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第55話 猫好き女子大生 再臨

〇5月12日 日曜日  北野 城二宅にて 



「城二様...少しお願いがありまして...」


部屋で明日のテストに向け勉強をしていると、珍しく道代さんが申し訳無さそうに俺にお願い事を言ってきた


「実は今日大学のサークルメンバーとレポートを纏める予定だったんですが、集まろうとしていた図書館が休館日で...」


「あぁ全然この家を使って頂いて構いませんよ?あ、もし僕が邪魔なら何処か外出して来ますけど?」


「ダ、ダメですよ!?城二様は明日大事なテストでは無いですか!?私達の方こそ城二様のお邪魔は決してしませんので...」


学科テストには自信があるし今もこうして勉強してるのは気分を紛らわす為なんだが...


「でも、それじゃレポートも捗らないでしょ?あ、何人来られるんですか?」


「えっと...私入れて3人です...本当に静かにするのでうるさかったら遠慮なく言って下さいね」


道代さんは俺に何度も何度も頭を下げてから、リビングへと来客用の準備をしに行った


(そんな遠慮しなくても良いのにな...)


前世の元カノである美千代も社交的で友人の多い女性だった、グループ活動では率先してリーダーを務めたりとアグレッシブな所も慕われる所以だった、道代さんにもそんな所があるのだろう


だが今回の様に自分の私生活範囲に友人を呼ぶ様な事は嫌っていた、あくまで学校では友人関係を大事にして、家に帰れば家族、恋人関係を大事にする...


そんな竹を割った様な性格の美千代だったからこそ仕事で忙しくなり同じ場所に棲んで居ながらすれ違って行った俺との生活に耐えれなくなったのかも知れない...


美千代には、もう少しそういう所で柔軟に考えて貰えたら...


「!?イカンイカン、美千代が出て行ってから「美千代がこうしてくれたら、あーしてくれたら」なんて事ばかり考えて、美千代に責任を押し付ける事ばかり考えて...時間が経って自分が悪かったって思える様になって反省したはずなのに、結局あの時から俺は全然成長して無いんだな...」


そう自己嫌悪に陥ってると...


コンコン♪


「城二様、友人がケーキをお土産にくれたのでコーヒーと一緒にお持ちしました」


振り返るとドアの前でケーキと湯気の上るコーヒーカップをトレーに乗せ現れた道代さんが居て先ほど思い出の中に現れた美千代と被被ってドキッとしてしまった...


「美千代...あ、いや道代さん有難う御座います...あ、お土産頂いたのに挨拶もしないのは失礼ですよね」


俺は道代さんからトレーごとケーキとコーヒーを受け取るとテーブルに置いて道代さんの後ろに付いてリビングへと向かった


リビングには道代さんのサークルメンバーである女性2名が座ってノートパソコンを前に打ち合わせをしていた...


「本日はようこそお起こし下さいました、お土産まで頂いて...何も無い所ですがゆっくりして行って下さい」


そう頭を下げ挨拶すると...


「あっれ―――城二君じゃん」


「あ~本当だ~この間ぶり~♪」


「あ...ええええ!音田さんと山吹さん!?」


「え?何?何?紗枝と薫ってば城二様と知り合いな訳?何で?はぁ?」


俺達を交互に見ながらアタフタしている道代さん...


「あ、いや北海道に帰省してた時に偶然に札幌護国神社で出会いまして...俺が連れていたコイツ...」


「ニャニャニャァァミシャァァ!」『コイツとは何じゃ!無礼な!!』


「きゃぁぁぁトラちゃぁぁん―――可愛っぃぃぃ!」


「トラちゃん~会いたかったぁ~やっぱキャワワ~♪」


二人はトラを見るや否や直ぐにトラの前に蹲り頬ずりしてモフモフを堪能し始めた


「二シャァァ!ニャニャニャァァ!」『こらぁぁ止めぬかぁぁ!』


山吹さんと音田さんのモフモフ&写真撮影会は小一時間程続いていたが...


「い――――加減に―――――しろぉぉぉぉ!!」


道代さんの怒号に冷や汗をかきながら正座する2名と一匹...


(いやトラお前もかい!)


「アンタたち何しに来てんのよ!!レポート提出が明日だって言うから集まってんでしょ!!」


「「はい...」」


「それに城二様は明日大事な試験があるの、それも言っておいたわよね!!邪魔したらたたき出すって!!」


「「はい...すいません...」」



「ま、まぁ...道代さんもその辺で良いじゃないですか...音田さんも山吹さんも悪気があった訳じゃ無いんですし、ね?」


「し、しかし...」


「あ、あぁ俺自分の部屋に戻って勉強するんでぇ皆さんも頑張って下さいねぇ」


そう言うと足早に自分の部屋へと戻って来た...ふとテーブルを見ると少し表面が乾燥した生クリームのショートケーキにすっかり冷めたコーヒーが...


・・・・・・勿論もったいないので美味しく頂きました



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・


「えぇ~やぁ~だぁ~!道代の部屋に泊めてよぉ~」


「トラちゃんと一緒にねるぅぅぅ!!」


「だぁ―――か――――ら――――ダメッつってんでしょ!!」


暫く静かだったので、再び勉強を再開して暫く経った頃再びリビングから女性達の話し声が聞こえて来た...


時計を見ると既に夜の21時になった様だ...俺は空になったカップとお皿をトレーに乗せてリビングに向かうと...


「あっ城二様...って!?もうこんな時間!!大変ご飯の用意を!!」


「あ、私達も手伝うよぉ~」


「うんうん任せて――――」


道代さんは少し表情を曇らせていたが、半ば強引に山吹さんと音田さんもキッチンに入って来た


(流石タワマンだな...改めて思ったけどキッチンも広いな、3人入っても余裕だな...)


実際にこの部屋も北野の実家が購入した物で明日明後日のテスト結果次第では出て行く事になる...


目の前でキャピキャピと楽しそうに会話をしながら料理を作って行く花の女子大生...美千代の女子大生時代も良くこうして俺の部屋に料理を作りに来てくれたよな...


ボ―――と様子を見ながら過ごしていると


『おい、儂への供物も用意してるのじゃろうな?』


トラが俺の肩に乗りキッチンの様子を伺っている


「キャワワァァトラちゃんのご飯は紗枝ちゃんが作ってるよぉ―――」


山吹さんは鮭の切り身をトラに見せる様に掲げると焼き網に乗せて焼き始めた...ジュ―と音がして香ばしい魚の焼ける匂いが部屋に充満する...


『肉が良かったのだがな...まぁ偶には魚で我慢するか...ジュル』


既に涎を垂らしているトラは待ちきれ無いのか俺の所とキッチンをウロウロと行ったり来たりして落ち着かない


「わぁぁトラちゃんお姉さん達のお手伝いしてくれるのぉ~偉いねぇ~」


音田さんも山吹さんもすっかりトラのお姉さんポジションに収まっていて終始眼尻が下がりっぱなしだ...


・・・・・・・・・・・・・


「頂きます」「「「頂きます」」」


4人と1匹で食卓を囲んで少し遅めの夕飯を頂く...


「音田さん、このグラタン美味しいです!ミートソースのグラタン初めて食べました」


「えへへへ、高校の時にバイトしてた喫茶店の名物を見様見真似で作ってみたんだぁ~」


「ねぇ城二君、紗枝姉さんの作った鮭のムニエルも食べて食べてぇ」


俺は山吹さんの差し出して来た鮭のムニエルを箸で一口取り口に運ぶ...


「うまい!サワークリーの酸味が効いてて凄く美味しいです!」


「にへっへ魚料理得意なんだよねぇ――――」


「...城二様、私の作る料理は美味しくないですか...」


二人を褒めていると急に道代さんが俯き泣き出した


「い、いやそんな訳ないですよ!?道代さんの料理はいつも全部美味しいですよ」


「うっうっ...ほ...本当ですか...?」


「勿論ですよ!」


「よったぁぁ嬉しいです城二様!」


フゥ―――女性3人が集まると華やかだが気疲れもするな...て、トラの奴とっとと食っていつまにか居ねぇし





――――――――――― 。




「そっかぁ―――城二君、明日テストかぁ―――それじゃ無理言って泊めて貰う訳にいかないかぁ―――」


「残念~トラちゃんまた会いに来るよぉ~」


「ニャァニャァミャァァ―――」『今度来るなら肉を用意せよ』


「ウンウン私も寂ちぃ――――」


「・・・・・・(知らぬが仏か・・・)」


――――――――――― 。



「では、城二様二人を下まで送って来ます。」


「またねぇ~」「おじゃしました―――」


「夜は危ないのでお気をつけて、また何時でもいらして下さい」


3人を見送り俺は自分の部屋へと戻る...机の引き出しからノートを取り出しページを捲り、5月13日に付けてる〇をなぞり





「いよいよ明日だな...」













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