〇5月7日火曜日 東光高校 2年1組 城二のクラス
今日はゴールデンウイーク明けの登校日、最近はあさのランニングも筋トレも習慣になってきて朝の登校も早めに来れる様になった、健康的な朝を迎えられる事に日々道代さん感謝だ
そんな事を考えながら教室を見渡すと、時間が早いのも有り教室内の生徒の数は片手程しか居ない
「おい...トラ...付いて来ても良いが絶対に姿を見せるなよ」
『ふん、舐めるな...たかが人間のガキ共に我の尊き姿が視認出来る訳なかろうが』
「へぇ~別のクラスには、そのご尊顔を拝見した真白様がいらっしゃいますが?」
『くっ...もぅいい!儂は貴様の影に潜む!用事も無いのに呼ぶでないわ!!』
そう言うと俺の足元の影の中に不貞腐れたトラは消えていった...まぁここは人間の社会、神様の理屈を持ち込まれちゃ困るからな...
気を取り直し鞄から教科書やノートを出して机の中に入れる...そして残り1週間を切った秘境テストについて思考を巡らせる
◇
秘境テストイベント
2年生になっての最初の試験イベント、魔都99における最初のダンジョン走破イベントになる
先のバトルパートのチュートリアルとして北野 城二との決闘イベントを経て、この2年生最初の秘境テストがダンジョン走破のチュートリアルイベントになる、その後は日常系の恋愛イベントが藍瑠との買い物デートという形で進行し、皆川先生からの部活勧誘後に修練方法の説明イベントが終わると序盤のゲーム説明パートが終了する事になる
秘境テストはゲーム内においては主人公である尊と藍瑠の二人だけで進めるイベントとなる、イベントではダンジョン内での画面アイコンの説明や敵キャラの表示とエンカウント、エンカウント回避の方法、ダンジョン内の仕掛けについて、救済処置である回復ポイント、帰還ポイントの解説、そして隠し部屋についての匂わせ、それらの基本的な知識をプレイヤーに解り易く説明をするだけの直線イベントだ
そして走破すると秘境の先にある神域への到達で土童から最初の神視上げのアイテムを受け取りダンジョンを脱出...と思っていたら、神域の入り口付近に封印されていた偽神が急に目覚め尊と藍瑠に襲い掛かって来て初期の状態では倒せない強さになっており敵のシンボルからキャラを移動させて脱出しようとするが途中で退路が岩で塞がれてしまい、摑まる!と思った瞬間に壁が崩れ隠し部屋が現れる
隠し部屋には都合よく帰還ポイントが有り、帰還用の宝珠の元に辿りついた尊と藍瑠は皆川先生と交信を開き無事元の場所へ帰還を果たし今回の秘境テスト2組目の成功者となった(もう一組は、尊達の前に秘境に潜っていた藤堂、池上ペア)
その実績を評価され、皆川先生より部活動へ勧誘されるという流れだ...
◇
しかし、これはあくまで主人公とメインヒロインを対象にしたイベントである
この時点で既にゲームから退場してるはずの俺...城二が挑んでどんな結果になるか想像もつかない
だが、どんな手を使ってもやり切るしかない...父親にあれだけの啖呵を切った以上失敗すれば...
(まぁ神域迄のルートや回避ポイントは把握してる...問題は神域入口付近で封印されてる偽神だな...)
偽神はモンスターと同じで秘境内で討伐する対象であり、基本的なレベルアップ用の雑魚敵なのだが偽神にもランクがあり中ボス級の強敵も存在する...ちなみに此処で登場するのは最低ランクの偽神だが序盤の序盤なので戦えば即死級だ
そんな事を考えていた俺は机の上に出したノートの隅に無意識の内に偽神のラフ絵を書いてしまった...
「あっれぇ?城二っち、それってもしかしてモンスター?」
「!?」
急に背後から声が聞こえたので慌ててノートの絵を手で隠し振り返ると...
「キャッホ~♪ お早う!!」
「い、池上さん!?」
「えぇぇぇ、天音ちゃんで良いってぇ~私も城二っちって呼んでるしぃ~アハハハ」
メッシュの入った金髪を揺らしながらコロコロと笑う天音さんが、そこに立って居た
「ねぇそれよりさぁその絵...城二っち上手いねぇ意外な才能!」
(ほっ...良かった、偽神の絵だとは気付かれてない様だ...)
「そ、そうなんだよ...良く設定画を描いてたり...っ!?」
「ほへぇ?設定...画?なんの話?」
(しまったぁぁ、油断しててうっかり口に出してしまったぁぁぁ)
「あっあぁぁそ、そんな事言ったかなぁ~アハハハ」
「.........まぁ良いけど...」
「てかさぁ私にも何か画いてよぉ~あ、猫!!猫ちゃんが良い!!しましまの猫ちゃん!!」
「!?し、しましまのネコぉぉぉ!?」
俺は自分の足元の影を凝視する...影の中に2つの眼が見えプイと明後日の方を向くと再び影の中に消えて行った...
「ね、猫なの?なんか他の...」
「やぁぁだぁぁ私ネコちゃんが好きなの!!しましまのネコちゃん!!」
このままだと、俺の席から何処かに行ってくれそうも無いので、俺はノートのページを1枚破り鉛筆で猫の絵を紙の一面に描く...
「.........」
「...わくわく」
「.........」
「...わくわく」
俺は鉛筆を置くと描きあがった絵を天音さんに差し出す
「わぁぁぁ白と黒のしましまの子猫ちゃんだぁぁ―――あっ尻尾が二本あって...リボンも可愛いいぃ女の子かなぁ~?」
「あ、いや...多分オスだと思うよ?」
「へぇぇぇキャワワだぁぁこんな猫ちゃんいたら、ずっとモフモフしちゃうぅぅ!!」
天音さんは俺の渡した絵を大層気に入った様で、アクリルの下敷きに絵を挟むと嬉しそうに胸に抱え
「ありがとぉ~城二っち!!大事にするねぇぇ!!」
そう言うと手を振りながらスキップ気味に自分の席に戻って行った...
『おい...城二あれはもしかして我か?』
「...ノーコメントで」
ネコのイメージが思い浮かばなかった...というか猫と言えばトラしか思い浮かばなくて城二のキャラらしくない二次元のゆるキャラ風にスケッチしてしまった...
自己嫌悪で机に打つ伏せていると...
「わぁぁ天音ったらその猫の絵どうしたの?」
「二ヒヒィ~良いでしょぉぉ~画いてもらっちったぁ!」
「ええええぇぇ良いなァァ誰?誰?教えてぇ~天音のファンの子?それとも美術部の子?」
「エェェェ~どうしようかなぁ~」
(マジでやめてくれ...天音さん...)
俺は祈る様に顔を少し上げ天音さん達ガールズグループの様子を見ていると...!?天音さんと目が合ってウインクされてしまった...
「フフフ、彼 恥ずかしがり屋だから内緒ぉぉぉ」
「エェェェ―――てかてか、彼って言った?男なん?なになに彼氏?つか藤堂君じゃないよね?ちょい天音!!白状しなさい!!」
教室中央の一角で陽キャ女子頂点達のガールズトークに聞き耳を入れながら、俺は静かに寝たフリを続けるのだった...
(城二っちかぁ...不思議な雰囲気がする面白そうな男の子だなぁ~...前と全然雰囲気も違ってるし...少し興味出たかも)