〇北海道 札幌市郊外 北野家 本家屋敷 応接室
◇ 北野家実家 城二の部屋 ―――――――――――
家族での夕飯、新鮮な魚を使った数々の料理、地元国産牛肉のステーキ、近隣の農家で育てた無農薬野菜、東京ではお目にかかれない程の豪華な料理だ...しかし
...その場に尊は来なかった、母の話しでは慣れない飛行機に酔ったらしい
色々と思う事はあるが、今はそっとしておくのが賢明だとおもった
その日は両親共とも、当たり障りの無い会話で食事を終え、実家の大浴場でゆっくりと疲れを取り
自室に戻り真白とのビデオ通話を繋げ、先程の事でお礼を伝える
「いやぁ真白のお陰で助かったよ」
『ん?解らんが、まぁ助かったなら良き』
「つかさぁ、お前、また新しい漫画のジャンル開拓したろ?」
『ドキッ』
「当てようか?紅天の拳だろ」
『な、何故わかった』
「真白は自分で気づいて無いかもだけど結構ミーハーだぞ?直ぐ漫画に影響受けるんだから」
『ん、失礼そんな訳ない「漫画の文句は私に言え」』
紅天の拳の主人公が強敵に対し指を刺しながら不敵に告げる決め台詞を画面の向うで真白が真似してる...
「...真白、それ何?」
俺は真白が口に細いものを咥えているのを指さし確認した
『ん?これ...タバコの形したチョコ』
「...真白それ、部屋以外でするの禁止な」
『!?何でぇぇぇ20箱も買ったのにぃぃ』
こうして真白との楽しい会話は夜遅くまで続いた...
◇ 北野家実家 尊の部屋 ―――――――――――
応接室での家族会議後・・・・尊の自室にて
コンコン♪
「尊様、御夕飯の用意が出来ましたので食堂までお越しください」
使用人の女性がドアの向こうから声をかけてきた...しかし...尊は
「御免なさい...少し飛行機で揺られて酔ったみたいで気持ち悪いので晩御飯は遠慮させてもらいます、義父さんと義母さんにもそう伝えて下さい...あぁ、あと義兄にも...」
「そうですか...直ぐに酔い止めの薬を御用意します」
「あ、いや、寝てれば治るんで、本当にお構いなく」
「そうですか...では、何か御座いましたら御申しつけ下さい」
お手伝いさんの足音が遠ざかり聞こえなくなった...
「フゥ―――、少し義父母と顔を合わせ辛いよな...」
尊はベッドに仰向けになり天井を見つめながら右手を突きだし掌を広げてみる
「俺とした事がどうしたんだろ...前は兄貴に対して喰ってかかるなんて絶対に無かったのに」
尊も自分の気持ちの変化に戸惑っていた...
義兄の事は、お世辞にも好きとは言い難い...でも、北野家に多大な恩義があり、城二はその嫡男で跡取り
幼い頃から、尊の中で城二は義兄と言うより「支える相手」と認識しており今日に至る...
しかし、それがある日を境に心情が変化した...あれは藍瑠から城二の嫌がらせの相談を受けた夜...
何時もなら...
◇
『あ、うん義兄も愛情表現が下手だから、照れ隠しだよ...うん、うん...分かった僕から、また義兄さんに言っておくから...あ、うん僕は良いんだよ義弟だから...その殴られるのも慣れてる、うん心配してくれてありがとね』
と言った様に穏便な内容で藍瑠を宥めつつも、城二にのことは「照れてるんだ」「愛情表現が苦手なだけ」「義兄が好きなのは藍瑠さんだけ」と、藍瑠に城二の事を嫌いにならないで欲しいと最終的に告げて居たのに...
「...藍瑠、藍瑠は今まで良く我慢したよ...もう良いと思う、あんなクズ兄貴早く捨てて自分の幸せを見つけるべきだ」
「そうだよ、明日、気持ちが冷めない内にクズ兄貴に婚約破棄を突きつけてやろう!!」
「?逆上?アハハハあんな何も努力してないクズモヤシ俺の相手になるかよ...あ、いや逆に逆上させて俺に手を出させよう」
「え?いやいや、その方が大勢の目もあってクズ兄貴も逃げれないって、それじゃ明日は早めに学校に行って下駄箱横の廊下で待機だな」
その日に限っては、義兄に対する思いが全て崩れ欠落してしまった様な気さえした
◇
尊は今一人冷静に先ほどの家族会議の場での事を思い起こす...
自分はあの場でも、養父母に義兄の悪行をそれとなく伝える気で雨宮の事を話した
(つまり俺は兄貴を蹴落としたいと思っているのか?)
今までの事を振り返れば、何故あんな酷い扱いをしてきた義兄に遠慮していたのか...
不思議でならない、そう考えるなら先ほど胸に抱いた感情が人として当たり前の感情なのではないか?
其れに...
「兄貴のあの様子...以前とは別人の様だ...一体何があったのだ?」
・・・・・・・
「狛狗神、顕現せよ」