〇駅前大型ショッピング施設 「ミオンモール」バス停前の広場
流石に2度目のデートだから余裕だ、城二の趣味の悪い服のコレクションが並ぶクローゼットを漁り
何とか俺のお眼鏡に叶ったコーデが決まる...
下から...どこぞのスポーツメーカーの黒いスニーカー、紺色のジーンズ、白いトレーナー、青いダウンジャケット...
いや、これしか無いんだ...これしか・・・後はライオンの顔がプリントしてあるシャツや竜の刺繍が入ったスカジャンとか...
「そろそろか?」
俺は紙袋を持ってない方の手でスマホを操作して時計を確認する...9時半だ...今回は3本も早い電車でついてしまった
待ってる間にメッセージを確認する...
着信4件
着信履歴1件目は2日前に藍瑠から入って居た様だ、当然おれは無視を決め込む態々自分から罠に掛かりに行く馬鹿は居ない...(あ、俺は馬鹿 城二だったな)
2件目の着信は、実家で尊と無理やり試合させられた後、半ば強引に帰った後で母親から着信していた様だ...城二の母親がどんな人物なのか・・・今の俺には知る術がない
だからなのか、少し折り返すのを躊躇っている
3件目は、真白からだった、まぁこれは今日のお土産を渡す時のやり取りでの着信だから、メッセージにて返信済だ
そして4件目は...再び藍瑠からだった・・・しかも着信は電車に乗り込んだ直後位で幸いマナーモードにしていて、他の乗客の迷惑にはならなかった
(ここら辺が前世の社畜の悲しき性だろうな...ついつい乗り物に乗るとマナーモードにしてスマホを仕舞う癖がついている)
マナーモードにするのは当然、着信音で周りに迷惑掛けない為だ
ポケットに仕舞うのは痴漢の冤罪対策だ、手に持ったスマホを下におろした瞬間に「この人スカートの中を撮影しました!!!」と腕を掴まれ満員の電車の中で慌て焦る中年の社畜先輩を見た時から、癖の様に実践してる
俺は折り返しの付いてない3件の着信の内...
トゥルルル...トゥルルル...トゥルルル...トゥル、ガチャ
『城二!?城二なの?』
電話口の声は少し慌てた様に俺の名を呼ぶ母親の声だった
「はい、お電話頂いてましたので...折り返しが遅くなり申し訳ございませんでした」
『な、なんで...?そんな他人行儀な...母さんの事、怒っているの?ねぇ城二ぃぃ...御免なさい、御免なさい...うぅぅぅ』
何だか意味は分からないが電話口で泣き出した...初対面の人にいきなり砕けた話方するのは流石に難易度が高いが...
「ちっ...わ――――ったよ...で?俺に何の用?」(こんな感じでいいのだろうか?)
『え、ええ...その一昨日急に帰っちゃうから...お母さん城二の好物のハンバーグ作ろうと思って神戸のブランド牛のお肉買って用意してたのに...』
(なにぃ――――神戸ビーフか!?テレビでしか見た事無い奴だぁぁぁ―――くっそぉぉ!!尊野郎あと一日我慢してくれてればぁぁ!!)
「は?そんなんどうでも良いし、てか、用事ってそんだけ?俺ヒトを待ってるから切るよ」
『あっ!違うの・・・そのあの後ね守護神である狛狗様に、お父さんが城二の事あれこれ聞いていたんだけど、狛狗様は城二に関しては一切関与しないと頑として教えて下さらなかったの...』
(まぁあの場で白虎にそう命令されてたんじゃ~しょうがないよな・・・)
「で?」
『でね...言いにくいんだけど...城二は狛狗様が守護するべき跡取りか?とお父さんが尋ねたら...「それは無い」とキッパリ言われて...それならと尊を指名した所「それが良い」と狛狗様も尊を支持されて...』
それは不味いな...この流れはチュートリアル後のゲーム導入シーンと同じだ...俺の作戦ミスか・・・
『お父さんは尊を跡取りにして、城二を他の遠縁に養子に出す事をどう思うか狛狗様にお尋ねになったら「それを今の時点で実行すれば北野家は滅ぶぞ」と...』
(なんだ?どういう意味だ...?狛狗神は俺を支持せずに尊と支持すると明言した)
(狛狗神を降ろす後継に選ばれた尊を北野家の跡継ぎにする事を相談したら、それは悪手だと断られるだと?...)
「で?結局どうなんったんだ?話の脈絡が無さ過ぎて今一理解出来ない端的に言ってくれ!」
『御免なさい...今、母さん少し怖くて緊張してるの...つまり、お父さんは尊を跡取りに推すつもりだったけど、今の時点では北野家の守護神である狛狗神様が首を縦に振らないって事なの...』
「つまり、尊が成長して狛狗神様に認めて貰えれば俺は晴れてお払い箱という訳だ」
『そんな事無い!...でも、お父さんは北野家が全ての人だから・・・』
「まぁ実家の状況が知れて良かったよ・・・また近況を教えてくれ」
『あ、ありがと・・・母さんまた電話するね・・・・その・・・城二も体に気を付けるのよ?後、お金に困ったなら何時もみたいに私に電話くれればお父さんに内緒で送金するし...遠慮しないでね...それじゃ』
ツ―――――
スマホを耳から離してそっとポケットに仕舞う...今のやり取りでも判ったが、北野 牧子という城二の母親は父親の影に怯えながらも、自分の実の息子を溺愛しており父親に内緒で城二にだけ情報を流したり、臨時の仕送りを渡したりしていた様だ...
父親は家の事が全てで家族や子供の事など顧みない、母親は父親に対し意見を言えず表明上は実子と養子を平等に扱っているように見えて裏で実子贔屓で融通を利かす...
全てが両親の責任という訳では無いだろうが、多少なりとも城二の破綻した性格形成に影響が有ったと思わせる家庭環境だった...
そんな事を考えてると
「よ、待たせたな」
肩をポンポンと叩かれたので振り返ると...
薄いピンクのシャツにグレーのタイトズボン、小ぶりなポシェットバッグを肩に掛けた真白が笑顔で手を振りながら立っていた
真白はその水色の長い髪を一本に綺麗に編み込んで肩口から前に下した髪型で何時もと違って少し大人びて見える、そんな可愛いと言うより綺麗だと感じる真白は、ゲームの中でも見た事が無く気付くと顔が熱くなっていた
「あ、い、いや...お、俺も今、今来た所」
「ん?何城二 変」
俺の顔を見上げながら首を傾げる真白のキラキラと星が輝く流星眼に今の俺の動揺を見抜かれまいと目線を逸らす...
「んんん!!城二、真白の恰好を褒める、早く」
真白は頬を膨らませ両手を広げて早く自分を褒めろを俺を急かす...そんな何時もと変わらない真白に安心して一気に緊張が緩む
「アハハハ、真白は真白だ!」
「城二、そう言うの良い早く褒めろ」
「あ、いや、今日は何か大人ぽくて何時もの真白じゃないみたいで緊張したんだけど...あ、いや、コホン...今日も真白は可愛い...いや、綺麗で服装も髪型も良く似あってるよ」
真白は俺の感想に少し驚いたのか、表情を変えずにほんのり頬を赤くしていた
「ん、まぁ今のは120点やろう」
「ははぁぁぁ有難う御座います」
二人のやり取りが可笑しかったのか二人で顔を見合わせて笑い合う...俺はミオンモールの敷地内にあるコーヒーチェーン店 ムーンバックスに入ると飲み物を頼んで(長い名称が言えないので普通にコーヒーにした)開いてる2人掛けの2人席に座る
イングリッシュブレックファーストティーラテなる飲み物を華麗に早口で頼んでいた真白に尊敬の眼差しを向けながら俺はホットコーヒーを口に運ぶ
「あ、そうだお土産忘れない内に渡すね...っと」
俺はテーブルの上に持って来たか紙袋を置いた...既に銘菓の名前でメロンマカロンと印字された面が見えてるので態々出さなくても良いんだが...
「おお、メロンマカロン、夕張風味!!」
真白は気に入ったオモチャを買ってもらった子供の様に銘菓の箱を目線まで掲げ嬉しそうに眺めている
「喜んで貰えて何より...それとこれも...」
俺は小さな白い袋を真白の方へ差し出す...メロンマカロンの箱を一旦テーブルに置いてから真白はキョトンとしながらも俺の手から袋を受け取る
「開けて良い?」
俺は笑顔で頷くと真白は袋の先端を少しだけ千切り中身を取り出す
「!?おおお、ネズミ子」
そう、お土産に選んだのは、真白の好きな不滅の刀のキャラ、ネズミ子がご当地の先住民衣装を着た地方限定のキーホルダー人形だ
「ネズミ子ぉぉぉ!」
真白は流星が輝く目を大きく見開き目の前に掲げたネズミ子を凝視していた
「気に入ってくれたか?」
コクコク・コクコク 俺には視線を向けずネズミ子を凝視したまま首振り人形の様に何度も頷く真白...
「フフフ、気に入ってくれたなら良かったよ」
俺は満足し口にコーヒーを流し込む...苦いはずのコーヒーが少し甘く感じるのは気のせいか?
「城二ちょっと耳貸して」
俺は真白に言われるがまま、少し席から身を乗り出して顔を横にくけると右の耳を真白の方へと向ける
チュッ
「!?」
頬に感じた柔らかい感触と湿り気...これってまさか!?
「うん、漫画でネズミ子が助けたお礼に炭太郎にしてた感謝のしるし」
真白が俺の頬にキス!? 驚きと恥ずかしさで顔を赤くして言葉を失っている俺の目の前には、
ネズミ子のキーホルダーを顔の横に掲げもう一方の手で小さくブイサインをして満天綺羅星の笑顔を見せてくれる真白が居た...