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第63話 紅き拳

〇東光高等学校 郊外施設 秘境 管理ランク[D]第五階層闘技場





なんかトラと真白の間で勝手に話を付けられてしまい、背中を押される様に一人ビッグオークの前に立ってしまっている...


「あ、あは...は...は、や、やぁ...あ、相変わらず...イケブタだね」


初めて直接見る魔物を見上げ自分でも訳の分からない事を口にしてしまう...


ブゴォォォ!!


ビッグオークは高いとこから叩き落されかなりご機嫌は斜めの様だ俺の渾身の愛想笑いも効果が無い


のっぺらぼうの時は白虎であるトラを神憑依していて明らかに此方がオーバースペックである事を自覚して余裕だったが今はそんなオーバースペック等無く丸裸状態だ...


怒り狂うビッグオークの振り下ろす棍棒が俺の頭上へと襲い掛かる


「くっ!!」


後方へ飛び退きなんとか直撃を撒逃れるが棍棒が地面と衝突した衝撃で砂埃と小石が舞い上がり俺のコメカミ付近をかすめかすかに痛みを感じる...


右のこめかみに生暖かい感触と共にズキズキと響く痛みを感じ、自然と俺の表情も歪む


チラリと真白とトラの方を見たが真白の様子は全く変化が無い、闘技場の壁際に静かに立ち尽くしこちらの戦況を黙って見守っている...


(いや冷静になれよ譲二...お前はこんな初期イベント百回以上経験してるだろ?)


そうだ...目の前で直接見えてる大きな体の化け物にビビってるだけだ...


こんな奴に苦戦するとかあり得ない...トロフィ100%の称号が泣くぞ



『ほう...ようやく落ち着いたな』


「ん」


フゥ――俺は深く息を吐きだすとビッグオークの真正面に立ち腰を落とし拳を引き正拳突きの構えを取る


ビッグオークは口から涎を撒き散らしながら棍棒を振りかぶり俺に向かって突進してくる


ヒュッ


短く息を吐きだし体の芯を横にズラし棍棒を鼻先ギリギリで躱すと、そのまま体を回転させながらビッグオークの懐に潜り込み鳩尾に正拳突きを放つ


「うぉりゃぁぁ」


!?


一瞬だが俺の拳が周りが赤く光った様な...ドゴッ...


鈍い音と共に俺の正拳突きがビッグオークの鳩尾にめり込み、ビッグオークの背中が弾け肉と血飛沫が飛び散りボーリング位の穴が穿たれる...


ビッグオークは前のめりに倒れながら絶命し黒い霧となり霧散して消えた...


「今の赤い光は...」


自分の拳を見つめながら茫然としていると、トテトテと音がしてきそうな足取りで真白と真白の頭に乗っかたトラが駆け寄って来た


『城二、確かに以前よりは成長はしてる様だ』


「ん、ブイブイ」


真白は笑顔で俺に向け両手でブイサインをして見せる


「あ、あぁこれも真白とトラのお陰だな...」


『ほう...珍しく殊勝だな今日の供物は期待してよいのだろうな?』


「ん、私はキングホストの特大メロンパフェ」※キングホストは全国チェーンのファミレス


「現金な連中だな」


俺達は解除された石壁の向こうにある扉を明け奥へと進んだ...



・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


先に進んで行くと祭壇の前に二人の男女とその横で立ち尽くす男性の姿が見えた...


「トラ」


『わかっておる』


俺はトラを自分の足元の影に隠し、祭壇の前で何やら話をしている3人の元へと向かった


「だぁ―――か―――ら―――先にいんちょーを連れて戻ってって言ってんじゃん!!」


「はぁ?聞き分けねぇ女だな、お前こそ先に戻れよ!」


「イヤイヤ、普通に分かんない?いんちょー抱えて転移出来んのはアンタだけって話してんのよ!」


言い争いをしているのは先に入ったはずの藤堂と天音さんだ、二人はお互い顔を見合わせて怒鳴りあっている


その横には右腕と右足を負傷したのか葛西君がボロボロの状態で立ち尽くし二人の方を申し訳無さそうに見つめている


そして祭壇を前にして言い争いを続けてる二人の横にぐったりと座り込んだ青木さん



「なぁどうした?二人とも」


「!?」


「あ、城二っちとマシロン!二人も無事此処までクリアしたんだぁぁやるぅ!」


「ちっ、女のケツに隠れて漁夫の利たぁ良い御身分だな!」


相変わらず藤堂の俺への評価は最低らしい...敵意を隠そうともせずに俺の事を睨み付ける


「まぁそれは置いとくとして青木さんと葛西君はどうしたんだ?」


俺はギャンギャン嫌味を言ってる藤堂を無視して葛西君の方に視線を向けるとバツが悪そうに視線を下に向ける


「あぁ―――ねぇ―――いやねさっきのボス部屋でね豚さんの魔物と戦ったでしょ?」


「ん?ああ、ビッグオークの事な?それが?」


「へぇあの豚さんそんな名前なんだぁ~...て、そんな話じゃ無くて私と時哉も当然倒して此処に来たんだけどね、いんちょーとカサリン(葛西君の事)は倒せなかったみたいでさぁ」


「ん?倒せなかった?じゃ何でリタイアじゃないんだ?」


「それがねぇ―――」


天音さんが憐れむ様な目を葛西君のほうへと向けると、葛西君は拳を強く握り唇と強く噛んだ


「ねぇカサリン今正直に言わなくても、ここから出たら綾瀬っちにはバレちゃう訳だからさぁ」


優しく葛西君にそう話かける天音さん...しかし葛西君は中々喋ろうとはしない...そんな時


「コイツはな、お前と同じでズルしやがったんだよ!」


藤堂が蔑む様な目で葛西君を睨み付ける...そんな藤堂の視線に耐え切れないのかガタガタと震え出す葛西君


「ズル?まぁ俺と同じとか言うのは置いといてどう言う事?」


「コイツ、サポートアイテムの持ち込みを禁止されていたにも関わらず、マジックピッキング(魔法の万能鍵)をポケットに隠し持っていて岩で塞がれていたボス部屋の扉を強引に突破しやがったんだ!」


「...(確かにアイテムの持ち込みは禁止、見つかったら即退場に加え学科の点数も没収だったはず)」


「そしてコイツは突破出来た事に気を取られて、背後でクソ豚に追われてる委員の事を放置しやがったんだ、男の風上にも置けない卑怯者だ!」


藤堂の言葉に顔を青くして俯き項垂れる葛西君...だが藤堂の言う事が事実なら擁護しようもない...しかし‥‥


「青木委員長はクソ豚の一撃を背中にモロに喰らって...そんでもってコイツは背後から殴り飛ばされた委員長と追突して...今のこの有様ってわけだ!」


「二人が負傷した理由は解ったけど、それで何で藤堂君と天音さんが揉めてるの?」


「はぁ?てめぇ何、天音の名前を気安く...「あぁ~それねここの転送装置ね一気に二人迄しか転送出来ないのよね」


「はぁ?んな事、最初から判ってんだだからお前と青木で先に戻れっつってんだろ!!」


「イヤイヤだから女の私にいんちょー抱えてなんて無理だし!何度も同じ事言わせないでよ!それに時哉とカサリンを二人にしたらアンタ、カサリンに何するか分かんないじゃん!」


「はぁ――――てめぇ俺がそんな乱暴者に見えるのか!」


「むしろ、乱暴者以外に見えないですぅ~」


(ダメだこりゃ...)


チョンチョン...俺の服の袖を誰かが引っ張る


「どうかしたか?真白」


真白は俺の耳元に顔を近づけ手で覆いながら小声で話を始めた


コホン!


俺はワザとらしく咳払いすると言い争いをしていた二人が俺の方を向く


「では、こういう順番はどうだ?まず葛西君と藤堂君が先に転移、次に天音さんと真白が転移、そして最後に青木さんと俺が転移...これでどうだ?」


「...まぁそれなら...」「まぁ時哉も皆が見てる前なら乱暴も出来ないでしょうしナイスだよ城二っち!」


そうと決まれば俺と真白は祭壇に置かれてる結晶を手にして転移宝珠の周りに集まってる他のメンバーに合流する


おれはふと祭壇の横の石像に目を向ける


「あぁ~城二っち気になっちゃう系ぇ~」


「ん、あれは封印された偽神だよ~、大丈夫動かないから♪」


(皆川先生が言っていたあれか...まぁチュートリアルでも偽神についての説明で、モニュメントが飾って有ったけどその代わりかな?だがチュートリアルでは何故か石像が動き出して秘境脱出のミニゲームが始まんだよな...今はマジ勘弁だがな)


何か不安な気持ちを抱きつつも、宝珠を起動させた藤堂とその肩を借りて立っている葛西君の方を向き


「北野ぉぉ、てめぇ判ってるだろうが天音に手を...」



藤堂くんは俺に向かって何かを言いかけたが、転移の魔法陣の光に呑まて行った





「さぁ次は天音さんと真白の番だ...」








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