはり...この人も尊のヒロインであり、俺の正体を知っても尚、俺の事を敵視するルートを変える事は出来ないのか...)


「先生...先生が俺の事をどう思うか...俺には関係無い事です、でも敢えて理由を答えるなら真白は俺にとって唯一友人...親友だからですかね」


「はぁ?親友?雨宮とか?どうしてお前等が親友に...」


俺と真白の接点に思い当たる節が無い綾瀬は当然だが俺の発言を信じようとはしない...そん中、昼間クラスで唯一俺に対し普通に接してくれた天音の事を思い出す


「先生、今日、同じクラスの池上さんが俺に向かって言いました」


『なんでぇ~アタイは、自分の目と耳で見た事、聞いた事しか信じないから』


俺は天音の俺に向かって掛けてくれた言葉を綾瀬に伝える


「分かりますか?池上さんの言葉の意味が、俺は純粋に池上さんの事を見直しました、周りに流されず自分の感性を信じ実践する...あの時、俺も彼女に気付かされました」


「あの見た目と雰囲気で、何事も軽く考えてる今時の女の子だと彼女の事を決めつけて色眼鏡で見てしまっていました、でも彼女は常に自分というのを持って行動出来る、とても尊敬できる女性だと感じました」


「なっ何が言いたい...私は池上と違って尊敬に値しないと、そう言いたいのか?」


俺は綾瀬に向かって静かに目を閉じ首を振る


「先生...先生は誰かに尊敬し貰いたいからこの学校の指導者を引き受けられたんですか?」


「!?」


俺の一言に綾瀬の顔が驚きと苦悶に歪む


「思い出して下さい、何故この学校の理事長に教師へと請われ引き受ける決心をしたのか...」


「貴方の大切な思い出と...拭い去れない痛みと後悔...それを忘れない為の片割れイヤリングでは無いのですか?」


綾瀬は咄嗟に自分の耳に付いてるイヤリングに無意識の内に手を伸ばす


「お、お前...何でそれを...いやそれこそお前が転生者である証拠...」


俺は静かに席を立ち上がり綾瀬を見下ろすと


「皆川先生...周りに流されて自分を見失っては...また同じ過ちの繰り返しですよ...では失礼します」


俺から投げかけられた言葉に、机の上に置いていた手を強く握って俯き、肩を震わす綾瀬を一人部屋に残し、生徒指導室を後にした...


(この人を救う為にはやはり...)















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