〇祭壇内の空間
祭壇の中に入ったはずの俺は、今薄暗い空間の中に居た...
『城二聞こえるか?』
部屋の中に皆川先生の声が響く
「はい、聞こえます」
『了解だ私の方も聞こえている、今から神視試験の内容を説明する一度しか言わないから良く聞け』
「はい、お願いします」
『今からお前の目の前に神に降臨してもらう、神と言っても恐れる事は無い、土着神の土童子だ』
『そこで行う試験内容は至ってシンプル、目の前の土着神の姿がどんな姿をしているか直接目の前の神と交信して伝える...それだけだ』
「分かってます」
『そうか...では始めるぞ!ヤソマガツヒの神にかしこみかしこみ...和魂、土童子お出でませ!』
そう...俺は何度も魔都東京1999のゲームイベントでこの秘境テストと言う名のチュートリアルを経験してきている
当然だが、神視試験も何度もこなして来た...だが...
「あ、あれぇ?確かゲームで見た時は大きな老人の姿だったはず...なのに今見えてるのは俺の膝までしか背のない小さな子供?」
【へぇぇ僕の姿が見えてるんだね、それだけでこの試験は合格だよ】
「本当ですか!?」
小さな童子はニッコリと微笑み鼻の下を指で擦りながら頷いた
【ああ、僕の今現在の姿を見て正確に答えれた者は、その時点で合格者...そういう事にしてるよ】
笑顔でそう答えると俺に向かって拍手する
【君はとても面白いね――――帰る前に少し僕と話をしないかい?】
「話ですか?」
【そう君の降ろしてる神についてだよ】
これは最初から解っていた事だ...魔都東京1999プレイ中に今の進捗時点で尊がその身に降ろす事が出来るのは狛狗神のみだ
その際も土着神には狛狗神の事を見抜かれ先ほどの様な言葉を掛けられた記憶がある、ただその時は天井に届くと思われる程の巨大な老人の姿であったのだが・・・
(なんにせよ危なかった、神視の修練を積まずにこの場に来て、記憶で覚えてる知識だけで見えても無い土童子を大きな老人とかって答えたら不正解になり不合格になってた...)
「...トラ出て来い」
『はぁ―――やれやれこんな他所の神の匂いが強い所に呼び出しよって...』
【これは驚いた!?まさかとは思ったけど4聖獣の一角を降ろしていたとはね――】
土童子は興味深々な様子で同じ位の大きさのトラに近寄り彼方此方触って確認している...
【でも変だな?僕が感じた神の気配はもっと別の異質な感じがしたけど...】
『.........』
【・・・・・・・・・】
なんか急に二人...一人と一匹が静かになった
【・・・・成程、そういうカラクリでしたか...それで本人は全く気付いて無い訳ですね】
『まぁ時が来れば嫌でも判るだろうさ』
ようやく二人の会話が聞き取れた...どうやら話は終わった様だ
『城二、我は再び貴様の影を借りるぞ』
そいうとトラは俺の足元の影の中へと消えていった
【貴重な時間を有難う...他の神との対話等、数百年ぶりだった...呼び止めて済まなかったな綾瀬には私の方から上手く誤魔化しておこう】
「なにから何までお世話になりました」
おれはそう言うと入って来た祭壇から元の場所へと戻って行った...
「23番 合格だ」
ザワザワ...ザワザワ...
俺が出てくると同時に、皆川先生に合格を告げられ「うそだろ...」「インチキだ」「あり得ねぇ」など他の参加者も予想外の事でザワつく...
「真白」
俺は真白の前に手を翳すと
パン!
真白は俺の手を叩いて
「ん、城二良くやった努力の成果だ」
「あぁ、本当に真白には感謝してもしきれないよ...ありがとな」
誰に祝って貰えなくても、隣で真白が微笑んでくれたなら、それだけで頑張った甲斐がある
...結局、神視試験に合格したのは23組中 棄権2組 不合格11組 合格8組
半数以上が最初の試験で篩いに掛けられ落とされた、でもその方が良かったのかも知れない
「では10分後に番号の若いチームから秘境テスト開始だ、参加チームは集まれ―――」
俺達17名(1組だけトリオ)は皆川先生の近くに集合する...
「では秘境テストについて説明する...まず...」
〇————————ー秘境テストについて
秘境とは神が自らの神域を人域と繋ぐ為に作った領域だとされており、当然だが神の数だけ秘境も存在する
また秘境の中には、この世界では手に入れる事の出来ないアイテムや素材、貴重で高価な装飾品などが入手出来る事がある(完全に運要素)
そして秘境はその所有してる神の神格に応じて難易度が激変する、主神クラスが司る秘境はSランク、次いでAランク、B、C、と来てDランクが一番難易度が低くなる...とは言え各地に出現している秘境の殆どがDランクかCランク、Bランクともなると余程の家柄でないと保有してない
そしてAランクは殆ど国の管理だ、一部、個人資産として保有している家も有るが、15年前に国がBランク以上び秘境を国で管理する為に予算を組んで買い上げるという政策を打ち出し、各家がこぞって高ランクの秘境を手放し国へ譲渡した...噂によればAランクともなれば数千億になったとか...
当然だが一攫千金を夢見る者達がこぞって秘境へとチャレンジするがそう簡単には行かない
秘境の中には魔物と呼ばれる異形の化け物が生息しており秘境のランクに応じてその強さもランクアップしていく
しかし人々の欲望はそんなリスクすらも抑止力にならない...秘境攻略の為、神の力をより高次元で行使する為の修練「刑」を考案し「神憑依」を扱える様になると徐々に秘境探索で成果を出す者が増えて来た
そして人の成長は更なる高み「神衣」という高次元へと到達する
しかし、18年前に飛来した異界の隕石の影響により秘境の中に新たなる未知の敵「偽神」が出現する事になる
偽神はその姿様々で、人馬の様な形態や大きな蠍の様なモノ、異形の角を持つ牡牛の様なモノなどが目撃されてる形態は数種類に及ぶ
さらに厄介な事に偽りの神の由来の通り、神の力の行使力が通常の魔物に対してより大きく削られる事になるのだ...その為に突如として秘境内に出現した偽神により多くの人命が失われるケースが続出する事になった
そして最も最悪なのが、偽神は魔物と違い秘境側から人域に(つまり人の住む世界)へと這い出てくる事が可能な事だ...その為、各地で偽神による襲撃が散発し人々の生活を脅かしているのだ
そして今回の秘境テストで使用されるランクは最低ランクのDランク...最も一般的で危険度もそれほど高い物でもない
今回のテストはこの秘境の最深部にあるアイテムを手に入れ転移宝珠で戻って来ると言う至ってシンプルな内容だった
「Dランクとは言え油断するな、道中にはトラップや低ランクとは言え魔物も出現する気を引き締めて望め」
皆川先生は参加メンバーである8組を見渡し
「質問が有れば聞こうか」
すると天音さんが手を上げ
「はいはぁ―――い、綾瀬っちに質~問~」
「...池上か?何だ言って見ろ」
「えぇ―――と、この秘境の中に偽神は居ますかぁ~?」
他の参加メンバーが偽神の名を聞いてザワザワ騒ぎ始める
「静かにしろ...池上良い質問だ、だが安心しろこの秘境の偽神は既に封印済みだ害は無い」
「ラッキー♪偽神が相手だと危ないもんねぇ~♪」
「他に質問は?」
「はい...」
手を上げたのは藍瑠だった...
「ん?宮下か...なんだ言って見ろ」
「はい、最低ランクの秘境とは解っているんですが最深部まで行かなきゃ転移宝珠で戻れないんですか?」
藍瑠の心配は尤もだ...その辺を考えて無かったメンバーも居たようで再びザワザワする
「その辺は心配するな、私がこの祭壇前に居る限り秘境内の様子は把握できる様になっている、お前達に危険が迫る前に此方に帰還させられる仕掛けもしている、大丈夫だ」
おぉ――――
メンバーから安堵とも感嘆とも受け取れる声が漏れる
「もう質問は無いか?...では番号の早い順から秘境攻略開始だ!」
そう言うと先ほど入って行った祭壇の奥に白く輝く亀裂が現れ空間に扉が出現した...
(いよいよか...ここが正念場、気合入れて行くぞ!)