翌日...の5月3日
今日は実家のある北海道に一時帰省する日だ、お手伝いの道代さんは流石に優秀で滞り無く俺の旅行準備を整えてくれていた
「では、これが航空チケットと空港の最寄り駅までの切符です」
道代さんは封筒に入ってる航空チケットを俺に見せ「この中に入れときます」と確認する様に仕舞う
「大丈夫ですよ、子供じゃないんで何か有っても実家に連絡すれば手配は向こうでしてくれるはずです」
「...そうですか...でも何が有るか分かりませんのでお気をつけて」
「はい、色々と準備任せてしまって申し訳ありません、それでは行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
昼前にマンションを出発し、トランクケースを転がしながら最寄りの駅に...
連休初日という事も有り、社内は満員...これから帰る実家の憂鬱さと相まって空港に到着する頃には既に疲労が溜まっていた
空港のロビーで天井から吊るされてる飛行機の発着場の番号と手持ちのチケットに書いてある番号を確認しながら目的のカウンターへと向かう
「チケット確認できました、飛行機は15分後に搭乗開始となります」
受付の女性に手に持つを預け、搭乗窓口の番号付近で待機する...
・・・道代さんにお願いした航空チケットは格安航空のチケットだ
お金が勿体ないと言うのも有るが、一番は尊と鉢合わせたく無いと言うのが本音である
アイツは実家から手配してもらったビジネスクラスのチケットで帰省するだろう
俺が実家からのチケット手配を断ったのは、これが理由だったりもする...まぁ前世では格安しか乗ってないからな慣れたもんだ
「それでは、お待たせしました搭乗開始です」
飛行機への搭乗ゲートが繋がり、続々と登場客が乗り込んで行く
俺も皆に続いて飛行機へと搭乗する...
「お、窓際じゃないか、道代さん良い席取ってくれたな」
3列シートの一番奥に座り窓から外を眺める...飛行機のエンジン音が、うるさく独り言ですら聞こえない...
「本日は〇〇航空、第35便をご利用頂き誠に有難う御座います、当機は・・・・」
アナウンスの少し後に搭乗締め切りとなりシートベルトのランプが点灯、そして間もなく飛行機が動き出す...窓から見える滑走路の上をゆっくりと動き、更にエンジン音が甲高い音を鳴らし俺の鼓膜を刺激する
遠くなっていく街の景色...東京から北海道までは2時間掛からない位だ
大手の航空機なら機内で映画やドラマなどが放映されてるが、格安航空にそれを求めるのは酷だろう
俺はカバンから書き留めたノートを手に取る
《魔都東京1999について覚書》
この世界について覚えている事、思い出した事、キャラの設定や隠しイベント等、各項目毎に分類し俺の記憶に有る事全て書き出してある...
幸い隣の席に座ったお年寄りは、ベルトを付けた途端に爆睡していて今では大きなイビキを掻いている
俺は遠慮する事無くノートのキャラ設定のページを捲る...
◇
北野 文弥(きたの ふみや)45歳 北海道の名門である北野家の現当主
北海道にて多くの不動産と複数の企業経営を手掛け、莫大な資産を生み出す正に辣腕
城二と同じく赤い髪をオールバックにセットし、これまた城二と良く似た鋭い目つきは、見る者を威圧する
短いが髭を蓄えており、年齢より歳を取って見られる事が多い
神視とその実力だが、ゲーム内では明記されてない設定では古くからの北野家の守り神とされてる狗神と契約していて、かなりの使い手であるとの事になってる
北野 牧子(きたの まきこ)42歳 北野家の分家である小樽家から20歳の時に嫁いで来た
当時、北野家の嫡男だった文弥は、地元の発展を第一に考える当時の当主であった祖父と北野家の繁栄を第一に考え東京への進出を巡り度々言い争いが起こっていた
そこで、北野家の分家で一番力を持っていた小樽家から妻を娶り、分家の八割を自分の味方に付け
実の父親である当主を引きずり下ろし、自分が北野家の当主として君臨する
その辣腕を陰で支えて来たのが、妻であり城二の母親である牧子だった
牧子は長い黒髪と着物が良く似あう和風美人で、黒い大きな瞳の奥には強い意志を感じさせる女性だった・・・
作中で尊に決闘で敗れ、惨めに言い訳する城二に対し勘当を言い渡す文弥に向かって
「あなたぁ!!」
と叫ぶシーンだけの登場だ...しかし初期段階では勘当された城二に、こっそり大金の入った封筒を手渡し泣きながら送り出した...
なんてシーンも構想に有ったが「クズは最後まで救われなくて良い!」の声が多数ありこれもボツとなった裏設定だ
◇
「本機は、もう間もなく札幌飛行場に到着します、お客様に置かれましては、座席位置を元に戻して頂き、再度シートベルトをご確認下さい、なお・・・・・」
機内アナウンスが始まり、俺はノートを閉じるとカバンの中に大事に片づけた
窓の外に見える景色は津軽海峡と北の大地、北海道だ...この高さから北海道を見ても懐かしい―――とは、来た事無いので全く感じないが実家に近づいていると思うと気が滅入る
飛行機は大きく旋回しながら着陸体制に入る...
そして札幌飛行場に到着する...
退避口より出て手荷物カウンターの前で自分の荷物が出て来るのをまっていると...
「城二様...ご無沙汰しておりますお待ちしておりました」
名前を呼ばれたので見てみるが...(誰だこの人...)
顔も名前も全く見覚えの無い初老の男性がビシッとスーツを着て立っていた
「申し訳ないです、どなたですか?北野家の関係者でしょうか?」
俺の返しに初老の男性は驚いた表情をして、直ぐに悲しそうな顔をする...
「城二様...覚えておられませんか?立花で御座います」
いや全然覚えて無いと言うか、城二の記憶が無いのが此処に来て弊害になってしまってる...
(ん??立花?ってもしかして...)
「あ、あ~と...もしかして道代さんのお爺さんですか?」
「はい、孫がいつもお世話になっております、城二様が東京の高校に入られてから1年以上経ちますので、その間に私も少し老けたかもしれませんね」
そう話してる間に俺の手荷物がスロープから出て来た、着いてるタグを確認しトランクを受け取る
「お荷物をお預かりします」
「あ、良いですよそんな重たい物じゃないので」
俺は両手を出して荷物の運搬を申し出てくれた立花さんの厚意を丁重にお断りした
「そ、そうですか...」
残念そうな表情の立花さんを見てると、過保護な所が道代さんとそっくりだなと感じて苦笑してしまう
「?如何なさいました?城二様」
「い、いや・・フフ、なんだか道代さんの起源が分かった気がして、あ、気を悪くしたなら御免なさい」
頭を下げる俺に向かって、慌てて首を振り否定する立花さん...あまり揶揄うのは可哀そうなのでこの辺にしておこう
「あ、お迎えでしたよね?車ですか?」
「はい...ただ...尊様がもう少し後の飛行機で到着される事になってまして、城二様には申し訳ないのですが暫くお待ち頂きたく...」
俺は空港の電光掲示板を見上げ確認すると、次の東京からの発着便は1時間半後のJAWだ
俺の視線に気付いた立花さんは申し訳無さそうに頭を下げ
「城二様、此処でお待ちいただくのも申し訳御座いませんので、空港の併設ホテルのラウンジ席を御用意させますので、そちらでおくつろぎ下さい」
北野家は北海道で並ぶものが無い名家であり資産家だ...多く抱える不動産の中にホテル位あってもおかしくはない...か
だが......「あ、いえ、それには及びません、立花さんはお手数ですが尊をお待ち頂き実家まで送って下さい」
「え?では城二様は如何なされるので?」
「僕は、電車とバスと徒歩で実家に帰ります」
「!?い、いや、その様な事 城二様にさせられません!!あ、直ぐにハリアー(高速タクシー)を手配します、お待ちください!」
慌ててスマホを取り出し何処かに電話を始める立花さんに、笑顔で手を振り
「本当に大丈夫なんで、父さん母さんには少し遅くなるかもと伝えておいて下さい」
それだけ告げると軽く頭を下げ、トランクを転がしながら空港を後にした...
空港から出た所にあるバスターミナルの乗り場で時刻を確認してると、スマホがメッセージを着信する
《真白:城二、北海道はでっかいどう》
真白の古臭いギャグに思わず吹き出しそうになる
《城二:お前幾つだよ、古臭いぞ》
《真白:古き良きお笑いを忘れるな》
《城二:はいはい、てか真白は暇か?》
《真白:暇かも、不滅の刀のアニメ見返してる》
《城二:そういえばご当地限定の不滅のキャラのキーホルダー有ったな》
《真白:マジ?》
《城二:ああ、アイヌ民族服を着たネズミ子とか》
《真白:ほしい》
《城二:あいよ、メロンマカロンと一緒に買って帰るよ》
《真白:よかろう》
それから何度かメッセージのやり取りをしてる内に目的のバスが来たので、そろそろ行くよと真白に伝えると
《真白:ん、城二早く帰ってこい、待ってる》
その返信を見て、自分の胸に込み上げてくる燃える様な熱いこの感情...
(ここ、北海道に来て確信した...ここは(北海道)...俺の帰るではない)