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第51話 2年3組前の廊下にて

〇5月8日水曜日  東光高校 屋上にて



午前中の授業が終わりいつも通り屋上へと向かう


しかし今日に限りポケットの中にメロンパンは忍ばせてない


何故なら...



「はい、城二」


「おっ有難う!!」


俺は真白から少し大きめのお弁当を受け取る


「早速開けていいか?」


「ん」


俺は早速お弁当箱の蓋を開けてみる


「おおおお!すっけ―――うっまそう!!」


「ん、当然」


俺の反応に満足げな真白は、胸を反らしフンスと鼻を鳴らす


『おい真白、儂の分が無いぞ?』


「寅之助のも用意した」


そう言うともう一つ小さなタッパーを取り出し蓋を開けトラの前に置く


『ほう...これは牛を甘辛く煮て炊いた米の上に乗せた物か...何やら人間の庶民の食う食い物だな』


「む、文句あるなら食うな」


『い、いや...4聖獣の神とは言え庶民の食い物の味も知らねばな...』


「トラ...お前普通に感謝出来ないのか?そんなんじゃ真白に嫌われるぞ?」


『そ、その...真白有難う』


「ん」


「それじゃ真白に感謝して頂こうか」


「「頂きます」」


真白の用意してくれたお弁当は至ってシンプルで、半分は味付け海苔ののった白ご飯、オカズは鳥のから揚げに玉子焼き、ポテトサラダにプチトマトときゅうりをスライスした物、それとトラのご飯にもあった牛肉の時雨煮


俺は牛肉の時雨煮を一口食べる


「う、旨い!?」


牛肉は柔らかく口に入れただけで蕩ける様だ...それに甘辛く煮て有りご飯が進む


「ん、時雨煮は得意」


真白も満足そうに時雨煮を口に運んでいる


次に卵焼きを箸で半分に切り口に運ぶ...


「おっ!俺の好きな味付けだ!美味しい!!」


「ふふ、城二は甘い卵焼きより出汁の効いた味が好みだと言ってたからチャレンジしてみた」


どうやら真白のデフォルトの卵焼きは甘いタイプだと昨日の帰りに言っており、甘い卵焼きVS出汁の卵焼きで二人ヒートアップして話して帰ったのを思い出した


「スゲー美味しいよ、ありがとな」


ご飯を頬張り出汁の味をご飯で中和させた後、今度はから揚げを掴み口に運ぶ...パリッジュワって音がするくらい衣がパリパリで中はジューシー


「なんだぁこれ...揚げたての様だ!」


「ん、衣にビール混ぜてる」


真白は淡々と自分のお弁当を食べているが、内心では喜んでいるのが解る


(最近、真白の感情が雰囲気だけで解る様になってきたな)


俺はお弁当を完食し


「弁当箱は洗って返すよ、真白有難うな」


真白は別に洗わなくて良いとは言ってくれたが俺の気が済まないからと、そこだけは固辞した


「ところであの絵はどうしたんだ?」


「ん、部屋に額に入れて飾ってる、家宝」


「ア、アハハハ...真白も中々ギャグのセンスが伸びたな」


「??」


トラは貯水タンクの上に登って満腹なのか体を丸めてお昼寝タイムだ...しかしそろそろ休憩時間も終わりなので


「お――い、トラそろそろ教室に戻るぞ―――」


そう呼びかけるとトラは渋々降りてきて俺の足元の影に潜む


「それじゃ真白お弁当ありがとな」


「ん」


いつも通り真白と別れ自分の教室に向かっていると...


「兄貴...何処に行ってたんだ?」


不意に廊下で呼び止められる


「尊か...何か俺に用か?」


振り返ると『2年3組』と書かれたプレートの下の扉に義弟の尊が立っていた


「弁当なんて珍しいじゃないか?」


尊から発せられる雰囲気は酷く攻撃的でまるで俺を仇の様な目で睨み付けてくる


「お前には関係無い事だ...用事はそれだけか?他に無いなら行くぞ」


そう言い残しその場を立ち去ろうとした時


「雨宮さんだろ?」


「はぁ?」


「そのお弁当作ってきたの」


「だったら何だ?それこそお前に関係ない話だろ?」


俺の言葉にドンと軽めに教室のドアを叩く尊、イライラが収まらない様だ...


「関係無い?関係無いのは兄貴、アンタだろ?」


「何が言いたい?お前の言ってる意味が全く理解出来ん」


「理解出来ん...か、まぁそうだろうな、兄貴程度のおつむでは理解出来ないだろうよ」


「.......」


「ちっ...ハッキリ言ってやる、兄貴アンタはもう藍瑠とは無関係なんだ、今更しゃしゃり出て来て俺達を引っ掻き回すのは止めてくれ」


何を言い出すのかと思えば俺が未だに藍瑠にちょっかいを掛けてるとでも勘違いしてる様だ


「それこそ意味不明だ、俺はお前等に言った様に今後は二人に関わるつもりはない」


「知らないとでも思ってるのか?お前等がミオンモール横のムーンバックスで雨宮さんを含め3人で話してたのを見た奴が居るんだ」


(誰かに見られていたか・・・まぁあんだけ注目されちゃしょうがない)


「ずいぶんとお節介な友人が居るんだな、ご苦労な事だがあれは偶々真白とミオンに行っててバッタリ出会ったから少し話を聞いてただけだ」


興味無さそうに俺が言うと、尊の表情はいっそう険しくなり一歩俺へと詰め寄ってくる


「たいした話しかしてないのに何で急に藍瑠の態度が他所他所しくなるんだ?どうせ兄貴が藍瑠に何か良からぬ事を吹き込んだんだろ!」


俺は冷めた目で尊を見つめ


「下らん...事実無根で荒唐無稽だ、お前三流昼ドラの演出家になれるんじゃないか?」


「はぁぁ!?出来損ないのクズ下衆のダメ野郎に言われたくねぇよ!!」


(コイツ...一体どうしたんだ?)


今の尊の表情は俺に対する憎悪を隠そうともせずに剥き出しの敵意を向けており...言葉遣いも荒く粗暴で、思いやりと優しさに満ちた温和な主人公とは大きくかけ離れてしまい見る影もない


そんな時・・・・


「城二君...ここで何をしてるの?...それに尊君も」


俺の背後に友人達との昼食から帰ってきた藍瑠が困惑した表情を浮かべ立っていた


「ごめんよ宮下さん、偶々尊とドアの前で出くわしてね俺がひと足先に東京に戻って来たからその後何が有ったのか聞いてたんだよ...な、尊」


咄嗟に俺の口から出て来た嘘に目を丸くして驚く尊...だが


「あ、あぁそうなんだ~兄貴が急に帰るもんで義母さんが用意していた料理が余っちゃってお手伝いさん達とのバーベキューに変更したって話してたんだよ、本当に自分勝手な兄貴だよ~ハハハ...」


流石は尊、頭の回転も機転の利かせ方も申し分ない、恐らく咄嗟に口から出た話だが内容的には事実なんだろう...


「そ、そう...なんだ、確かに尊君はまだ北海道から帰って来て無かったのに城二君は東京に居たもんね...っ!?」


自分で口走っておいて今更しまったという顔をするなよ...たっく...


「そう言えば雨宮さんと遊んでた時に偶然、宮下さんと出くわして一緒にコーヒー飲んだもんな」


「!?え、あ、ああぁぁそ、そうだったねぇ」


既に尊の知る所になってる話だと藍瑠に目で訴えていたが何とか通じた様だ...


「それじゃ、尊から聞きたい事も聞けたし俺は失礼するよ」


何か言いたげに俺に向かって手を伸ばそうとして、思いとどまった藍瑠の表情はどこか暗かったが先ほどの尊の言葉通り今の俺には関係ない話だ...





















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