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第47話 宮下 藍瑠の憂鬱

〇駅前大型ショッピング施設  「ミオンモール」敷地内の「ムーンバックス」店内



俺と真白はミオンモールの敷地内にあるムーンバックスに本日2度目の来店をしていた...


1度目の来店時は真白と二人でまぁ傍から見ればカップルに見えたかも知れない...真白の美しさに男共がチラチラと羨望の眼差しを向けていたくらいだ...



それが2度目の来店時は...


『ねぇ...あれって...』


『あれよ、浮気がバレて今から修羅場になるのよ』


『つうか、連れてる2人の女の子どっちも可愛くない?』


『マジかよ!あの浮気男羨ましすぎだろ!』


...俺の前を歩く真白は無表情で俺の後ろを歩く藍瑠は俯き加減...事情を知らない人が見たらそう思われても仕方ないのかも知れない


因みにペットを連れての入店は出来ないのでトラには姿を隠してもらっている


先ほど座っていた2人掛けの席では無く4人掛けの席を探して座った


俺の隣には真白、そして目の前には藍瑠...


『あれって、あの水色の美少女が浮気相手って事!?』


『ピンクの子も凄く可愛いじゃないか!?何が不満で浮気なんかしたんだ!!』


周囲の罵詈雑言は聞こえるか聞こえないか位の声量だったので、その内他の会話の喧騒の中で掻き消されていった...


俺は飲み物を口に運び一息ついてから口を開く


「で?話って?」


藍瑠は飲み物には全く手を付けて無い...スカートの裾を握って俯いている


「城二君は私との婚約破棄の件...なんで全部自分の責任だって言ったの?」


「なんで?いやそれが事実だからだけど?」


「で、でも...婚約破棄を言い出したのは私の方からだし...婚約破棄に至った経緯は別としても私からの一方的な話だった訳だし...その事はご実家に伝えても良かったんじゃ?」


「なに?宮下さんは俺が実家に「婚約破棄は不当だ―――!」って言って欲しかったの?」


「・・・・・・・・・・」


藍瑠は俯いたまま何も言わない


「あの場で婚約破棄を告げられ、俺は婚約破棄されても仕方ないと納得した、だから破棄を受け入れた、其れの何処が引っかかるの?」


「おかしいよ...」


藍瑠は売る向きながらブツブツと何か言い出した...そして俺の方へ顔を上げ睨み付ける様に声を荒げる


「おかしいじゃない!!城二君がそんな物分かりが良い訳ないじゃない!何なの?何か企んでるんでしょ!!」


なるほど...藍瑠は俺の今の状況を何か悪企みしてるんじゃ無いかと疑ってる訳か...


「考えすぎだよ、俺がそんな深く物事を考えて行動する様に見えるか?」


「見えないわよ!...いえ、見えなかったと言った方が良いかな...前の城二君には思慮なんて言葉全く当てはまらなかった...でも最近は短絡的な行動も言動も也を潜めて悪い噂もあまり聞かない」



「そう、まるで人が入れ替わったみたいに...」


俺は藍瑠の言葉に一瞬だが動揺してしまった...


「何が言いたいのか全く分からないが...そうだな、確かに俺は大勢の人に迷惑を掛けていた、特に宮下さんには...だけど本当に最近になって考え方が変わったんだ、信じて欲しいとも思わない」


「言葉だけなら何とでも言える...おれは行動で示していく此れから先ずっと...」


俺の言葉を聞いても怒りの収まらない藍瑠は俺の隣で澄ました顔でチョコフラペチーノを飲んでる真白に視線を移すと俺の方を指さし詰め寄る


「雨宮さんは、この人がどんな人か解って付き合ってるの?」


真白は片目だけ開けて藍瑠の方を見る


「私が誰と仲良くしようが私の自由...雨宮の家も北野家も関係無い...城二が悪人でもクズでも関係ない」


「私は私の眼で見て、耳で聞いて、そして心で判断して城二と一緒に居る...それが理由でそれが全て」


俺は隣で真っ直ぐに自分の気持ちと向き合い突き進む、俺よりも一回りも二回りの小さな女の子に強い尊敬と憧れの念を抱いた...


(あぁぁやっぱり俺の最推しは真白しか居ない...この世界で真白と友達になれて、本当に良かった)


感動のあまり片目から涙が零れる...


「!?城二君が...涙...」


「!?」


藍瑠の言葉に驚き慌てて自分の頬を伝う物を拭う



「と、とにかく...宮下さんが俺の事を信じれないのも疑ってるのも仕方ない事だ、だからこれからはお互いに関わらない様にしようって前に伝えたと思うんだが?」


そう言うと再び藍瑠の表情が曇り出す...


「私だってそう思っていたわよ...でも、城二君と婚約解消出来たと思ったら...次は尊君と婚約しろって...」


「?それの何が不満なんだ?...藍・・宮下さんは尊の事を憎からず想っていたんじゃないのか?」


「!?そ、そんな事ない」


(どういう事だ?尊に対する藍瑠の好感度はゲーム序盤の初期段階からかなり高かったはず...新たな婚約者に尊がと紹介された時、両親に飛びついて喜んでいたんだが...)


尊の成長とヒロインとの好感度上昇がゲーム内進捗と現状に乖離がある...このまま藍瑠の好感度も上がらず主人公としての成長の遅れが続いた状態で物語が進んでしまいラスボスである、異郷神と戦う様な事になれば負けてしまう可能性もある...


(ゲームではセーブポイントから再戦出来たから何度か挑めば良かった訳だが...今コンティニューとかされた場合、この世界はどうなるんだろ?  ...もしかしたらそれで世界が消滅して最初からやり直しなんて...)


「ちょっと!城二君!!城二君てば!話聞いてる!?」


テーブルの上で固く握った拳を藍瑠に揺すられ思考が現実に戻ってくる


「ん、んあぁぁぁ、すまない考え事をしていた」


「と、とにかく私は、もう婚約者とか、もう懲り懲りなのよ!」


藍瑠にそう思わせた原因である俺に対してする様な話では無いと思うが...藍瑠も追い詰められてるのだろう...


「藍瑠はさ、尊の事が嫌いなの?」


俺の言葉に目を見開き困惑する藍瑠、すると俯き気味に俺の質問に答え始める...


「嫌いだなんて...そんな...尊君は優しくて紳士的で努力家で、相談にも親身になって答えてくれて...」


「??それって...嫌いどころか、好きって事じゃ...?」


俺の言葉に一瞬ハッとなり顔を上げるが直ぐに沈んだ顔で俯いてしまう


「!?...そう…もしかしたら、そういう気持ちが有ったのかも知れない...尊君に相談に乗って貰ってる時に自分が特別な何者かになれた様な気がしていた...そう…何だか物語のヒロインになった様な...フワフワとした暖かい気持ちに...」


(そりゃ藍瑠は間違いなくこの世界のメインヒロインだしな...その認識で間違いはないぞ)


「でも...最近、いえ明確に感じたのは城二君に婚約破棄を告げた前日からかな...いつもの優しい尊君が...少し怖く感じた」


俺は怯える様に俯く藍瑠に疑問をぶつける


「悪い、あまりに抽象的過ぎて良く分からないんだが?一体何が宮下さんにそう思わせた?」


「些細な事なの...婚約破棄を告げる前日・・・・」


《...藍瑠、藍瑠は今まで良く我慢したよ...もう良いと思う、あんなクズ兄貴早く捨てて自分の幸せを見つけるべきだ》


《そうだよ、明日、気持ちが冷めない内にクズ兄貴に婚約破棄を突きつけてやろう!!》


《?逆上?アハハハあんな何も努力してないクズモヤシ俺の相手になるかよ...あ、いや逆に逆上させて俺に手を出させよう》


藍瑠はその時の違和感を感じた尊の言動を思い出しながら言葉を紡ぐ...


「・・・・から少し尊君の様子に違和感を感じて...その、少し暴力的というか攻撃的というか...」


俺にも思い当たる節がある...実家で感じた尊からの気配...とても正義の主人公とは思えない負の感情を感じ取った...


「真白は尊と学校で接触したんだっけ?その時どう見た?」


隣でフラッペの最後、底に溜まったクリームを必死に吸い込んでいた真白に尋ねる


「北野 尊?ん――――特に」


真白は思い出すのも面倒くさそうに、途中まで考える素ぶりをしてからそう答える


「いや、ほら何か偉人や英雄になるオーラとか、優しそうだとか、正義の味方みたいとか」


「ん――――、特には感じなかった」


「普通ではあり得ない凄い才能も有るとは思うけど、興味が沸かない...ただ、宮下の言う様に少し闇は感じた」


真白は其れだけ言うと、再びストローで吸い込みだした


俺と藍瑠は、真白の一言に言い知れぬ不安の種を胸に埋め込まれた様な感触に襲われるのだった...






















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