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第42話 父親の目の前で弟と試合う


トラとの札幌名所巡りをして実家に帰宅した夕方過ぎ...辺りはまだ明るいが俺は若干の肌寒さから鳥肌が立った


「待っていたよ義兄さん」


家の門を通り玄関前に差し掛かった所で、そう横から声を掛けられる...


呼ばれた方へ視線を向けると、そこには合気道を連想させる道着に身を包んだ尊と同じく道着を着た父そして心配そうに様子を伺っている母の姿があった


(寒気の正体はこれか...)


『城二、周囲に神通力の波動を感じるぞ...』


トラは俺の肩口から飛び降りると背中の毛を逆立て周囲を警戒している


「ああ、前の俺なら感じ取れなかったが今ならハッキリと判る...これは、おそらく北野家の守護神「狛狗神」だな」


「兄さん何をブツブツ言ってるの?今、久しぶりに義父様に稽古をつけて貰っていたんだ」


腕を広げて大げさなリアクションでそう自慢げに話す尊から父に視線を移す...が、父は此方を見向きもしないで庭先に目を向けている


「折角だし兄さんとも手合わせしたくてね、少しだけ僕の相手してくれないかい?」



不味いな...この感じ決闘イベントと同じシーンじゃ無いか...


「はぁ?普通に嫌なんだけど?俺今帰って来て疲れてんだ、お前の相手なんかお断りだ」


俺の言葉に母は落胆した様に視線を落とし、父はようやく俺の方へと視線を向け


「これは儂からの命令だ、城二、尊と手合わせせよ」


逃げられない...


目の前の光景がユラユラと揺らめく...頭の天辺が熱い、眼の周りが熱い、口が渇く、手汗が凄い...


心臓が激しく脈打ち耳鳴りがする


(体が...心が...危険だと知らしてる?それとも...)


「はぁ~わぁ~たよ...ちょっとだけだぞ」


俺は荷物をお手伝いさんに手渡すと


「う~ん」ボキ・ボキ・ボキ


背伸びと肩と首のストレッチをして屈伸でアキレス腱を伸ばしながらゆっくりと体をほぐす...


「トラ...もしかしたらお前の力を借りるかも知れないからな...」


『まぁその時は手を貸してやろう』



俺は尊の待つ庭先へと向かい対峙する...


「では、儂が見届ける...遠慮なく全力で試合うが良い...では、はじめ!!」


尊は親父の合図と同時に一気に俺の懐迄距離を縮め、俺の右袖と左の奥襟を掴み体を捻り反転すると腰を軸に俺を薙ぎ倒そうと巻き込み腰をしかけてきた...


「よっ」


俺は投げられた所で左手を地面につけそのまま後バク転して着地する


「なっ!?何で今のが躱せる!?」


俺の軽快な動きに驚く尊


「くっそ!!」


今度は身を屈め俺の右足と左足が揃った所を狙い足払いする...


「それっと」


右側にジャンプで躱し、さらに空中で右に回転し倒立側転で着地する


「何だ!?何がどうなってる!?」


驚きと悔しさに尊の表情から余裕が消え失せその眼に狂気の輝きが宿る


「このぉぉぉぉ!!」


尊はその場で腰を落とし右手を後ろに引くと固く握った右拳に左手を添え正拳突きの様な構えをとる...


(蒼拳か...確か主人公の初期から使える打撃技だったな)


「尊?!それまでだ、双方それ迄!!」


尊の構えを見て慌てて俺達の試合を止めようとしている父親...俺の注意が一瞬だが父親の方へと向いたのを尊は見逃さなかった


「隙あり!!蒼拳!!」


ゲーム中なら尊の右拳に青いオーラがエフェクトされるが、リアルではそんなエフェクトは無いようだ...


「ほらよっと!」


俺は左足を上げ尊の拳を左膝で受け止める...ガシッ!と乾いた音がして尊の突きが俺の膝で受け止められる


「馬鹿な...俺の蒼拳が...止められた!?」


(そりゃな...初期から使える技だしな動きが単純なんだよ)


「もうよい!!それまでだ」


「はぁ~ヤレヤレだ...疲れてるって言ってんのに」


俺の態度に苛立ちを見せる父が視線を少し上に向け


「どう視ますか?狛狗神様」


親父の視線の先には大きな犬が此方を睨みながら庭の壁に鎮座していた...


「城二貴様には見えないだろうが此処には今、狛狗神様が降臨されている...此度の試合を通じ貴様の力量を推し量ってもらっていたのだ」


俺を値踏みする様な父の言葉に少し怒りを覚え俺の事を見据える狛狗神を逆に睨み返す...


『ほうぅ...私が見えるのね?』


「!?」 その場にいた父が驚く


「なっ!?それは何かの間違いでは!?つい最近まで神視すらまともに出来なかった息子が狛狗様を視認出来る訳が!?」


「えぇ~と...狛狗神様?だっけ、別に俺はアンタにどう見られても構わないが、貴方レベルの神様に俺の価値を決めて欲しくはないね」


「!?き、貴様ぁぁぁ!!狛狗神様に向かってその口の利き方!痴れ者がぁぁ」


父親は怒りに焦りを孕んだ顔をし、俺を怒鳴り付け狛狗神の不興を買わない様にと俺に対し怒鳴り散らす


「父上...試合にかこつけて俺を狛狗神様に値踏みさせる...貴方のお考えは良く分かりました、今のこの家に俺の居場所は無い様ですね」


「フゥ―――フゥ――――貴様などに北野家の何が分かる!!このうつけ者が!!」


顔を真っ赤にして今にも俺に掴みかかりそうな勢いの父を必死に抱き留め縋りつく母親...その光景に冷めた感情しか沸かない俺...


「こい...白虎」


俺の言の葉による呼びかけに横に控えていたトラが一気に大虎...聖獣白虎へと変身する


『!?まっ...まさか...聖獣...しかも4聖獣...西門の白虎様...』


「はっ?え?白虎??狛狗様何を仰っているのですか?私どもには何も...。」


それはそうだ、白虎は神視レベル50以上無いと視認出来ない上位神だ...そもそも地方神の狛狗神とは神格が桁違いだ


『地方神よ...その口を閉じよ』


『...失礼いたしました...』


「...狛狗神よ、ご覧の通りだ...俺を値踏みするという事は俺に憑いてる存在をも値踏みするという事...今は解かるよね?」


狛狗神の姿が蜃気楼のように揺らめき明滅し出す...


「城二、貴様ぁぁ我が家の守護神に対しその口の利き様『良い...いや黙りなさい文弥...我は今後お前の息子に関わる事はしないわ...お前も深入りしない事ね...これは貴方の為の忠告』


「!?お待ちください!それは何故!?」


『そこな城二というお前の倅...わらわの推しはかれる者では無い...ではわらわは此れで失礼する』


それだけ言うと狛狗神は其の場からスーと消えて居なくなった


「何が...どうなって...」


惚けた様に庭先に立ち尽す父と、地べたに蹲る尊...


「あ、それじゃ2日間だけどお世話になりました、僕はこれで東京に帰ります~尊、お前は実家でゆっくりしていけよ」


俺は狛狗神と皆がやり取りしてる間に自分の部屋に戻り手早く荷物をトランクに詰め帰り支度をして玄関から出来て来た


「父さんと母さんも体に気を付けて下さい、それじゃお元気でぇ~」


「ちょっ!?城二ぃぃ待ってちょうだい」


慌ててる母さんに笑顔で手を振りながら...「トラ、行くぞ」


俺の言の葉で再び小さな子猫の姿になったトラを肩に乗せて、北野家の大きな門構えを後にした...








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