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第54話 あるべき場所に戻る

〇5月11日土曜日  都心から離れた郊外の廃ビル(闇市会場)前



「お探しの物はこれですか?」



俺は先ほど足元の店でラッピングしてもらった天然石のイヤリングの入った箱を女性に差し出す...


ここは闇市が開かれている廃ビルの入り口...


目当ての女性は今まさに闇市から肩を落として出て来た所だ...



「城二?お前なんでこんな所に...それにこれは?」



「貴方のもう片方の耳に付けられるべき大切なイヤリングですよ?」




「皆川先生」






皆川 綾瀬 ヒロインルート 最初のフラグ イベント


魔都東京1999における、綾瀬との恋愛ルートを開放する為の最初のイベントは、


綾瀬の亡き夫が最初の結婚記念日に綾瀬に贈った天然石のイヤリングの片割れを回収する話だ



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〇綾瀬回想シーン――――――――――――



綾瀬と亡き夫 皆川 浪志(ろうし)は退魔第9特殊魔刑部隊に所属していた、綾瀬の旧姓は源(みなもと)


そのルーツは古の鬼を打ったと言われる源 雷光(らいこう)を祖に持つ退魔隠形の名家の娘であった


その実力は士官学校時代より群を抜いており、キャリア士官として卒業して本来は准尉として着任するのだが綾瀬は特別に少尉として退魔特殊魔刑部隊に着任してきたのだ


当然ながら魔刑部隊の上層部は面白くない...若干22歳の小娘が20年近く地道に努めてきてようやく出世して得た地位なのに、あっさりと追い越される等あってはならない...


「源 綾瀬少尉、本日付けで退魔第9特殊魔刑部隊 部隊長を任ずる」


「はっ!謹んで拝命致します!!」


歴代最年少の部隊長の誕生は、本来であれば大勢の人々の歓喜と賞賛の中で執り行われるべきだった...


任命式で真新しい軍服を身に纏い自分の父親と変わらない年齢の上官達の下卑た笑顔の中、気丈にも悪意により与えられた任務に真摯に向き合う綾瀬


しかし、軍の中での第9特殊部隊の扱いはお世辞にも真っ当とは言えなかった...


与えれれる仕事は、斥候、陽動、トラップの確認、トラップの設置、場合にっては毒物や爆発物を持ち込み魔物や偽神に間接的にダメージを与え後から到着する本体のお膳立てをする様な事も有った...


綾瀬が着任して1年が経過する...その過程の任務で大怪我を負う者、行方不明になる者も何人か居た...それでも軍の第9部隊に対する評価は低いまま...


そんな理不尽な扱いも綾瀬は無言で任務をこなして行く、しかし部隊に所属する部下たちの不満は溜まる一方だ


そんな中


「皆!源隊長が一番辛いはずです!我々が支えなくてどうするのですか!!」


今年新任でこの第9部隊に配属された皆川 浪志、下位の士官推薦にて軍曹待遇でこの部隊に着任した


家の都合で士官学校に行けず独学で軍の士官試験を合格し無事、下級士官への道を勝ち取った苦労人だ


配属されて分かった事だが、その戦闘力は隊長である綾瀬に迫る物があり単純に物理攻撃だけなら綾瀬をも凌ぐ実力を持つ...


そして綾瀬は、この皆川を自分の右腕の様に頼りにし、また皆川もその期待に答えていく


着任当初から綾瀬に想いを寄せていた皆川は、綾瀬に何度も断られながらも挫けず熱烈なアプローチを続けた末に綾瀬の方が根負けした事で、二人は結婚...綾瀬が部隊を率いる様になって2年目の事だ


二人は新婚の余韻に浸る間もなく仕事に戻り、淡々と任務をこなす...そして綾瀬が部隊長になって3年目、二人が結婚して1年目...


「綾瀬、これ...安物だけど君に似合うと思って...付けてくれるかい?」


浪志から送られた結婚一年目のプレゼント...天然石があしらわれたイヤリング...




俺は足元の元に直接殴り込んだが、本来はこの闇市付近で綾瀬を目撃したという情報から色々調べるうちに天然石のイヤリングを探してると言う情報を得て、彼方此方をたらい回しにされる所謂「お使いイベント」を経て、最終的に妖怪のっぺらぼうが運営する闇商人の手に渡ったと判って400万の大金を払ってようやく手に入るのだ...


ん?何で俺が100万で買えたか?...それは白虎という強い後ろ盾があったからだ

通常の進捗でその選択を選ぶと、のっぺらぼうにヤラれてGAMEOVERになるんだよな...

だがこのタイミングで強い神を降ろせていれば、のっぺらぼうを倒す事が出来て100万の損失で済むというプチ裏技だ




俺が差し出した黒と金を基調とした豪華に包装された箱を少し緊張し震える手で受け取る皆川先生...


皆川先生はジッと俺の方を見つめ...俺が黙って頷くと...


ゆっくりとシルク生地のリボンを解き手に掛け、梱包の合わせ目を梱包紙破らない様に慎重にテープ部を剥がして行く...


白い箱が現れ、皆川先生はゴクリと喉を鳴らしゆっくりと蓋を開ける...


「!?」


開けた瞬間大きく目を見開き中のイヤリングを手に取ると抱えていた梱包紙と箱が手から零れ落ちシルクのリボンも風に煽られスルっと皆川先生の手からすり抜け風と共に空へと飛んで行く


イヤリングを見つめながら感慨に浸る皆川先生をその場に残し、俺はそっと気付かれない様にその場を後にした...



『なぁ城二?なんで黙って去るんだ?あの女がお前を審査するんだろ、だったら恩を売るだけ売ったら良いじゃないか?』


「まぁそうだな、確かにそうすれば俺は秘境テストをクリア出来るかもしれないな...だがこの世界はどうなる?皆川先生は尊を強くする為に必要な人だ、ここで物語本編から脱落して良い人じゃない」


『だが、このままだとあの女教師お前に惚れるんじゃないのか?』


「はは、それは無いな」


城二と皆川先生には遺恨がある...それは1年目に仕出かした皆川先生の古傷を抉る様な発言が起因して皆川先生に半殺しにされる事件の事だ


その時は皆川先生の謝罪と3ヵ月の減俸という一方的な処分でケリがついたが、その影響で皆川先生は表面上は他の生徒と同じ様に接しているが、心の底では城二を憎んでる...様な事が背景として設定されていた


『だが今の女教師はお前の中身が城二では無く譲二だとしってるんだろ?』


「さてね、人間なんて物は早々簡単に割り切って考え方を変えれるものじゃない...事実、皆川先生は俺の言う事を信じず、周りの他の生徒達の噂を信じて俺が真白に無理強いしてると何処かで決めつけていた」


『ささいな事を...』



「些細じゃないよ事実だよ」



「まぁ俺は皆川先生にどう思われても構わんさ」




皆川先生には、尊を鍛えて強くして貰わなきゃこの世界のは終わるんだ...







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